「凜~!帰ろうぜぇー!」
「あっ、うん…」
いつものように、悠真が声をかけてくれて俺の席まで来る。
けど今日は朝から調子が悪くて、もう既に立ち上がるのがやっとなくらい悪化してるのが自分でもわかった。
休めば良かったのに、もうすぐ卒業だから悠真に会えなくなるのが嫌で無理したとか、そんな事言えない。
立ち上がるとちょっとフラっとしたが、何とか悠真と一緒に下駄箱まで行って靴を取り、頭を上げると一気に視界が揺れて自分が落ちていくのがわかった。
そして地面に着く事なくふわっと何かに包まれると、朦朧とする意識の中で悠真と目が合った。
「ちょっ…凜っ!?」
「あ…わりぃ…」
「どぉした…!?大丈夫か!?」
「ちょっと…」
「顔色悪いよ?どっか具合悪いの?」
悠真に支えられて恥ずかしいとかそんな事言ってる場合じゃなくて、とにかく何とか自力で体勢を元に戻そうとすると、悠真の白い手が俺のおでこに触れて思わずビクッとした。
「だっ、大丈夫だからっ///」
「熱あんじゃん!?無理すんなよぉ…」
「うん…」
「ほら、立てるか?」
「…うん////」
悠真が俺の腰を支えてくれてやっと立ち上がると、俺の靴を出して上履きもしまってくれて、俺は悠真に支えられながら歩き出した。
外はすっごい寒くて、震えを我慢しようとしてもガクガクと震えて止まらない。
これ結構しんどいやつだと、今更無理した事を後悔する。
「おまえマフラーとかねぇの?」
「うん…ない…」
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
そう言いながら悠真は俺の首に自分のマフラーを巻いてくれて、暖かくて恥ずかしくてそして悠真の匂いに包まれて何だか凄く安心した。
「ありがと…」
「帰ったら早く寝ろよ?」
「うん…///」
足元がおぼつかないまま歩く俺は、真っ直ぐ歩けてるのかもわかんなくて、誰もいない方にふらつく俺の腕を悠真が掴み引き寄せられた。
そして、隙間もないくらいピッタリとくっついて、更に熱が上がりそうになる。
「…っ、ごめん///」
「いいから…ほら、手…繋ぐ?」
「ばっ、ばかっ!恥ずいだろっ…/////」
「そんなこと言ってらんねぇだろ?フラフラしてんのにぃ」
心配してくれてるだけだってわかってるけど、その優しさが俺には凄く嬉しくて同じくらい苦しい。
これ以上くっついてるのが恥ずかしすぎて、せっかく触れてる悠真の腕を無理やり振り解き、繋げない手を後ろに隠した。
熱も下がり、2日ぶりに学校に来た俺は屋上で一人昼休みをやり過ごしていると、久しぶりの悟から声をかけられた。
「悟…なんか、ごめんな?色々と…」
「ううん、仕方ないって!でも俺、振られても凜ちゃんの事好きだし♡」
「…そうかよ///」
「うん!友達としてね♡」
友達として…か。
そんなに簡単に割り切れるもんなんだろうか…
もし俺が悠真に思いを告白したとして振られて、それでも俺は悠真を友達として、今まで通り接する事が出来るだろうか。
例え俺がそれで良くても、悠真が受け入れてくれるとは限らないし、そんなの俺が耐えられない。
「凜ちゃん…?」
「ん!?あ、ごめん…」
「ねぇ、今悠ちゃんの事考えてたでしょぉ」
「はぁ!?違ぇし…っ///」
「凜ちゃんさ?悠ちゃんの事好きなんでしょ?何で告白しないの?」
「何でって…そんな簡単じゃねぇだろ…」
「もう卒業なのに…?」
「いいんだよ…っ、このままで…」
「そっかー、意外と上手くいくかもしんないのになぁ…」
「そなわけねぇだろ…」
あるわけない。
そんな事があったら、逆に俺がどうしていいかわかんねぇよ…
でもそうだよな…もう卒業。
振られたとしても今みたいに顔合わせることも無くなれば、諦めがつくってもんかもしれないけど…
「てか悟さ…最近、尚人と仲良いじゃん?」
「うん!あいつ俺の事好きなのっ!」
「え?そうなの!?」
「ふふっ…たぶんねー」
「たぶんかよ、にしてもすげぇ自信だな…」
2人で笑い合うとちょうど昼休みが終わる鐘が鳴り、俺らは慌てて食い散らかした物を回収して屋上から撤退しようとすると、物陰に隠れる人の姿が目に入った。
「え、悠…真…?」
聞いてた!?どっから…何の話を!?
