「由奈ちゃん、すごいよ。これ見て!」
比奈ちゃんがスマホに映り込んだツイッターのトレンドを見せてくる。
トレンドはおおよそが先ほどのスパーリングだった。動画は吾妻の公式と、スマホで撮影していた部員のやつが拡散されたものだった。それがさらに加工されて、テレビの衝撃映像風に作り直されている。
トレンドのキーワードを見た。
#吾妻散る #強すぎ美少女ボクサー #迷惑系公開処刑
……その他にも色々と先ほどのスパーリングを思わせる単語が並んでいる。
アンチが多いとはいえ、吾妻タツは腐っても格闘家だったので、喧嘩自慢の人たちと闘えば大抵は勝っていた。
そのため、なんだかんだ吾妻もプロだなとは言われてはいたものの、それが突如現れた無名のJKにいいところなくやられたのだから、ネットの人々にもそれなりに衝撃があったようだった。
あたしのパンチは俗に言うカミソリパンチというやつだけど、その威力や簡単にカットする性質が視聴者にとっては嘘くさく見えたようで、「グローブに武器を仕込んでいるに違いない」というコメントも散見された。
ごめんね。残念ながら武器なんか仕込んでいないんだ。
だってあたしは、ジャック・ザ・リッパーだからね。
パンチの質は神から与えられたギフトの類に入る。それは肉体が変わったところで失われるものではないのだ、ということが分かった。
「なんでここまで急に注目されたんだろうね」
「由奈ちゃん、それ、本気で言ってる?」
比奈ちゃんが驚愕の表情を浮かべている。あたし、何か変なことでも言ったんだろうか?
そんなあたしの疑問へ応えるかのように比奈ちゃんが続ける。
「吾妻タツって言ったらネットで超有名な人じゃん。それをあんな風に倒したら誰だって注目するよ!」
「うーん。まあ、パンチの軌道なんて全部丸見えだったしパワー以外には取り柄のない選手に見えたけどねえ」
実際に吾妻のボクシングスキルはひどかった。専門外とはいえ、パンチの打ちだしでいちいちワンテンポ遅れたモーションが入り、それがフェイントになっているわけでもない。
ボクシング界ではテレフォンパンチと呼ばれていて、その意味は「これからあなたにパンチを打ちますよ」と電話をかけているかのごとく動きが丸見えのパンチを意味する。吾妻タツのブザマなパンチはそれに類するものだった。プレバトにボクシング部門があったら間違いなく「才能ナシ」の烙印を押されているだろう。
あたしはそんなクソザコをカウンターでボコっただけ。
マトがでかい上に動きもノロいんだから、サンドバッグを殴っているのと大差なかった。
だから、あたしからすればあのスパーリング映像が流れたところで、それは衝撃映像でも何でもない。世界ランカーにネット有名人がボクシングで挑んだら何が起こるのかをそのまま示している映像に過ぎなかった。まあ、あたし以外にこの美少女の中身が世界ランカーだなんて誰も知らないわけだけど。
倒された吾妻は「しばらく自分を見つめ直したい」といって動画の更新をストップしている。あのスキルで本当に勝てると思っていたのか怪しいところだけど、それなりにショックだったみたい。それはやっぱりあたしが女子選手()だからってことだろう。
あたしも「俺」だった時代に女子選手と闘って負けたら切腹モノの屈辱を味わうと思う。男女では生物的な構造があまりにも違い過ぎるからだ。
とはいえ、ネットで吾妻は相当嫌われていたのもあり、それを一方的に殴り倒したあたしはネットの民からも支持を受けていた。
SNSのアカウントをあえて取っていないので比奈ちゃんのスマホから見せてもらったけど、世界中から「かわいい」とか「強い」とか「ニューヒロイン誕生」とか祝福のメッセージが流れていた。いいぞ、もっと褒めろ。
「由奈ちゃん、これを機にツイッターを始めてみたら?」
そんなことを提案されて、ちょっと気持ちが揺らぐ。
前の「俺」時代ではこういうSNSが大嫌いだった。チャラチャラしているように感じたし、プロの選手同士がガキレベルの喧嘩をネットで繰り広げているのを見てげんなりしていたからだ。
何よりも、ちょっとだけとアカウントを作った直後に差別的な発言をして大炎上したため、アカウントごと削除した苦い思い出がある。
でも、別にそういう変なことを発信しなければいいわけだし……。
あたしの心が揺れている。
やっぱり、チヤホヤされるのも悪くない。
今の状態って、転生ラノベで主人公が無双しまくってモテている状態に近いんだろう。
そういう流れって大体は陰キャの主人公が「やめてくれ」って言っているパターンが多い気がするけど、あたしは褒めてもらえるうんだったらどこまでも褒めてほしい。だって、ひどい言葉を浴びせられるよりは賞賛された方が嬉しいに決まっているじゃないか。
別に「おはよう」って呟くだけでバズらせるアイドルみたいになりたいわけじゃないけど、それでも自分のやっている活動が応援されるのは素直に嬉しい。
この際、調子に乗ってファンと交流用にSNSのアカウントでも作っちゃおうか。
……いや、やっぱりやめておこう。
どうせ毒を吐いて大炎上する。そんな未来が見えたからだ。
あたしは別に聖女じゃないし、なんなら本当の意味では女ですらないけど、それでも夢を見たい人には夢を見せ続けておこう、なんて思った。
転生したら炎上芸人でした、なんて風にはなりたくないしね。
比奈ちゃんがスマホに映り込んだツイッターのトレンドを見せてくる。
トレンドはおおよそが先ほどのスパーリングだった。動画は吾妻の公式と、スマホで撮影していた部員のやつが拡散されたものだった。それがさらに加工されて、テレビの衝撃映像風に作り直されている。
トレンドのキーワードを見た。
#吾妻散る #強すぎ美少女ボクサー #迷惑系公開処刑
……その他にも色々と先ほどのスパーリングを思わせる単語が並んでいる。
アンチが多いとはいえ、吾妻タツは腐っても格闘家だったので、喧嘩自慢の人たちと闘えば大抵は勝っていた。
そのため、なんだかんだ吾妻もプロだなとは言われてはいたものの、それが突如現れた無名のJKにいいところなくやられたのだから、ネットの人々にもそれなりに衝撃があったようだった。
あたしのパンチは俗に言うカミソリパンチというやつだけど、その威力や簡単にカットする性質が視聴者にとっては嘘くさく見えたようで、「グローブに武器を仕込んでいるに違いない」というコメントも散見された。
ごめんね。残念ながら武器なんか仕込んでいないんだ。
だってあたしは、ジャック・ザ・リッパーだからね。
パンチの質は神から与えられたギフトの類に入る。それは肉体が変わったところで失われるものではないのだ、ということが分かった。
「なんでここまで急に注目されたんだろうね」
「由奈ちゃん、それ、本気で言ってる?」
比奈ちゃんが驚愕の表情を浮かべている。あたし、何か変なことでも言ったんだろうか?
