幸いなことに、東端の石碑の近くには四人用の小屋があった。ちゃんとベッドも四人分あり、四人で使われることを想定されている小屋だった。一階建てで、奥のほうにベッドが四つ並んでおり、その手前にリビングダイニングが広がっているような間取りだ。詠子は欲を言えば男女で部屋を分けたかったけれど、そう欲張ってもいられない。ベッドで寝られるだけ感謝すべきだと思った。

 チームの雰囲気は暗かった。水トラップで菜美を失ったというのは大きかった。小屋を見つけても誰も話さず、沈黙したまま小屋の中で過ごしていた。

 詠子はシャワーを浴びれば何か変わるかと思い、シャワーを浴びたが、何も変わらなかった。重い現実を再確認しただけだった。菜美のように、もしかしたら次は自分が死んでしまうかもしれない。その思いがずしりとのしかかってくる。

 シャワールームから出ると、弘と早苗が楽しそうに喋っていた。先程までの暗い雰囲気はどこかへ飛んでいってしまい、まるで菜美が死んだことなんて忘れてしまったかのようだった。早苗は詠子が出てきたことに気づいたけれど、弘は気づかず、早苗に話しかけていた。

(暢気なものだな。次は自分かもしれねえってのに。菜美さんが死んで悲しくねえのか?)

 詠子は二人には近寄らなかった。楽しく笑って話す気分ではなかった。弘が早苗と仲良くしたいなら、そうすればいいと思った。

 宥介は地図を広げていた。その表情は険しく、話しかけるのを躊躇うほどだった。しかし詠子は宥介の隣に行き、同じように地図を眺めた。

 宥介は詠子が来たことに気づくと、詠子を一瞥した。

「ああ、詠子ちゃん、おかえり」
「ただいまです。何か、わかりそうですか?」
「夕日を臨む石碑の中に、というのがウサギのヒントなんだとしたら、その石碑を探す必要がある。でもこの地図には東端と西端の石碑しか載っていない。まさか、西端の石碑にあるなんてことはないだろう。それだったら簡単すぎる」
「逆に、地図に載るくらい重要な石碑なのかもしれません。第二のヒントが隠されてるとか」
「西端の石碑に行ってみるか? 他に手がかりもないし、そうすべきなんだろうか」

 宥介はこめかみを指先でとんとんと叩きながら思考する。詠子は何も言わず、地図に視線を落とした。相変わらず現在地がわからないままだから、この地図がどれくらい役に立つのかも不明だ。この島は思ったよりも広い。

 後ろから弘と早苗の笑い声が聞こえてくる。舌打ちを抑えて、詠子は宥介に訊いた。

「あの、宥介さん」
「なに?」
「菜美さんが死んで、悲しくないんですか」

 それは二度目の問いだった。宥介は悲しんでいるように見えなかった。ただ欠けただけではなく、本当に死んでしまったはずなのだ。それなのに、宥介はいつも通りに見える。詠子にはそれがどうしても受け入れられなかった。

 宥介は詠子と視線を合わせて、それから外した。遠いところを見ていた。

「実感がない、と言えばわかってくれるかな。このゲームが終わったら待っていてくれるような気がしているんだ。死んだと言われても、信じられていない」
「そっか。もしかしたら死んでないかもしれないですもんね」
「仮説の域だよ。余計な期待は持たないほうがいいけれど、持ってしまうよね」

 宥介は宥介なりに悲しんでいるのだと詠子は感じた。宥介も菜美の死を受け入れられていないのだ。早苗が源大の死を受け入れられなかったように。

 詠子はそっと宥介の手を取った。ごつごつとした男性の手だった。宥介は驚いたように詠子を見て、一瞬だけ悲しそうな瞳を向けた。

「宥介さん、泣きたいならあたしが胸を貸しますよ。どーんと、来てください」

 本当は詠子が泣きたかった。けれど、宥介が泣いていないのに自分が泣くのはおかしな話だと思ってしまった。いちばん泣きたいのは、いちばん交友が深かった宥介のはずなのだ。

 宥介は詠子の手を握り返して、穏やかな口調で言った。

「泣かないよ。泣くのはゲームをクリアした後だ。その時はきみがぼくの胸で泣いたらいい」
「わ、うまい返しですね。あたし本気にしちゃいますよ」
「いいよ。一緒にこのゲームをクリアしよう、詠子ちゃん」
「うわぁ、なんかプロポーズみたいですねぇ」