いや、どの話にしたっておかしい事しか話してなかったろ…
せっかく下がった熱がまた上がって来たんじゃないかと思うくらい体が熱くなって、俺は二人を置いて屋上から逃げ出した。
昼休み、悟が屋上に行くのが見えたから後で俺も行こうと思って、売店でお昼を買ってから屋上に向かった。
すると聞こえてきたのは悟と凜の声。
話の内容的に完全に声をかけるタイミングを失ってしまうと、今度は俺の話をし始めたと思えば…俺に告白って…なに?
凜が!?俺の事…!?
買ってきたパンさえも食べるのを忘れたまま突っ立ってると、昼休みが終わる鐘が鳴り二人が動き出た。
慌てて隠れる場所を探せど、そんな所なんてなくて、物陰に身を潜めてはみたものの普通にバレた…
「え、悠…真…?」
「あ…えと…っ、二人が屋上行くの見えたから…」
「聞いてた…俺らの話…」
「あ…うん。けど…っ、えっ…?」
猛ダッシュで逃げ出した凜を例え引き止めたところで、何をどうしたらいいのか分からなくて、俺はただただ呆然とそれを見送った。
そして放課後、どうにか頭の中を整理したくて二人を呼び止め話を聞こうとしたが、凜は俺と目を合わせる事なく再び猛スピードで教室から出て行き、悟は俺に一言、ごめん!と言い残し凜の後を追って行ってしまった。
教室に残された俺はどうしていいか分からず項垂れた後ふと、尚人の事を話してたのを思い出し二年の教室へ急いだ。
「尚人…っ!ちょっといいか!?」
「ん?珍しいじゃん、どうしたんすか?」
「今日部活は?」
「ないけど…」
「助かったぁ…」
「なんか大変な事?」
「うん…さっき凜と悟の話立ち聞きしちゃってさ…」
「保住先輩と悟くんの事…?あぁ、悟くんが保住先輩に告って振られたって?」
「うん、それそれっ!それと凜が…俺に…?告白…とか…」
「えっ?マジ?」
「うん…しかも聞いてたのバレちゃって…」
「あぁ…まじかぁ…」
大きな体を小さく丸め頭を抱える尚人の姿に、俺は恐らく聞いちゃいけない事を聞いてしまったんだろうと確信した。
「なぁ…俺どうしたらいい?凜の好きってさぁ…その…あの好きって事だよな?」
「うん…そうだろうな…」
「俺…凜のことそんな風に思った事ねぇよ…」
「まぁ…そうだろうな…」
「尚人ぉっ!俺どぉしたらいいのぉ!?」
煮え切らない尚人の返事にモヤモヤして、尚人の両肩を掴みながら揺すると、少し迷惑そうな顔しながら今度は俺の肩に手を置いた。
「どうって、別にまだ本人から告られた訳じゃないんでしょ?」
「まぁ、それは…っ、そうなんだけど…でもあれはもう…」
はぁ…っと深いため息をついた尚人と俺の間に、少しの沈黙が流れる。
「気持ち悪いって思った?」
「…っ、んな事ねぇけどっ…でも俺はさぁ!?男と付き合うとかそんな…わかんねぇもんっ…」
「そりゃそうだよね…だからだろうけど、保住先輩はずっと隠し通すつもりだって言ってたらしいよ…」
「え?」
「ずっと普通の友達でいたかったんだと思う…」
なんでだろう…胸がズキって痛んだ。
凜が俺の事を好きっていう思いがどんなものか
、俺にはちょっとまだ理解できないけど、その純粋な思いを不意に俺が聞いてしまって、それが絶対に知られたくない事だったとしたら…
俺、凜の事めっちゃ傷つけたんじゃね?
