「瑞希、もう帰るだろ」

 玲望が近くに寄ってきた。

 それはなんだか甘えるようなもので、それも常にはあまり見られないものだった。

「ああ。……あっ、悪い、ちょっと職員室に寄ってくる。鈴木先生に報告がてら、コレ、差し入れるから」

 顧問の鈴木教諭は様子を見てくれていたものの、途中で用事があるからと抜けていたのだ。

 だから今日の活動の報告をする必要がある。

 そして成果を見せるためにも、焼き菓子を差し入れてこようというわけだ。

「そうなの。結構かかる?」

「いや、十分くらいで終わるよ。詳しいことは部で今日のことをまとめてからになるから」

 今日の反省会を、明日おこなうことにしていた。

 今日の実習から本番に生かせるようにしなければならない。

 だからまとめは明日なのだ。

「じゃ、待ってる」

 玲望はそれだけ言い、家庭科室を出ていった。

 その様子はまるで猫のようだった。

 くっついてきたと思ったら、ふいっと離れていく。

 玲望がそんな性質で様子なのは常からだけど……。

 いや、気のせいだろ。

 気を張って疲れてるのかもしれないし。

 瑞希はそう思って、自分の荷物も片付けて、最後に家庭科室を出た。

 きちんと戸締まりをする。

 そして職員室に向かって、無事鈴木教諭に報告と差し入れをした。

 鈴木教諭は焼き菓子をすごく喜んでくれたし、活動も褒めてくれて平和に終わったのだけど。

 平和に終わらなかったのはそのあとだったのである。