いやな予感がした。



 家に着いたのに、あたしに連絡しなかったのはどうして?

 こんな時に、外に出るのは危ないってわかっているはずなのに、あえて夜に外出する意味は何?



 考えども考えども、答えなんて見つからなくて、そして脳裏に浮かぶのは、千歳色の気味の悪い顔。


 俺に任せてっていう千歳色の顔が、脳内でぐにゃりと歪む。



 藍を、守らないと。




「……あたし、藍のこと探します」

『え?』

「藍が帰ってきたら連絡してもらっても良いですか? 緊急の用事なんです」




 あたしは藍のお兄さんとの通話を一方的に切って、ほとんど衝動的に、スマホだけを持って家を飛び出した。


 玄関から外に出るとき、後ろからお母さんが、どこに行くの! と叫んできたけれど、あたしは咄嗟に、23時までに帰ってこなかったら通報していいから! と叫び返して、お母さんの制止を振り払って思い切り地面を蹴った。


 向かう先は、藍の家。


 藍が家の近くにいる保証なんてない。

 それに、藍が危ない目に遭っている、なんてことも、本当はあたしの考えすぎかもしれない。


 だけど、あたしのことを守ってくれる藍を、あれだけ色々な人に言い寄られてもあたしだけを見てくれる藍を、どうしても危険な目に遭わせるわけにはいかなくて、行き過ぎた行動かもしれないけれど、どうしても彼の安全を確かめたくて、必死に、走り続けた。