俺…どうしたらいいんだろう。
「尚人さ…悟の事、好きなの?」
「えっ?あぁ…まぁ、うん…」
「なぁ、男が好きって…どんな感じ?」
「別に?普通の恋愛と一緒だよ?」
「え?」
「好きなもんは好き…それがたまたま悟くんで、悟くんが男だったってだけ」
「…そっか」
案外サラッと認めるんだな…
けど正直、その感覚は俺には理解し難いものがあったし、ただの男友達だと思ってた奴らが実はそれぞれ想い合ってた、なんてそんなの急には受け止められない。
でも、相手は凜だから…
ちゃんと考えなきゃって思った。
ちゃんと考えて、俺なりに答えを出さなきゃ…って。
次の日、あんな話を聞かれてしまった俺は悠真の反応が怖くて話は愚か、目も合わさず1日過ごした。
そして、こんな日に限って運悪く放課後先生に呼び出された俺は、用を済ませて一人教室に戻ってくると、そこには俺を待ち構えていたかのように悠真がいた。
まるで見えてないかのように無視して、荷物を掴んで教室から出ようとすると、案の定腕を掴まれ二人きりの教室に気まずい空気が流れる。
「おいっ、なんで逃げんだよっ…」
「なんでって…っ、んなの分かってんだろっ…」
「…っ、だけど俺…っ、まだちゃんと聞いてない…っ」
「は…?そもそも話すつもりなんかねぇからっ!離せよ…っ」
「じゃあっ…俺、ずっとお前に無視されたまんまかよっ…」
「…っ、それは…っ」
「俺はそんなの嫌だよ…」
何でお前がそんな顔すんだよっ…
俺だってこんな事になっちゃったのが苦しくて仕方ないのに、ただの友達でいられたならどんなに良かったかったか。
でももう戻れないんだよ!
俺は悠真の手を振りほどきダッシュで教室を出て行くが、そんなのお構い無しに悠真も俺を追いかけてきて結局靴箱の所で捕まってしまった。
「なぁ、俺ら友達だろっ!?このまま卒業するなんて俺、嫌だよっ」
「とも…だち…?そうだよ…っ、友達だよっ!お前からしたら俺はただの友達なんだろうけど俺は…っ」
そこまで言いかけて言葉を詰まらせた。
わかってたよ、当たり前だろ?
悠真は俺に対して、特別な感情なんてあるわけないんだ。
友達である事は俺にとって最高で最悪の言葉。
こんな事さえなければ、ずっと普通の友達でいられたのに…
でも友達である以上、絶対にそれ以上は期待できない事も同時に突きつけられた気がして、胸が苦しくて目の前がぼやけて、その場にしゃがみこんでしまった。
「ごめん…」
「なんで謝るんだよ…っ」
「俺っ…そういうのわかんなくて…」
「当然だろっ…だからもう、ほっとけよ…っ」
「でもっ…でも俺、凜の事好きだからっ…こんな風に離れたくねぇよっ…」
その言葉を聞いて胸がギューって痛くなった。
悠真の言う好きは俺の求めてる好きじゃない…
だけど俺を好きだと言ってくれた。
もうヤダっ…やめてくれ…これ以上かき乱さないでくれよ!
いっその事この場で期待も持てないくらい思いっきり軽蔑して、俺の事振ってくれたらいいのに…っ!
