毎年文化祭が終わると一気に時の流れが早くなるような気がする。
ついこの間終わったと思った文化祭ももう一か月以上前の話で、今はもう十二月初旬。
街は受験生の私を置いていくかのようにイルミネーションでの光でキラキラと光り始め、気の早いお店は正月のお餅を出し始める。
そんな世の中の変化で更に受験への焦りが募ってしまう。
入試までは残り三ヶ月弱。
これまでのように勉強は続けているものの、やってもやっても終わりが見えないことに毎日絶望を感じる。
そして入試が近づいて焦っているのは私だけではない。
この間からお母さんの口出しがまた増えてきて、新たなストレスの要因となっている。
焦る私を察して静かにしてくれているのかと思ったが、やはり耐えられなくなったのか最近は私への束縛がきつい。
私も前ほど精神状態に余裕がないので、言い合いになってしまうことも少なくない。
今日の朝もそうだ。
学校に行く前だというのに私の成績の話を持ち出してきた。

『最近成績が上がっていないみたいだけど…本当にちゃんと勉強してるの?塾に行ってる時に居眠りなんかしてないよね』

毎日毎日張りつめた状態で勉強している私にとって、今一番言われたくない言葉だった。
もう少し私に余裕があれば、いつものことだなと流せたかもしれない。
けれど、毎日言われる小言にもう私の精神状態も限界を迎えていた。

『うるっさいなぁやってるにきまってるでしょ。もう口出ししないでよね』

苛立った私はそう言ってその後のお母さんの言葉を全て無視して家を出てきてしまった。
良くないことだとは分かっているけれど、正直もう勘弁してほしい。
そのせいで最近はまた夜も上手く眠れないし、頭も上手く働かない。
今も何の授業を受けているのか分からない。
内職用にこっそり開いている参考書も何が書いてあるのか分からなくなってきた。
何度も読み返したはずなのに、なんで。やっぱり覚えられていないのだろうか。
そんなことでまた不安になる。
どうしよう、どうしたらいい。
頭の中で言葉が回っておかしくなりそうだ。
授業とは全く関係のないことで頭がいっぱいになっていると、前の席の愛梨ちゃんから話しかけられたような気がした。
虚ろな目で愛梨ちゃんと目を合わせる。

「奏葉、呼ばれてる」

「え…?」

教卓の方を見ると、私の方を見つめた先生が不思議そうな顔をしている。
それだけでなくクラス中の視線が私に集まっており、やっと事態を理解した。
私は慌てて席を立ちあがる。少し立ち眩みがしたけど、どうにか耐えた。

「あ…えっと」

「白石さん大丈夫?なんかずっと下向いてたみたいだけど」

「…すみません」

「いやいいけど…珍しいね。しっかりしてよ」

幸い優しい先生だったことと普段の私の授業態度を含め、甘く見てくれたようだ。
私はもう一度すみませんと呟き、席に着いた。