服を着替えて身だしなみを整え、朝食を食べて家族五人で家を出る。
専属の運転手がすでに控えている車に乗り込み、柔らかいシートに体を預け、ため息をつく。
「どうしたの、二葉?」
ため息が聞こえたのか、母親の茨木 咲(いばらき さき)が顔を覗き込んできた。
「…視察と言っても、お父さんが色んな人と話しているのを愛想笑いを浮かべて聞いているだけで、何も楽しくないんだもの。どうして私たちも一緒に来なきゃいけないの?」
隣で一葉や三葉も頷いている。
「そうね…あなたたちの気持ちも分かるけれど、訪問先の人々は私たちが訪れることを本当に喜んでくれているわよ。少しだけ辛抱しなさい。」
「はぁい…。」
母親に優しく諭されては敵わない。私はしぶしぶ頷いた。