「悠真の好きって何…?俺はお前の事本気で…」
俺を上から見下ろす悠真を見上げながら悠真の腕を掴めば、明らかに戸惑う悠真に俺は突き放される覚悟をした。
「…っ、分かってる、分かってるよ。俺もめちゃくちゃ考えた。その…男同士のそういうのは正直よくわかんねぇけど…でも、結局辿り着くのは、どんな凜でも俺は凜が好きだって…俺はお前が好きだって事なのっ…だから…っ」
「だから…何?友達として仲良くしてって事…?」
悠真が俺を必要としてくれればくれるほど苦しい…
苦しくて苦しくて仕方ないっ。
どんなに悠真が俺の事好きでいてくれても、その好きだけじゃ俺は全然満たされない。
「友達が無理なら…俺っ、凜なら付き合える…と思う」
「は…?」
何言ってんの…?
絶対そんな事あるはずないじゃん…
考えすぎておかしくなったのか、お人好しにも程があるだろ?
付き合える…本来なら舞い上がるくらい嬉しい言葉かもしれないけど、下を向いたまま目も合わさない悠真の腕は少し震えてて、誤魔化すの下手すぎだろ?
もういいよ…悠真―――
「お前…無理しすぎだろ…」
「むっ、無理なんかしてない!ちゃんと考えて…」
「だったら…っ、だったら俺とキス出来んのかよ…っ!」
悠真の腕を掴む両手に力を込めて立ち上がり、わざと目を合わせるように下から覗き込み鼻を突き合せた。
「ほら…してみろよ」
「…っ、ま…」
明らかに動揺する悠真は目を瞑り俯きながら、俺の胸の辺りにトンっと触れた。
「は、ははっ…だろ?こんな事で動揺してたら付き合うなんて無理だろ…」
「ちがっ…急にはっ…そのっ…」
「お前…その先の事考えてる?」
「えっ…」
「出来んのか?俺と…」
明らかに動揺を隠せないでいる悠真は、俺から目を逸らしさっきの勢いはどこへやら、黙ったまま何も答えない。
「出来んのかって聞いてんのっ!!」
「…っ、わ、わかん…ない」
何言ってんだろ…俺…
自分で言いながら自分の首絞めて、悠真の事困らせて、だけどどっかで期待して…
いや、もういいんだ。
いっその事、立ち直れないくらい俺を軽蔑して、突き放してくらたらいい!
「悪りぃ…言いすぎた。無視してたことは謝る。けど…俺、こんなんだからさ…気持ち悪いだろ?…だから、今まで通り友達として仲良くは俺には無理かもしんない。だから…っ、ごめん…っ」
「おっ、おい!凜っ…」
掴んでた手を離し、溢れてくる涙を拭いながら悠真に背を向け学校を後にした。
卒業まであと、2週間―――
あれから凜に無視され続け、目すらも合わせて貰えない。
悟と凜は相変わらず仲が良くて羨ましくて、本当は俺も仲間に入りたいのにそんなことできる訳もなくて、クラスにいるのがしんどくなって、休み時間の度に尚人の教室に行ってため息をついていた。
「はぁ…」
「まぁた、ため息ついてるぅ」
「だってさぁ?俺も一緒に遊びたいんだもん…」
「遊ぼうって言えば?」
「言えるわけねぇだろ?無視されてんだから…」
一緒に遊びたいのに遊べないなんて、会話だけ聞いたら小学生みたいな悩みだ。
だけど俺は真剣に悩んでいる。
だってもう卒業まであと何日もないのだから。
「気まずいだけじゃない?」
「ん…俺ね?仲直りする為にどうしたらいいか考えたんだよ…友達がダメならマジで付き合ってみるってのもありかなって…」
「おぉ…」
「そんでこの前、凜に提案してみたの…」
「えっ、それで?」
「うん、じゃあキス出来んのか?って凜に言われて、ヒヨってさ…あぁ俺、やっぱダメかもって…」
「んぅ…」
ぱぁっと明るくなった尚人の表情は、一瞬にしてまた曇った。
尚人…お前だったら躊躇なくいけたんだろうな。
やっぱり俺は凜の事、普通の友達以上には思えないんだろうか。
だけど…
「最近な、凜と悟見てっと仲良いのが羨ましくてさ…距離感バクってるし、何かこう…モヤモヤするってか…やっぱ凜の事取られたくないっつぅか…」
「それって嫉妬?」
「うーん…なのかなぁ…」
「保住先輩の事好きなんじゃないの?」
「うーん…けど、相手にして貰えないせいで、完全に感情バグってんのかなぁとかさ…それにもう俺嫌われてるし?なんかオワコンじゃん」
凜の事は前から好きだよ…?
