「じゃあなんで口に咥えたりしてたんだ」

 もうひとつの疑問を口に出したが、瑞希のその疑問はあっさり回答された。

「ああ、みるいほうがうまい餅になるから」

「みるい……?」

 聞いたことのない言葉である。

 首をかしげた瑞希に、彼は一瞬きょとんとしたものの、すぐに補足してくれた。

「え? ……あー、方言だったか。やわらかいとかそういう意味」

 そして静岡のほうの方言なのだとか、少し解説してくれた。

 それはともかく。

「ばあちゃんちに行ったとき初めて作り方を教えてもらって……こうして確かめるもんだって」

「はー、なるほどね」

 つまりやわらかさを確かめるために噛んでいたのだと。

 これで謎はすべて解決した。

 話が一段落したあとに、彼は聞いてきた。

「ヘンだと思ったか?」

「そりゃあ……まぁ、変わってはいるよな」

 そこは否定できない。

 正直に言った瑞希に、彼は苦笑いした。

 自覚はあるのだろう。

「そうだろ。だから黙っててほしいんだよ」

 格好がつかないからだろうか。

 そのときはそう思った瑞希だったが、それは確かにその通りだった。

 が、彼……この日、別れるときにやっと名乗り合った名前、玲望。

 玲望が『貧しい生活を表に出さないようにしている』方針であることを知るには、あともう少し時間が必要だった。