「榛名様…でしたっけ?の方?」
『うん。榛名ちゃんよろしく〜』
「はい。紅葉様、手を失礼しますね」
榛名は両手で包むように紅葉の手を握ると体が虹色の光る。
「あ…」
(なんだか優しい光…心地良くて癒される)
榛名は手を離す
「終わりました」
「?」
『神子になれるって事は神通力があって、神通力を持つなら能力が発揮できるって話したでしょ?榛名ちゃんの能力は癒やしの力なんだ。だから紅葉の傷や怪我も治してくれたんだよ』
(そういえば痛みも感じないし体が軽く感じるような…)
「は、榛名様、ありがとうございます!」
『榛名ちゃんは体中に侵された十六夜の闇を祓うほどの強い癒やしの能力者なんだよね』
『榛名は俺様の番なんだから当然だ』
榛名に深いキスをする十六夜に、紅葉は思わず手で目を覆った。
『オレらもしちゃう?』
「しない。私にも能力あるのかな?」
『さあ?榛名ちゃんは神通力がかなり強いけど、紅葉は僅かだからね。あるかもしれないし、ないかもしれない』
「お取り込み中、失礼致します。お食事をお持ちしました」
紅葉の父が声をかけ、紅葉と榛名には食事、風雅と十六夜には酒が振る舞われた。
「改めまして、白虎様、龍神様。わたくしは白神紋十郎《しらがみもんじゅうろう》と申します。紅葉の父です。白虎様、うちの娘を宜しくお願い致します」
『紋十郎ね。紅葉をやらしい意味でよろしくしちゃうよ〜』
「チッ」
紅葉は舌打ちした。
4人だけにしてくれと人払いをした。
「十六夜様、お酌いたしますね」
『ああ。何度でも言うが榛名から注いでもらう酒は最高に美味いな』
「ありがとうございます」
風雅はチラっと紅葉をみると目が合ってしまう
『家に帰れたのは誰のおかげかな〜?』
ニヤニヤしながらお猪口をフリフリしている風雅
「くぅ〜…今日だけだからね!」
仕方なくお酌をして"あげる”
『ね?うちの紅葉可愛いでしょ?』
『俺様の榛名が一番可愛いんだ!』
『数百年前から俺様風に装ってるの、まだやってんの?あははっ』
『………』
十六夜がイラついている。
「お二人は仲がよろしいのですか?」
榛名が問う。まだ天界に来たばかりで他の神獣事情は知らないようだ
『俺様と風雅は東と西を担当しているのもあって、昔からの腐れ縁だ』
『大親友ってことね〜』
「榛名様は東丿島出身なんですね。東丿島ってどんなところですか?」
「…………」
榛名は困ったような顔をした。
紅葉は好奇心もだが、一応神子の自分と同じ先輩神子と話すキッカケが欲しかったのだが不味かったらしい。
代わりに十六夜が答える
『俺様が島を捨てたのもあって荒れ放題だった。気づいてると思うが榛名には霊力がない。8歳の時に霊力ないと知った東丿島の連中は榛名を忌み子として牢屋に閉じ込め、奴隷以下の扱いをしてきた。暴力や罵声など毎日のように受けるほどだな』
「ひどい……」
「島では不要な私を生贄として捧げられましたが、十六夜様と出会えて私を変えてくださったんです」
『変えられたのは俺の方だ。俺の永久の番になり、天界に帰れるようにしてくれたんだからな』
お互いに熱く見つめ合った
紅葉は信頼し合っている2人をなんとなく羨ましそうにみていた。
風雅も同じように。
『ごほん。…俺様はどうでもいいが、榛名が気にしているのでな。もし霊力のない人間が生まれても同等に扱うように伝えておいてくれ』
『了解〜』
「あ、この煮物味付けがしみてて美味しい」
「それ、西ノ島の特産品を使ったものなんです。お茶のおかわりどうぞ」
紅葉は榛名のお茶を入れ、自分にもお茶を入れた。
『紅葉〜お茶じゃなくて一緒に酒呑もうよ〜』
「私はまだ18なんだから、飲めないわよ」
『え〜…』
「私と同じ…」
「え?同じ年なら敬語使わなくていいですか?かたっ苦しくて…」
「うん。改めて仲良くしてね、…も、紅葉ちゃん」
「こちらこそ、榛名ちゃん」
ウンウンと楽しそうに頷く風雅と、嫉妬しまくる十六夜
「十六夜様とはどのように過ごしてたの?」
「生贄になってからは十六夜様の住む島で暮らしてて、霊力のない人が住む街の商業施設に連れて行ってくださったの。島では知らない物も沢山あって飽きなかったな」
「商業施設?島から出ちゃいけない掟なのに?」
「生贄で島から捨てられてたし島の掟は関係なかったかな。十六夜様の判断任せなんだけど、暇つぶしでもあるみたいだし、ね?」
『ああ。暇つぶしが榛名の役に立つとはな。デートにも行ったな』
榛名の頰にキスをする。甘々すぎて恥ずかしくなる程だ。
「商業施設か…」
『紅葉行きたい?』
「べ、別に!」
『オレの神子なんだしオレの許可があれば行けるよ』
「う…」
『風雅様、お願いしますって言ったら許しちゃうな〜』
「うぅ〜…ふ、風雅お願いしてあげるんだからね」
頭を抱えながら頼む紅葉。
そんな姿が面白すぎたので許可をした。
「やったー!」
『じゃあ、食べたらさっそく行こうか』
「え"っ?」
『なら俺様たちは帰るぞ。はる…』
ニッコリと微笑む榛名
『行くか!』
「はいっ」
(もしかして主導権握ってるのって榛名ちゃん?)
