何かがひび割れたような音がした。


 わたしが購買でミルクティーを買って教室に戻った時、成実(なりみ)就也(しゅうや)の表情は固まっていた。
 壁の時計は、無機質な動きで夕方五時半をさしている。

「……? どしたの、ふたりとも」

 先ほど遭遇した白昼夢みたいな出来事を話すのも忘れ、わたしは尋ねた。
 ふたりは答えない。熱々のミルクティーの缶を握る手が、じんわりと汗をかく。

羽鶴(はづる)……」

 成実が見開いた目でわたしを見ている。
 色つきリップを塗った唇が震えて、まるでこの世にいるはずのない化け物を前にしているような。

「どしたのってば、成実。就也、何かあったの?」

 就也が甘く整った顔を強ばらせて、無言でスマホの画面を見せてきた。
 そこには、


【新世代声優育成企画・Arome CirCus(アロマサーカス)プロジェクト
 オーディション結果発表

 1.ラベンダー役:……
 2.ローズマリー役:……
 ……
 13.ジュニパー役:小山内(おさない)羽鶴(長野県プリューム養成所)】


 ゴトン、と勝手にミルクティーが手から離れて床に落ちた。
 目の前のことが信じられなくて、口元が勝手に引きつった。
 成実と就也は、依然わたしを見つめている。

 その時に感じた、氷の針みたいに冷たい空気を。
 その時に向けられた、成実と就也の視線を。
 わたしはたぶん、一生忘れないだろう。

 頭の中で、

 何かがひび割れたような音が、

 ……した。