自分のこと。

 自分で思うより、玲望のほうがよくわかっているのではないかと。

 そんなはずはない。

 自分のことなんて、自分が一番わかっているもので当たり前だ。

 ただ、確かに、自分では認識できない領域。

 そういうものは、誰の中にも確かに存在する。

 では、その、自分の中にある、自分では見えない『それ』はなんなのだろう。

 玲望はわかっているのかもしれない。

 聞こうかと、口を開きかけた瑞希であったが、それより早く玲望が言った。

「聞かせろよ、着いたら」

 それは、玲望の口から言ってくれるものではなかった。

 自分で見つけろ、というもの。

 聞かれてもちゃんと答えられなかったのに、海にたどり着いたとき。

 たった一時間や二時間だろうが、それだけでわかるものだろうか。

「ほら! さっさと行くぞ。これじゃ着くのが何時になるかも知れねー」

 今度、腕を引っ張られるのは瑞希のほうだった。

 玲望はさっさと立ち上がって、ぐいっと引っ張って、瑞希も立ち上がらせてくる。

 ちょっとよろけつつ、瑞希も引かれるままに立ち上がった。

「……わかった。行こうか」

 とりあえず、今の返事はこれだけ。

 あとは、走っている間に考えるだけだ。