日曜の、秋晴れの空が目に痛い正午過ぎ。駅で待ち合わせた俺と成弥は、その足で大通り沿いにある2階建ての服屋へ入った。

クラッシーなアイテムが揃う店内を適当に回ったのち、スツールに腰掛け、組んだ足に頬杖をつく。

……いったい、いつ飽きるのか?
同年代らしき女子2人を横目に、ため息を吐く。さきほどから通路を行ったり来たり、チラチラ、ひそひそと。成弥に付き合うといつもこれだ。

当の本人に目をやると、成弥は素知らぬ顔で冬物アウターを物色していた。丸襟の黒シャツに、肩まで開いたワイドVネックトレーナーの重ね着、シンプルなシルバーネックレス。この装いだけで、“実店舗での買い物が娯楽”だと伝わってくる。

俺だって服もオシャレも嫌いじゃない。だが今日は気分が乗らず、パーカーにボリュームのあるジョガーパンツを合わせただけの、ラフを極めた格好で出てきた。

なんとなく、手持ち無沙汰でスマホの時刻を確かめる。

【13:12】
聡からの連絡はやはりない。


昨日の夕方、近所のコンビニへ行った際に、部活終わりの聡と偶然鉢合わせた。成弥から今日の誘いの電話があったのは、その帰り道だった。

断るのは必然。だって本来なら今日は、聡とゲームをする予定だった。

俺からすれば、先に約束した聡を優先しただけ。“(自分)友情(成弥)を天秤にかけた”と勘違いして怒る聡も、誤解が解けて俺に責任転嫁する聡も、純粋に微笑ましかった。

――臣のせいで。
不満げにそう言ってむくれる顔も、俺はきらいじゃない。

『意識すればいいじゃん』
『は? いちいち下心あるか疑えって?』
『いや、意識されてんのも悪くないっていうか』

俺の何気ない言葉に、聡が俯き、ピタリと足を止める。

『臣のそれって、オレを試してんの?』
『お前がスコップ持参でせっせと墓穴掘ってんだろ』
『……そうだよ。自滅するくらい、この腐れ縁が大事だ。好きって気持ちはオレのほうがデカイんだよっ! なんなら初恋だってオレが先だ!」

なんつー言い分だよ、と薄ら笑う間もなく、聡は真剣な眼差しを向けた。

『臣……オレも待つことにする。臣がオレを友だちだと思えるようになるまで、オレも待てるよ』

意味がわからない。俺がいつ、聡との友情を蔑ろにした?
あ然としていると、次第に怒りが胸の辺りに広がっていく。

いつになく凛々しい聡の後ろ姿を、俺は引き止める気になれなかった。
感情任せに好きだと突っ走れないのは、それ以上に大事なもんがあるからだ――。


「なぁ雅臣」

成弥が寄って来たので、頬杖のまま視線を上げる。

「今日はずーっとそういう感じ?」
「……なにが?」

たったワンラリーで会話が途切れると、飄々とした成弥との間に、温冷もしくは寛厳とも表現できそうな摩擦が生まれた。
先に口を開いたら負け。そんな感覚を抱きつつ、何が言いたいんだよと目で問う。

だが俺たちは、勝敗がつく前に臨戦態勢を解いた。

「あのっ……2人で買い物、ですか?」

どうやらチラチラ女子2人は、ようやく見ているだけでは飽き足らなくなったらしい。外見に気を遣っているわりに、控えめな、たどたどしい誘い方だと思った。

「うん、悪いね」

近づいてきた女子たちを、成弥がたった二言で遠ざける。
こっちはこっちで慣れすぎていて、微笑みまで胡散臭いけど。