 詠子が冗談めかして言うと、宥介の顔に笑みが戻った。

「そうかな。一緒にゲームをクリアしたい気持ちは本当だよ」
「はい。頑張りましょう」

 詠子は宥介の手を握って、笑った。

 弘と早苗の話し声が聞こえてきても、詠子は何も思わなかった。仲良くやってろよ、くらいしか感じなかった。




 詠子は久々にベッドで眠った気がした。けれど、やはり夜明け前に目が覚めてしまった。どこか緊張しているのかもしれない。ごろごろと体勢を変えてみても眠れないので、詠子は一度起きて水を飲みに行くことにした。

 すると、いつものように宥介が起きていた。また考え事をしているのだろう。水を飲みに行きがてら、少し話そうと思い、詠子は宥介に近づく。

 宥介は詠子に気が付かないまま、小屋の外に行こうとした。まだ朝のサイレンは鳴っていないはずだ。詠子は慌ててその背を追いかけ、呼び止めた。

「宥介さん、まだ夜ですよ」

 詠子の呼びかけで、宥介は初めて詠子が起きていたことに気づいたようだった。びくりと身体を震わせて振り返る。その表情は驚きに満ちていた。

「詠子ちゃん、起きていたのか」
「ついさっき起きたんです。そしたら宥介さんが出て行こうとしてるから」

 宥介は悪戯が見つかった子どものような顔をしていた。何と言い訳するか考えているのだろう。何と言い訳したところで、詠子が納得するようなものは出てこない。

 詠子は宥介の手を掴み、ぐいぐい引っ張ってリビングに戻した。宥介も観念したのか、ダイニングテーブルの椅子に座る。

 可愛く、可愛く、でも怒らなければならない。詠子は相反するものを抱えながら、宥介の正面の席に座った。宥介は心なしかしゅんとしているようにも見えた。

「夜中にどこへ行くつもりだったんです?」
「外だよ」
「そんなの見ればわかります。なんで外に行くつもりだったんです?」

 宥介は逡巡した。正直に答えるべきかどうか悩んでいるのかもしれなかった。

 詠子と宥介の視線が交錯する。先に目を逸らしたのは宥介だった。

「バケモノの様子を見に行くつもりだった」
「どうしてそんなことを?」
「水鉄砲を拾っただろう。もしかしたらバケモノにもぼくたちと同じような首輪が着いていて、水をかけることができたら倒せるんじゃないかと思ったんだ」
「そのために、外へ?」
「そうだよ。バケモノの様子を見たら戻ってくるつもりだった」

 詠子は宥介をじっと見つめる。可愛くあろうとする心よりも、本性のほうが強かった。

「嘘でしょ、宥介さん」

 詠子が断じると、宥介はぐっと言葉を飲み込んだ。そして、ややあってから問う。

「どうして、そう思う?」
「宥介さんは一人で石碑を探しに行くつもりだったんでしょー? あたしと一緒にゲームクリアしようって言ったのは何だったんですか?」

 宥介は応えなかった。それが答えだとでも言うように。

「行くって言うならあたしも行きます。弘くんも早苗ちゃんも叩き起こします」
「いや、いいよ。それだと意味がない。きみだけならまだしも、弘くんと早苗ちゃんが来るのなら朝まで待つべきだ」
「やっぱり一人で行くつもりだったんですね?」
「そうだよ。そのほうが早いと思った。菜美の犠牲を無駄にしないためにも、このゲームを早くクリアしたかったんだ。そうしたら、本当に菜美が死んだのかどうか確認することができる」

 宥介はその思いを語った。詠子は宥介の顔を見て、言った。

「四人でいるほうが協力できますよぉ、きっと。お願いですから一人で行かないでください」

 宥介は詠子の瞳を見る。その裏に隠された本性までも見通されそうで、詠子はふっと視線を逸らした。

「わかった。朝になったらみんなで出発しよう」
「わかればいいんです。あたしが寝てる間に勝手に行っちゃだめですからね」
「しないよ。きみは連れて行くよ」
「あたしは有用ってことですか?」
「そうだね。詠子ちゃんはいてくれたほうが助かる」
「ま、あたし可愛いですしね。マスコット枠で採用ってことですね」