そんなあたしの疑問へ応えるかのように比奈ちゃんが続ける。
「吾妻タツって言ったらネットで超有名な人じゃん。それをあんな風に倒したら誰だって注目するよ!」
「うーん。まあ、パンチの軌道なんて全部丸見えだったしパワー以外には取り柄のない選手に見えたけどねえ」
実際に吾妻のボクシングスキルはひどかった。専門外とはいえ、パンチの打ちだしでいちいちワンテンポ遅れたモーションが入り、それがフェイントになっているわけでもない。
ボクシング界ではテレフォンパンチと呼ばれていて、その意味は「これからあなたにパンチを打ちますよ」と電話をかけているかのごとく動きが丸見えのパンチを意味する。吾妻タツのブザマなパンチはそれに類するものだった。プレバトにボクシング部門があったら間違いなく「才能ナシ」の烙印を押されているだろう。
あたしはそんなクソザコをカウンターでボコっただけ。
マトがでかい上に動きもノロいんだから、サンドバッグを殴っているのと大差なかった。
だから、あたしからすればあのスパーリング映像が流れたところで、それは衝撃映像でも何でもない。世界ランカーにネット有名人がボクシングで挑んだら何が起こるのかをそのまま示している映像に過ぎなかった。まあ、あたし以外にこの美少女の中身が世界ランカーだなんて誰も知らないわけだけど。
倒された吾妻は「しばらく自分を見つめ直したい」といって動画の更新をストップしている。あのスキルで本当に勝てると思っていたのか怪しいところだけど、それなりにショックだったみたい。それはやっぱりあたしが女子選手()だからってことだろう。
あたしも「俺」だった時代に女子選手と闘って負けたら切腹モノの屈辱を味わうと思う。男女では生物的な構造があまりにも違い過ぎるからだ。
とはいえ、ネットで吾妻は相当嫌われていたのもあり、それを一方的に殴り倒したあたしはネットの民からも支持を受けていた。
SNSのアカウントをあえて取っていないので比奈ちゃんのスマホから見せてもらったけど、世界中から「かわいい」とか「強い」とか「ニューヒロイン誕生」とか祝福のメッセージが流れていた。いいぞ、もっと褒めろ。
「由奈ちゃん、これを機にツイッターを始めてみたら?」
そんなことを提案されて、ちょっと気持ちが揺らぐ。
前の「俺」時代ではこういうSNSが大嫌いだった。チャラチャラしているように感じたし、プロの選手同士がガキレベルの喧嘩をネットで繰り広げているのを見てげんなりしていたからだ。
何よりも、ちょっとだけとアカウントを作った直後に差別的な発言をして大炎上したため、アカウントごと削除した苦い思い出がある。
でも、別にそういう変なことを発信しなければいいわけだし……。
あたしの心が揺れている。
やっぱり、チヤホヤされるのも悪くない。
今の状態って、転生ラノベで主人公が無双しまくってモテている状態に近いんだろう。
そういう流れって大体は陰キャの主人公が「やめてくれ」って言っているパターンが多い気がするけど、あたしは褒めてもらえるうんだったらどこまでも褒めてほしい。だって、ひどい言葉を浴びせられるよりは賞賛された方が嬉しいに決まっているじゃないか。
別に「おはよう」って呟くだけでバズらせるアイドルみたいになりたいわけじゃないけど、それでも自分のやっている活動が応援されるのは素直に嬉しい。
この際、調子に乗ってファンと交流用にSNSのアカウントでも作っちゃおうか。
……いや、やっぱりやめておこう。
どうせ毒を吐いて大炎上する。そんな未来が見えたからだ。
あたしは別に聖女じゃないし、なんなら本当の意味では女ですらないけど、それでも夢を見たい人には夢を見せ続けておこう、なんて思った。
転生したら炎上芸人でした、なんて風にはなりたくないしね。