『賑やかになりそうだね〜十六夜たち、今日は泊まりなよ。いいよね紅葉?』
「アンタの判断なら大丈夫じゃない?」
そんなわけで4人は出かけることに。
紅葉は大急ぎでご飯をかきこみ、着替えた。
島の入り江に向うと十六夜は青龍の姿になる
「おおっ……」
あまりの大きさに言葉がでない。
榛名は迷わず、十六夜の頭に乗り、角を掴んだ。
『紅葉にモフモフさせる約束だったよね☆』
風雅も巨大な白虎の姿となる。
「はぅう〜!虎ちゃん好きぃぃ〜!!」
前足に抱きつくと紅葉を咥え、背中にポイッと投げた。
「いやん♪超モフモフ〜うひひっ」
紅葉はヨダレを垂らしながら抱きしめている
「紅葉ちゃん…なんか性格変わった?」
『…………これはヤバい女だな』
榛名も十六夜も紅葉にビックリしている
『でしょ?なかなか生意気な曲者《くせもの》だよ。掴まってて、行くよ!』
✱✱✱ ✱✱✱ ✱✱✱ ✱✱✱
人気のない場所に降りると風雅と十六夜は人の姿になる。
人型の風雅に冷めてしまう紅葉だが、思わず息を飲んだ。
髪を後ろで束ね、白を基調としたラフな恰好をしていた。
そして和装洋装の混じった服ではわからなかったが、モデル級のスタイルだ。
「あ…」
『もしかしてオレに惚れた?』
「ふん、誰がよ!…あ、榛名ちゃん可愛い〜十六夜様も素敵ですよ〜」
「ありがとう」
十六夜はスーツ姿で風雅に負けない程、スタイルがいい。榛名はお姉さん系のパンツスタイルだ。
暫く歩くといくつか建物がある。
「凄い…これが商業施設…」
「私が十六夜様とよく行ってた場所より大きくて凄いね」
恋人繋ぎをする十六夜と榛名
『指輪はつけているな?』
「はい、もちろん」
「なんで指輪のチェックしてるのかな?」
『なるほどねぇ…』
風雅は紅葉の手を取り、光と共にブレスレットが現れた。
虎目石とルチルクォーツの数珠のようなブレスレットだ。
「何?」
『オレの神通力を込めたものでね、紅葉がどこにいてもわかるブレスレットだよ』
「キモッ。ストーカーアイテムじゃん」
力づくで引っ張って外そうとするが取れない
『オレしか取れないよ。人が多い場所だと迷うでしょ?変な人に絡まれそうになったら助けられないからね』
「ぐぬぬ…」
悔しそうな紅葉
『はいはい、いい子いい子〜』
遊園地に行ってみることになった。
十六夜&榛名も初めてらしく4人共、係員の説明やパンフレット片手に初めて見る不思議なアトラクションに恐る恐る楽しんだ。
「んん〜甘ぁい〜」
休憩がてら某有名なカフェにやってきた。
人生初の抹茶フラペチーノを飲んだ。抹茶と合わないと思ったが、モンブランを頼んだ。
榛名はキャラメルフラペチーノでフルーツのパウンドケーキを頼んだ。
「あれ?風雅と十六夜様は水?パパに風雅と買い物行くって言ったら沢山お小遣い貰ったし遠慮しなくていいよ」
『オレたちは食事をしないんだ。酒と水、お茶くらいなら飲めるな』
「へ〜人生損してんのね」といいながらモンブランをパクリ。
『生贄なら食べるよ?』
「食べたことあるの?」
『一度もないなぁ。遊びまくったら帰すだけだよ』
『俺様もだ。150年に一度だが放置だな。榛名は別だが』
「ん?150年?西ノ島は1年に1度なんだけど…」
『生贄は神獣それぞれなんだ。オレは島の娘と遊ぶついでにこっそりと島の見回りしてるわけ』
「ふーん。あ、次はゲーセン行こうよ」
ゲームセンターに行くと沢山のクレーンゲームに目が行く。
クレーンゲームの景品には色々なものがありワクワクしてしまった。
「わあ~可愛い〜」
白くて触らなくても解るほどのフワフワな丸い小さなぬいぐるみがあった。