好きは好きなんだけど、俺にはその好きが何の好きなんだかもうわかんないんだよ。
「うーん、てかさ?」
「ん?」
「保住先輩に悟くん取られたくないから、さっさと引き離してよ」
「えっ!?無理だよそんなの…っ」
「悟くん、保住先輩の事好きなんだよ?」
「…っ、そう、だよな…」
悟は凜のことが本気で好きなんだ。
凜を悟に取られる…!?
そう思ったら何故か胸の奥がズキだと痛んだ。
相も変わらず憂鬱な日々が続いている。
溜息をつきながら荷物をまとめ、誰よりも早く教室を出ようとしたその時、誰かに腕を掴まれ引き止められた。
「待って、凜ちゃんっ!」
「ん…っ、なんだよ…」
「一緒に帰ろ…?」
「あぁ…うん、まぁいいけど…お前今日尚人は?」
「尚ちゃんは部活!」
「そっか」
ここ何日か部活のない日が続いてて、悟は尚人と帰ることが多かったせいか、特に用事もないくせに我先にと教室を出る癖がついてしまっていた。
「ねぇ…悠ちゃんと全然話してないの?」
「うん…」
あれからというもの、本当に全く話さなくなってしまった俺ら…
悠真が好きだという気持ちは未だ消えずに残っているけど、前より少し諦めにも似た気持ちになりつつある。
「悠ちゃんさぁ、ずーっと凜ちゃんの事見てるよ?」
「はぁっ!?見てねぇよ…っ////」
「見てるって…気にしてるよ?絶対。ねぇ凜ちゃん…このまま卒業しちゃっていいの?」
こんな思いのまま卒業なんて、俺だって出来ればしたくなかった。
だけど結局叶うことのない想い…
俺の気持ちが吹っ切れない限りどっちに転んだって辛い思い出だろ…?
「仕方ないだろ…」
「俺やだな…二人がこのまま離れちゃうの」
俺だって嫌だよ…
だけどどうしろって言うんだよ。
今更前みたいに仲良くなんて出来ない。
でも…本当にこのままでいいのか?
悟と別れていつものように歩き慣れた坂道も、一人きりじゃただしんどいだけ。
俺…やっぱり悠真が好きだ。
遂に卒業まであと一週間を切った。
前に悟に言われた事が気になって悠真に視線を向ければ、その度にかち合う視線に俺はドキドキしっぱなしだった。
俺の事、本当に見てんのかよ…
でも恥ずかしくてずっとなんか見てらんなくて、わざと目を逸らし外に視線を移した。
その日の放課後…
我先にと教室を出ようとした俺の前に悠真が立ちはだかり、無理やり腕を掴まれ屋上に連れていかれた。
「なぁ、凜…」
「…っ、んだよ…」
「あのっ…お、俺さ…また、凜と仲良くなりたいっ!ダメっ…かな…?」
真剣な顔をして何を言い出すのかと思えば、高校生の会話とは思えないほど幼稚なセリフに、思わず吹き出してしまった。
「ぷっ…なんだよそれ」
「なっ、笑うなよっ!結構真剣なんだから…」
「…ごめん」
確かに…今まで通りは無理と突き放したのは俺で、悠真は何も悪くない。
でも、俺があんなに煽ったのにも関わらず、今更また仲良くなりたいなんてどう言うつもり?