 宥介は穏やかに笑った。詠子もそれを見て表情を崩した。

「夜明けまでまだ時間がある。詠子ちゃん、もう一度寝てきたらどう?」
「もう目は覚めちゃいましたよぉ、宥介さんが逃げようとしたから」
「そうか。それは、申し訳ないことをしたね」
「反省してくださいっ」

 詠子が可愛く注意すると、宥介は微笑んだ。

「詠子ちゃんは自分の可愛さを知っているね。それを巧く活用している」

 宥介が急にそんなことを言ったから、詠子はどきりとした。

(おいおい、まさか、気づかれた? 宥介さんならあり得るぞ)

 詠子は内心の焦りを隠しながら、可愛らしく笑ってみせた。

「可愛さは使っていかなくちゃ。持って生まれた武器なんですからねっ」
「なるほど。弘くんはそれにやられたんだね」
「あっ、ちょっとぉ、あたしが引っかけたみたいに言ってますけど、向こうが言い寄ってきたんですからね? 弘くんの猛アタックを受けてあたしが付き合うことにしたんですから」
「そう。まあ、そうだろうね」

 宥介が何を考えているのか、詠子には読めなかった。詠子が弘のことを好きではないと思っているのだろうか。確かに、ラビットハントが始まってから幻滅することばかりだけれど、彼氏は別れるまで彼氏だ。詠子はそう思っている。

「弘くんもライバルが多くて大変なんじゃないかな。詠子ちゃんに言い寄ってくる男は多そうだ」
「どぉなんでしょうねぇ? ま、少なくはないですよ、あたし可愛いので」
「はは、そうか。いいと思うよ、自分に自信があるのは」

 宥介は笑いながら言った。詠子は内心ひやひやしていた。

(気づかれてる? そんなはずない、だってあたしは完璧に隠せてるはずだ)

 詠子は笑顔を浮かべながら、本性を奥深くに追いやった。あまりにも表に出すぎてしまっていたら、宥介には気づかれてしまう。誰にも、家族でさえも知らない、詠子の本性に。

 相変わらず弘が起きてくるのは遅かった。早苗も起きて準備が整っていて、弘だけを待つ状態になっても、弘は焦る様子もない。のんびりと自分のペースで支度を進めている。

(早くしろよ。みんなお前を待ってんだぞ)

 詠子は急かしたい気持ちを抑えながら、ゆっくりとコーヒーを飲んでいる宥介の隣に座る。まだ時間がかかると踏んでいるのか、宥介は熱いコーヒーを冷ましながら啜っている。そこには大人の余裕を感じさせた。

 詠子はまだ準備している弘を見やり、それから宥介に言った。

「ごめんなさい宥介さん、弘くんが遅くて」
「いや、いいよ。焦っても仕方ない」

 夜中に一人で出て行こうとした人間の言う言葉でないと思った。きっと宥介は早くここを出て探索したいはずだ。それなのに、いちばん足を引っ張る人間のせいで出発できない。いつか宥介が弘を切り捨ててしまうのではないかと心配になる。そうなった時、自分はどちらに付くのか、詠子は決めかねていた。

 弘は早苗と何か話しながら準備している。いいからさっさとしろよ、と言いそうになって、詠子は水を飲んで心を落ち着かせた。こんなところで本性を晒すわけにはいかない。

 やがて弘の準備ができると、宥介は立ち上がった。

「じゃあ、行こうか。西の石碑を目指そう」

 四人で小屋を出て、また森の中を進んでいく。さすがに慣れてきたものだが、歩きにくいことに変わりはない。

 変わったのは、詠子が二番目に来たことだ。宥介の隣を歩くようになった。弘の世話は早苗に任せて、宥介と相談しながら道を決めるようになった。これは詠子が自主的に始めたことだが、宥介は何も言わず、弘と早苗も受け入れたようだった。

 詠子は弘と早苗が急に仲良くなったと感じていた。歩きながらも楽しそうに話している。早苗がいるポジションに、本来なら自分がいるべきなのではないかと思ったが、今の弘と楽しく話せる自信がなかった。早く歩けよと尻を叩いてしまいそうだ。