何回かやってクレーンゲームのやり方をなんとなく理解しはじめたころ、やっとゲットできた。
「モチモチ〜フワフワ〜最高〜ふへへぇ〜」
目が血走ってっている紅葉に風雅たちは若干ドン引きだ。
バスケゲームで風雅と十六夜と対決したが、さすが大親友というべきか、二人共同点だった。
風雅と十六夜は子供用の汽車やお金を入れると音楽が鳴り揺れる遊具で楽しそうに遊んでいた。
「売店でたこ焼き食べない?アイスやクレープもあるよ」
「たこ焼き食べたい!」
西ノ島も東丿島も閉鎖された島なので霊力のない一般人から見たらかなり時代遅れだ。
電気ガス水道のライフラインは未だにないのだが、月に一度の物資が届き、雑誌など希望すれば買って来て貰えるので島にないだけで存在は知ってる。
風雅たちは放置し紅葉と榛名の女子で楽しむことにした。
「鰹節が生きてる〜」
8個入りのたこ焼きを2人で食べることにした。この後、アイスとクレープもしっかり食べる予定なのだ。
「は〜ふぅ!はぐはぐはふぇふぉうひほ〜(熱々!ホクホクでトロけてすごくおいし〜)」
口周りがソースや青のりまみれだが気にせず、欲望のまま食らいつく。
「風雅様との恋愛事情はどうなの?」
「ぷはっ!ごほ…ごほ…」
榛名は気になっていることを口にしてみたのだが、紅葉は思わずたこ焼きを詰まらせそうになる
たこ焼きと一緒に頼んだオレンジジュースを飲み、一息つく
「あいつが勝手に神子にするって言っただけだし、私はモフモフ虎ちゃんが好きなのよ〜」
「虎ちゃんって神獣の姿ね。いつか恋愛発展するかもよ?」
「ないない。榛名ちゃんの時はどうだったのよ」
「私の時は恋って気付いた時には失恋してた。前の神子様のこと一途に愛してらして子孫残しててね…しかも私、その神子様の生まれ変わりだったから複雑だったよ」
「ふぅ~ん…」
(大変な恋愛してそうだ…)
「…ってことは風雅にも神子がいて子孫がいるってこと??」
「私の島の場合だと島を取り仕切る神代家って家が十六夜様と神子様の子孫の一族なの」
「じゃあ私…風雅の子孫の可能性が……」
頭の中がグルグルしてきた。
「あ…」榛名が何かに気付いた
『オレのこと気になっちゃう〜』
ペロッ
風雅は紅葉の口についたソースを舐める
「きゃっ」
『オレはいいけどさ、人に串刺しちゃ駄目だよ』
「わかってやってんの、よっ!!」
紅葉と風雅がギャーギャーやっている中、十六夜と榛名はまったりとしていた。
『さっきの話。オレは神子と上手くいかなかったから、紅葉は神子と別の男の子孫だよ』
「ま。アンタと上手くいく女なんて変人に決まってるわね!」
その後は服やアクセサリーにコスメに文具と沢山買ったのだが、全て風雅が払ってくれた。
「アンタ…お金どうしてるの?」
『神だからお金は沢山あるんだよ』
『ああ、そうだ』
十六夜も頷く
「本当に謎だわ」
「だよねー」
「風雅…まぁ、ありがとね」
『お礼は言葉より頰にしてね☆』
ギロッと睨みつけ「やらんわ!」と目で訴えた。
時間も時間とのことで西ノ島に帰ってきた。
帰りも風雅(神獣)にヨダレを垂らしながらテンション高く喜びを叫んでいた紅葉
風雅はもう諦めモードだ。
使用人たちが忙しく荷物をおろし、屋敷まで運んでくれていた。
そんな紅葉をよく思わない人々がいた。
「なによ…私たちは外に出られないのに」
「私なんか白虎様の生贄だったのに神子なんてズルいわ」
「きっと何か裏があるはず…」
「白虎様の神子になるのは私よ!」
そして憎むように睨みつける影があった
「紅葉……」