新学期が始まって3ヶ月。温かい春の陽射しが畳まれ、夏の到来へ向けて梅雨が幕を開けた。窓の外に広がる空は分厚い雲で隙間なく埋まり、今にも崩れてしまいそう。



「窓の外に何か面白いものでもありますか?」



声に釣られて前を見ると、英文が連なる黒板を背にした青山と目が合った。「すいません」と声に抑揚をつけずに謝ると、眼鏡の向こうにある冷ややかな視線が無言で逸れる。


愛想の欠片もない。


窓の外に何か面白いものでもありますか?って、アンタの単調な授業より窓に広がる曇天の方が余程面白い。そう言ってやりたい。


青山はこの春、東高に着任した英語教師だ。大学を卒業したばかりの23才。女子たちによると、今テレビで人気を集めているあの“クールなアイドル”に似ているらしい。Sッ気があっていいとか、あの眼鏡が色っぽいとか言っている。


私にはあれのどこがいいのか到底理解できない。無表情だから何を考えているのか分からなくて薄気味悪い。


でも、会うのは授業の時だけだし。


そう割り切っていたのに、新学期が開けて僅か1週間で担任が体調不良でやむなく休養することになり、代打として青山がこの2年1組の担任をすることになってしまったのだ。勘弁してほしい。