12月22日。大阪。ライブツアー始まりの地である。
早朝、広い会場ではステージが組みあがっていた。スタッフはまばらで、冷たい風が郁斗の頬を掠めた。歩も神田も、まだホテルで眠っている頃だろう。
郁斗と歩、神田は昨日の夜に大阪入りし、仲森と西園寺は今日朝一番の新幹線で現地入りする。それまで、あと数時間はある。集合時間はもっと後だ。朝食も食べずに、気づいたらここに来ていた。
今日の夜、全国から沢山のファンが来て、この会場を埋めにやってくる。
マネージャーの話によれば、想定以上の応募が来て、かなりの倍率だったそうだ。その内の何割がピンク色のペンライトを灯すのだろうか。夏のコンサートから、どれだけファンは増えたのだろうか。
窓から差し込む朝焼けの光だけが頼りの会場は、少しの作業する音だけが聞こえ閑散としていたが、確かな熱気が籠っていた。郁斗たち演者だけでなく、数多の人間がこのコンサートを作り上げている。そんな熱気が。
できることは全部やった。
郁斗の「揺らいだあざとかわいいキャラ」はファンの様子を見るに、「本当は男らしいけど、あざと可愛くいたいキャラ」という微妙な路線変更をした。本音をどの程度零すかという悩みも、やっていけば安定していくもののようだった。
これでいいのか、と思う反面「演じてる感がなくなって良い」「侑真と兄弟っぽい」という好感触なので、続行中だ。神田のお兄ちゃんキャラも見つかってきている。
それでも、このコンサートでは夢かわいいソロ曲を披露するつもりだし、歩と共に双子アピールも続けるつもりだ。2人で歌う曲もセットリスト入りしている。
この広い会場で、俺はどこまで自分のキャラが届けられるのか。
それを思うと緊張で全てを吐き出しそうになる。それでも湧き出てくる圧倒的な情熱と闘争心に、郁斗は突き動かされていた。
「あっ、郁斗くん!いたあ~!」
背後からよく響く声に振り返ると、歩が目に涙を湛えて会場の入口に立っていた。
「歩?」
「部屋からいなくなってたから……運転手さんに聞いたらここって……」
このコンサートツアーの宿泊は歩と同室だった。昨夜の歩は何やらアタフタとしていて、いつもの何倍も世話が焼けたものだ。
「まだ寝てて良かったのに。そんなに心配しなくても……」
そう言うと、歩は頬を膨らませてこちらにズカズカとやって来た。
「歩?」
どうしたの、と言う前にギュッと抱きしめられた。
「そんな訳にいかないでしょ。心配するし、郁斗くんいなくなったらやだよ」
グスン、と鼻を啜る音が胸の中でした。
「歩……ごめんね」
強く強く抱きしめてくる歩の背後に手を回し、背中をそっと摩った。冬の寒さも相まって、歩の体温がカイロのように郁斗を温める。
——俺はここにいるよ、歩
歩が泣くと、郁斗は心が痛い。
泣かないで、と思いながら郁斗は歩をそっと抱き締めた。
早朝、広い会場ではステージが組みあがっていた。スタッフはまばらで、冷たい風が郁斗の頬を掠めた。歩も神田も、まだホテルで眠っている頃だろう。
郁斗と歩、神田は昨日の夜に大阪入りし、仲森と西園寺は今日朝一番の新幹線で現地入りする。それまで、あと数時間はある。集合時間はもっと後だ。朝食も食べずに、気づいたらここに来ていた。
今日の夜、全国から沢山のファンが来て、この会場を埋めにやってくる。
マネージャーの話によれば、想定以上の応募が来て、かなりの倍率だったそうだ。その内の何割がピンク色のペンライトを灯すのだろうか。夏のコンサートから、どれだけファンは増えたのだろうか。
窓から差し込む朝焼けの光だけが頼りの会場は、少しの作業する音だけが聞こえ閑散としていたが、確かな熱気が籠っていた。郁斗たち演者だけでなく、数多の人間がこのコンサートを作り上げている。そんな熱気が。
できることは全部やった。
郁斗の「揺らいだあざとかわいいキャラ」はファンの様子を見るに、「本当は男らしいけど、あざと可愛くいたいキャラ」という微妙な路線変更をした。本音をどの程度零すかという悩みも、やっていけば安定していくもののようだった。
これでいいのか、と思う反面「演じてる感がなくなって良い」「侑真と兄弟っぽい」という好感触なので、続行中だ。神田のお兄ちゃんキャラも見つかってきている。
それでも、このコンサートでは夢かわいいソロ曲を披露するつもりだし、歩と共に双子アピールも続けるつもりだ。2人で歌う曲もセットリスト入りしている。
この広い会場で、俺はどこまで自分のキャラが届けられるのか。
それを思うと緊張で全てを吐き出しそうになる。それでも湧き出てくる圧倒的な情熱と闘争心に、郁斗は突き動かされていた。
「あっ、郁斗くん!いたあ~!」
背後からよく響く声に振り返ると、歩が目に涙を湛えて会場の入口に立っていた。
「歩?」
「部屋からいなくなってたから……運転手さんに聞いたらここって……」
このコンサートツアーの宿泊は歩と同室だった。昨夜の歩は何やらアタフタとしていて、いつもの何倍も世話が焼けたものだ。
「まだ寝てて良かったのに。そんなに心配しなくても……」
そう言うと、歩は頬を膨らませてこちらにズカズカとやって来た。
「歩?」
どうしたの、と言う前にギュッと抱きしめられた。
「そんな訳にいかないでしょ。心配するし、郁斗くんいなくなったらやだよ」
グスン、と鼻を啜る音が胸の中でした。
「歩……ごめんね」
強く強く抱きしめてくる歩の背後に手を回し、背中をそっと摩った。冬の寒さも相まって、歩の体温がカイロのように郁斗を温める。
——俺はここにいるよ、歩
歩が泣くと、郁斗は心が痛い。
泣かないで、と思いながら郁斗は歩をそっと抱き締めた。