 弘と早苗が遅れないように気をつけながら、西へ向かって歩いていく。代わり映えしない緑色の景色にうんざりしてくる。

「なぁんか飽きてきますねぇ。もっと景色が変わったらいいのにー」

 詠子が宥介に話しかけると、宥介は同意してくれた。

「そうだね。面白味もないし、迷ってしまいそうになる」

 詠子は木の根を踏みしめて、溜息を吐いた。雑談でもしないとやっていられない。

「宥介さん、大学って楽しいですか?」
「どうしたの、急に」
「いえ、黙ったまま歩くのも退屈だなぁと思いまして」
「そう。まあ、大学自体は楽しくないけれど、高校の頃よりも遊べる範囲が増えて楽しいよ」
「バイトとかしてるんですか?」
「してるよ。本屋でね」
「ああ、似合うかも。宥介さん、本屋にいそう」

 詠子が笑いながら言う。宥介は「そうかな」と口にした。詠子には宥介が本屋のエプロンを着けて働いている姿が目に浮かんだ。よく似合っている。

「本屋って何するんです? レジ打ちと陳列?」
「あとはポスターの貼り替えとか、雑誌を紐で縛ったりとか、そういう雑用だね。意外とやることは多いんだよ」
「へええ。楽しいですか?」
「楽しいこともあるよ。本の売れ筋もわかるし、本が好きならやっておいて損はない。ああ、足元気をつけて」

 宥介に言われて、詠子は足元に出っ張っている木の根を避ける。こういうのをスマートにこなせてしまうあたり、宥介はきっとモテるのだろうと思ってしまう。菜美が惚れてしまうのもよくわかる気がした。もう、菜美はいないけれど。

「うわっ!」

 後ろで弘の声がして、宥介と詠子は振り向いた。どうやら木の根に躓いて転んでしまったらしい。詠子は溜息が出そうになるのを堪えた。

(鈍くせえなあ。どうしてこうなるのかねぇ)

 詠子が心の中で愚痴を言いながら弘の無事を確認しようとしたら、先に早苗が弘に声をかけた。

「弘くん、大丈夫? 怪我していない?」
「あ、ああ、大丈夫。ちょっと転んだだけだよ」

 差し出された早苗の手を取って、弘が立ち上がる。学生服に付いた砂を早苗がかいがいしく払ってやる。これではどちらが彼女なのかわかったものではない。

 けれど、詠子は嫉妬しなかった。むしろ早苗に感謝していた。お荷物のお世話係ご苦労、と言いたい気分だった。今の詠子にとって、弘への愛はますます冷めつつあった。

「足捻ったりしてない? 歩ける?」
「ああ、大丈夫」

 詠子も弘に声をかけたが、これは可愛さを取るための行動だった。彼氏が転んだのに何も言わないのは可愛くない。優しさを見せることも、可愛く見えるためには必須の行動だった。

 宥介は一連の様子を見ていたが、弘に声をかけることなく、また先を歩き出す。自分が声をかける必要はないと判断したのだろう。詠子はその宥介の背中を追って、また横に並んで歩いていく。

「今どの辺まで来たんでしょうね。現在地が表示されたらいいのに」
「さあね。真西に進んでいるわけではないだろうし、西端の石碑まではもう少しかかるんじゃないかと思うよ」
「あたし、この数日で一か月分くらい歩いてる気がします」
「そうかもね。意外と歩けるんだって驚いているよ」
「今日はゆっくり寝たいなー。大きい小屋が見つかるのを祈るしかないですねぇ」

 歩きにくい道を歩いているせいで、余計に体力を消耗しているようにも思える。詠子はベッドでぐっすり寝たかった。この世界に来てからぐっすりと眠った記憶がない。

 森を進んでいると、川の流れる音が聞こえてくる。それなりに大きな音だ。そのまま進んでいくと、古びた木製の吊り橋が見えてくる。吊り橋の下には大きな川が流れていて、対岸に渡るには吊り橋を通っていくしかなさそうだった。

 宥介はすぐに地図を出す。そして、地図にも書かれている太い川を指した。

「この川のどこかにいるんだな。橋は二本ある。ここと、下流にもう一つ」
「流れも速いですし、ここが上流なんじゃないですか?」
「とすると、今ぼくたちがいるのはここか。だいぶ西端に近づいてきているな」

