劇場外には「本日千穐楽」の垂れ幕が下がり、会場外には「満員御禮」の看板も立った。歓声に包まれた3度のカーテンコールを終え、郁斗は楽屋に向かう。
全てやり切った。郁斗は胸を張ってそう言い切れる。壇上で渡された花束を持ち廊下を進むと、道中多くのスタッフが拍手を送る。郁斗はにこやかに笑顔を向け楽屋へと急いだ。
上3人の時を考えれば既に歩は楽屋にいる筈だが、誰もいなかった。もう帰ってしまったのだろうか、と郁斗の胸がざわついた。
とりあえず衣装を脱ぎ、メイクを落として思案する。大阪にはマネージャーもおらず、完全に1人で来ていた。だから、座席にいる歩を迎えに行く人は多分いない。関係者チケットを渡しているから、ここに来られるようになっているのだが。
歩のことだから、迷っているのかもしれない。
——でも入れ違いになったら……まずシャワーを浴びてからでも
いや、そんなのは言い訳だ、と自分を鼓舞して楽屋の外に出る。
こんな時でも歩のお世話係は俺らしい。
複雑な造りの会場内を歩き、帰っていく観客を関係者エリアからそっと覗く。流石にこの先は郁斗が出て行って良い場所じゃない。ここまで来るのに歩ともすれ違っていないし、スタッフも誰一人として見かけていないと言っていた。
「それで……歩くん——」
ざわめきの中から聞こえた1人の女性の声にピクリと脳が反応する。目を凝らして観客の間を一つ一つ見ていくと、歩が観客と思しき若い女性を話しているのが見えた。2人の距離も近い。
——嫌だ
郁斗は気が付くと観客がいることも構わず関係者エリアから飛び出し、人の合間を縫って真っ直ぐに歩の方へ行き、手首を掴んだ。
「行くよ……!」
「え、あゆ……」
一斉に注目する観客たちにいつものアイドルスマイルを振りまくことも忘れ、歩の手を引いて関係者エリアに戻った。
全てやり切った。郁斗は胸を張ってそう言い切れる。壇上で渡された花束を持ち廊下を進むと、道中多くのスタッフが拍手を送る。郁斗はにこやかに笑顔を向け楽屋へと急いだ。
上3人の時を考えれば既に歩は楽屋にいる筈だが、誰もいなかった。もう帰ってしまったのだろうか、と郁斗の胸がざわついた。
とりあえず衣装を脱ぎ、メイクを落として思案する。大阪にはマネージャーもおらず、完全に1人で来ていた。だから、座席にいる歩を迎えに行く人は多分いない。関係者チケットを渡しているから、ここに来られるようになっているのだが。
歩のことだから、迷っているのかもしれない。
——でも入れ違いになったら……まずシャワーを浴びてからでも
いや、そんなのは言い訳だ、と自分を鼓舞して楽屋の外に出る。
こんな時でも歩のお世話係は俺らしい。
複雑な造りの会場内を歩き、帰っていく観客を関係者エリアからそっと覗く。流石にこの先は郁斗が出て行って良い場所じゃない。ここまで来るのに歩ともすれ違っていないし、スタッフも誰一人として見かけていないと言っていた。
「それで……歩くん——」
ざわめきの中から聞こえた1人の女性の声にピクリと脳が反応する。目を凝らして観客の間を一つ一つ見ていくと、歩が観客と思しき若い女性を話しているのが見えた。2人の距離も近い。
——嫌だ
郁斗は気が付くと観客がいることも構わず関係者エリアから飛び出し、人の合間を縫って真っ直ぐに歩の方へ行き、手首を掴んだ。
「行くよ……!」
「え、あゆ……」
一斉に注目する観客たちにいつものアイドルスマイルを振りまくことも忘れ、歩の手を引いて関係者エリアに戻った。