「彩花の過去を知りたい。でも、その先に何が待っているのか、考えると恐ろしい。」修は、彼女の存在が自分に何をもたらしているのか、整理できずにいた。彼女がかつてのようにそばにいてくれることを望む一方で、過去の傷が彼を押しつぶそうとしている。
日々、彩花のことが頭から離れなくなった修は、彼女の行動を観察することに決めた。仕事の合間に、彼女の足取りを追うような形で、彼女の周囲の人々との接触を試みた。彩花がどんな風に生きているのか、その生活を少しでも知りたいという気持ちが強まっていた。
友人や知人に連絡を取り、彩花の近況を尋ねる日々が続いたが、彼女のことを知る手がかりはほとんど得られなかった。彼女は、どこか隠れた存在になっているようで、過去を封じ込めたまま生きているのではないかと感じた。
修は彩花との時間を増やし、彼女の現在の生活について少しずつ知っていく。仕事の話や趣味について語る彼女は以前と変わらず、穏やかで笑顔を見せていた。しかし、10年前の出来事に関しては依然として口を閉ざし、何も語ろうとはしなかった。
修は彼女が何かを隠しているという確信を持ちながらも、彼女が話す準備ができるまで待とうと心に決めた。しかし、日常的な会話の中でも、彼女の態度にどこかぎこちなさを感じ取ることが多く、修の不安は日に日に増していった。
そんなある日、修は彩花のアパートの前で不審な光景を目撃する。彼女のもとに現れた男と、彩花が何か激しく言い争っていた。男の表情は険しく、彩花も普段見せる落ち着いた姿とは違い、強い緊張感を漂わせていた。
修はその場で一瞬迷ったが、いても立ってもいられず、彩花に近づこうとした。しかし、彼女は修に気づくと慌てて男とのやり取りを終わらせ、何事もなかったかのように振る舞った。「大丈夫?」と修が声をかけたが、彩花は「問題ない」とだけ言い、すぐに話題を変えた。
彩花の様子が明らかに普段と違っていたことに、修は強い違和感を抱いた。彼女は明らかに何かに巻き込まれているのだ。しかし、彼女はそのことを話そうとはしない。彼女が何かから逃れようとしているように感じた。
それ以来、修は彩花の周囲に不穏な空気を感じ取るようになった。彼女は以前よりも警戒心を強め、外出する際にも誰かに見られているような仕草を見せることが多くなった。修は彩花が抱えている問題が、ただ事ではないことを確信する。