 宥介と詠子で現在地を確認する。西端まではまだ距離があるが、確実に近づいていることは間違いなかった。地図によれば、西端に行くためにはこの橋か、もう少し下流にある橋を渡らなければならないようだった。

 目の前にある木製の橋は今にも崩れ落ちそうなくらい朽ちていた。宥介は臆することもなく橋を渡っていく。ぎしぎしと音を立てて軋んでも、宥介は構わず進んでいく。

 宥介は橋を渡りきって、対岸から声を上げた。

「大丈夫だ。ぼくが渡れたんだから、みんな渡れるはずだ」

 その理論はどうなのだろう、と詠子は思ったが、言わないでおいた。渡らないわけにはいかないのだ。宥介から離れてしまえば、このゲームをクリアすることは不可能だ。何が何でも宥介とは一緒にいなければならない。

「じゃあ次、あたし行くね」
「お、おい詠子、行くのか? 本当に大丈夫なのかよ?」

 弘はもう腰が引けていた。弘が渡るのはかなり時間がかかりそうだ。

「大丈夫だよぉ、宥介さんが渡れたんだからさ。じゃ、行くね」

 詠子は意を決して一歩目を踏み出した。ぎし、と橋が音を立てる。真下には勢いよく川が流れていて、落ちれば絶対に助からないといえる。そもそも首輪が水に濡れるだろうから、その時点で終わりだ。

 じりじりと進んでいく。橋は今にも崩れ落ちそうな音を立てながら、ぎりぎりのところで踏みとどまっている。あと少し。詠子はゆっくりとした足取りで進む。

 詠子が最後の一歩を踏み出し、対岸に足を着けたところで、橋を支えていたロープがちぎれた。支えを失った橋は壊れ、川底へ真っ逆さまに落ちていく。詠子はバランスを崩したが、宥介がその身体を受け止めてくれた。

「詠子ちゃん、大丈夫?」
「は、はぁい、なんとかぁ」

 詠子が振り返ると、橋はもうなくなっていた。あと数秒遅ければ、自分は橋の崩落に巻き込まれていたことだろう。詠子は助かったことを神に感謝した。信心深いほうではないが、こういう時くらい礼を言っておくほうがよいと思った。

 これで宥介と詠子、弘と早苗に分断されてしまった。宥介は好都合だと思っているかもしれない、と詠子は感じていた。足を引っ張る存在がいなくなるのだから、西端の石碑を目指しやすくなるはずだ。

 宥介もそれを考えているのか、少し迷いを見せた。そして、宥介は言った。

「いったん別行動にしよう。どこかの小屋で落ち合おう」

 どこかの小屋。それは、いったいどこの小屋のことを指しているのだろうか。宥介は合流する気があるのだろうか。このまま、自分と二人でゲームを進めるつもりなのではないか? 詠子はそう思ったが、口を挟まなかった。宥介の考えに従っておくほうが、宥介の好感度を稼げると判断した。

「わかりました。わたしたち、川下の橋のほうに行ってみますね」

 早苗が応える。宥介は片手を挙げて応答すると、すぐに森のほうへと足を進めていく。詠子は心配そうに弘と早苗を見ながらも、宥介についていった。

 弘がいなくなった途端、宥介の歩く速度は上がった。詠子のことを気にしながら、どんどん先に進んでいく。やはり弘のことを気にしていたのだ。邪魔者がいなくなった今こそ、探索を進めることができる。

「宥介さん、やっぱり弘くんに合わせてたんですね」
「そうだね。チームである以上、いちばん遅い人に合わせなければならないだろう」
「ごめんなさい。彼女として申し訳ないです」

 心にもない謝罪だった。とりあえず謝っておけ、という程度のものだった。

 宥介にもそれが伝わったのか、宥介は表情を崩した。

「きみが謝ることじゃないよ。きみだってそう思っているだろう?」
「ありゃ、バレました? 宥介さん、鋭いですねぇ」
「詠子ちゃんは可愛いけれど、毒があるね」

 その言葉に詠子は動揺を隠せなかった。その動揺が宥介にも伝わるくらいに。

 まさか。いや、そんなはずはない。自分は徹底的に隠してきているはずだ。

(落ち着け。わかるわけがねえ。揺さぶられてるだけだ)