俺は悠真の本心が知りたくて、わざと突き放すように心がけながら話を聞いた。
「や、その…俺あれからどうしたらいいかわかんなくて。離れてからもずっと凜のこと気になって…だから…っ」
「気持ち悪くねぇの?」
「えっ…」
「お前の事好きなんだよ?恋愛感情で。前にも言ったじゃん」
「わかってるよ…っ!でもこのまま卒業なんて俺、嫌なんだよっ…」
「悠真…」
「ごめん…お前の気持ち知ってて、こんなの我儘だよな…でも頼む…っ!一生のお願いっ!」
顔の前で手を合わせ、おふざけ無しの真剣な悠真に心が揺れる…
俺も嫌だよっ…このままなんて本当は嫌だ。
平気なフリして突き放すように心がけても、やっぱり悠真と一緒にいたい気持ちが込み上げてくる。
「分かったよ、分かったから…」
「ほんと!?」
「…うん」
「はぁ、よかったぁ…」
一生のお願いだなんて言われて、突き放せるほど俺は強くねぇよ。
それに、そんなにも必要とされてるなんてぶっちゃけ照れくさくて、例え俺と同じ気持ちじゃなかったとしても、後ちょっとの短い間、楽しもうと決めた。
それから俺らは前みたいに休み時間を一緒に過ごし、一緒に帰り放課後遊んだりと、毎日悠真と一緒に過ごした。
たまに近くなる距離に戸惑ったり、思わず触れた手を隠してみたり、少し胸が苦しくなる事もあったけどそ、れでもやっぱり離れているよりはマシだった。
だけどその分…
好きの気持ちは増していった。
だから俺は決めたんだ。
卒業したらもう、会わないって…
卒業式当日、曇天の空模様に俺の気持ちも曇ったまま、友達のまま迎えたこの日を、友達のまま終える覚悟を決めた。
俺の想いは思いもよらない形で伝わってしまったし、悠真の思いも痛いほどわかってしまったから、改めて告白して振られるつもりもないし、もうこんな風に関わることも無くなるんだろうから、潔くこの恋心と一緒に、悠真とも今日でお別れだ。
滞りなく式も終わった放課後、卒業生は最後のお別れを惜しんだり、それこそ告白なのか男女が照れながら話したりしてるのをちらほら見かける。
モテる男子はもう既に制服のボタンがなかったりして、自分には無縁だと溜息をつき悠真を見れば、案の定ボタンなんか一つも残っていなかった。
「あーっ!悠ちゃんボタン残ってないじゃん!」
「ありとあらゆる所取られちゃったから寒みいんだけど」
「羨ましい限りですなぁ…ねぇ?凜ちゃん?」
「ん?あぁ、うん…このくっそ寒い日にご苦労さんなこった」
「うぅ、マジで寒みぃ…あっためてぇ~?」
「ほらおいで~♡俺があっためてあげるぅ~♡」
「うわっ!悟、重い…っ」
悠真の背中に飛び乗った悟をジロっと睨みつければ、挑発するように俺を煽ってくるから、諦めたように目を逸らし大きくため息を着く。
あんな風に、悟みたい絡むなんて俺にはできないしするつもりもないけれど、ボタンくらいは記念に欲しかったな…なんて思ったり思わなかったり。
未練タラタラだよな…
そしていつもの分かれ道。
悟と別れ、桜が満開に咲き誇るあの坂道を悠真と2人で歩く。
この坂をのぼり終えれば悠真ともお別れだ…
そしてこの気持ちも、今までの想い出と共にそっと胸の奥にしまっておこう。
「はぁ…とうとう卒業したな」
「そうだな…」
「卒業しても…会えるよな?」
「え…っ」
俺の気持ちを見透かしたように問いかける悠真は少し寂しそうで、胸がチクリと痛み気持ちが揺らぐ…
頼むからそんな顔で見ないでくれよ…っ。
坂を登り終え返事もまともに返せないまま、俺は悠真に別れを告げ背を向けて歩き出した。
「じゃあな…」
「凜…っ」
ここで振り返ったら俺の覚悟が鈍る。
だめ、絶対振り返らない!
そう思って足を止めることなく歩き続けた。