 自分の本性を隠すため、詠子は可愛く笑ってみせた。うまく笑えている自信があった。

「ええ? 毒なんてないですよぉ」
「弘くんの前だから自重していたんだろう? いいよ、ぼくの前ではそのままで」

 宥介は何でもないことのように言う。詠子は背中を嫌な汗が流れるのを感じていた。

 バレるわけにはいかない。葛城詠子は、毒気のない可愛い女の子であるべきなのだ。本当の葛城詠子が知られてしまったら、きっと誰もが軽蔑する。可愛いと思ってもらえなくなる。

 宥介が思っているよりも、詠子が持っている毒はずっと強い。宥介は包容力がありそうだが、それにしたって本当の葛城詠子を受け入れられるとは思えない。

(大丈夫。気づかれたわけじゃねえ。いくら宥介さんだってわかるわけがねえだろ)

「あたしはいつもありのままのあたしですよぉ。ちょこっと口は悪いかもしれませんけどー」
「ちょこっと、ね。まあ、そういうことにしておこうか」

 宥介はそこで引き下がった。明らかに納得していなかった。

「ところで宥介さん、あたしたち、西に行ってますよね?」

 詠子は露骨に話題を変えた。宥介は頷く。

「うん。西端の石碑を目指しているよ。何かおかしい?」
「だめですよ、早苗ちゃんと弘くんと合流しなくちゃ。二人を置いて西端に行くんですか?」
「ぼくはそのつもりだったけれど。きみは違うんだね」

 宥介は話しながらもずんずんと歩いていく。詠子は宥介の手を掴んで引き留めた。

「だめですって。ちゃんと合流しましょ」
「ゲームのクリアを考えるなら、このままきみと二人で行くほうがいい。そう思わないか」
「思いますよ。思いますけど、やっぱりだめです。彼氏を置いていくことなんてできません」
「彼氏。彼氏、ね」

 宥介は二度呟いて、深く息を吐いた。頭をがりがりと掻いて、宥介は言った。その呟きに込められた意味は、詠子にはわからなかった。

「わかった。じゃあ、合流しよう」
「いいんですか?」

 詠子が尋ねると、宥介は微笑んだ。

「きみがそう言うなら仕方ない。人数が多いほうが役に立つ時もあるかもしれないしね」
「ありがとうございます、宥介さん!」
「じゃあ川下の橋を目指そう。川沿いに歩いていったら見つかるはずだ」

 道を変更して、川の音を頼りにしながら川沿いを歩いていく。地図上ではさほど離れていないようだったが、なかなか橋は見えてこなかった。地図すら持っていない早苗と弘はどうやって橋を見つけることができるのだろうか。川沿いに歩く以外の方法はあるのだろうか。詠子は不安に思いながらも、宥介と二人で川沿いを進む。

 やがて、丈夫そうな橋が見えてきた。先程のすぐ崩れそうな橋とは違って、しっかりと整備された橋のように見える。複数人で同時に渡っても壊れなさそうな橋だった。

「これだね。早苗ちゃんたちも辿り着けているといいけれど」

 詠子と宥介は橋を渡り、対岸へと着く。しかし周囲を見回しても早苗や弘の姿はなかった。まだ到着していないのか、それとも別の道に行ってしまったのか、詠子たちには判断できない。

「どうしようか。どうやって合流する?」
「この辺りの小屋を探しましょう。もしかしたら二人で入ってるかも」
「ぼくたちも小休憩しようか。歩きっぱなしで疲れただろう?」
「そうですねぇ。小屋を見つけたら、今日はそこで休むほうがいいかもしれませんね。弘くんたちが後から来るかもしれませんし」
「わかった。そうしよう」

 宥介と簡単な作戦会議を済ませて、小屋を探して歩き回る。

 小屋は意外と簡単に見つかった。二人用の小さな一階建ての建物だった。ベッドが二つと、小さなテーブルが置いてあるだけの簡素な小屋だった。シャワールームは完備されていて、詠子は安心する。歩いて汗をかいた身体のまま眠るなんて嫌だ。

「じゃあ、今日はここで休もう。弘くんと早苗ちゃんが来てくれたらいいけれど」
「ほんとですね。あっ、あたし、シャワー浴びてきますね」
「うん。いってらっしゃい」
「覗かないでくださいよ?」
「大丈夫だよ。安心して」

 詠子の冗談に、宥介は笑って答えた。互いに相手の余裕を感じ取った。

(弘くん、大丈夫か? 早苗ちゃんに迷惑かけてんだろうなぁ)

 詠子はそう考えながら、シャワールームで汗を流すことにした。

 結局、翌朝になっても弘と早苗が詠子たちの小屋に現れることはなかった。別の小屋を見つけて休んだのだろう、という結論に至った。

「あの二人なら小屋から出ないと思うんですよね。あたしたちが来るのを待ってると思います」
「ぼくも同意見だ。だから、小屋をしらみつぶしに探していくほうがいい」
「そうですねぇ。どこにいるんだろ」

 朝食のパンを食べながら、詠子と宥介は話し合う。小屋を探すと言っても、この辺りにどれくらい小屋があるのかもわからない。あの地図には小屋が載っていないのだ。

 もしかしたらもう合流できないかもしれない。そんな思いさえ頭をよぎる。

 でも、それでもよかった。宥介といればゲームはクリアできそうだからだ。そうすれば自分の命は助かるし、それまで弘と早苗が生きていれば二人も助かる。詠子は二人との合流を優先したが、クリアを目指したほうがよかったのではないかと思い始めていた。

「まあ、いつか再会できるよ。大切な彼氏なんだろう?」
「大切ですけど、ちょっと幻滅気味です」

 詠子が正直に言うと、宥介は苦笑した。

「おや、毒づいているね」
「ぼくの前では毒を吐いてもいいって言ったのは宥介さんでしょー?」
「言ったね。それでいいと思うよ。どうして幻滅気味なの?」
「鈍くさいし、臆病だし、何も決められないし、どぉしても宥介さんと比べちゃうんですよねぇ。あっ、実は宥介さんがすごいのかも?」
「ぼくは普通だよ。確かに、弘くんは少し臆病なところがあるね」
「でしょー? あたし的にはもっとぐいぐい引っ張っていってほしいんですよぉ」

 それを弘に求めるのは酷だと思いながら、詠子は自分の願望を述べる。それこそ宥介のように先陣を切って進んでいくような男のほうが好きだった。

(てゆーかあたし、弘くんのどこが好きだったんだっけ?)

 自分でも弘の何が良かったのかわからなくなってきてしまっていた。付き合った当初は好きだったけれど、ラビットハントに参加してからの弘ばかりが思い出されてしまって、何が良かったのか全然思い出せない。宥介に大切な彼氏と言われて、一瞬返答に困ったほどだ。

 朝食を終え、出発の準備を整える。詠子も宥介も準備を整えるのは早い。さっさと準備を済ませると、目線だけで互いの準備ができたことを悟る。

「じゃあ、行こうか」
「はい。早く見つかるといいですけど」
「ぼくもそれを願っているよ。こんなところで長く足止めされたくはない」

 二人で小屋を出る。道標もないから、適当に歩き始めるしかない。

 まずは昨日渡ってきた橋の近くまでやってくる。この近くに小屋があれば、そこにいる可能性が高いと踏んだ。橋に行けば合流できるかも、と詠子は期待したが、空振りに終わった。

 橋の近くを重点的に探すと、また小屋が見えてきた。さほど大きくない、二人用の小屋のようだった。橋から近いこともあり、二人はここにいるのかもしれないと思った。

 宥介が詠子の前に立ち、小屋の扉を開ける。小屋の扉には鍵がかかっていた。今までそんなことはなかったから、詠子は戸惑ってしまった。

「鍵かかってたことなんてありましたっけ?」
「いや、ないね。弘くん、早苗ちゃん、いるかい?」

 ドアの外側から宥介が呼びかける。ややあって、鍵が開いてドアが開けられた。ドアを開けたのは早苗だった。詠子には、少し早苗の衣服が乱れているようにも思えた。それを指摘する前に、早苗が口を開いた。

「宥介さん、詠子ちゃん! 来てくれたんですね」

 早苗は素直に喜んでいるようだった。奥では、弘が複雑そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。早苗とは異なり、宥介と詠子の来訪を歓迎しているわけではなさそうだった。

(なんだよ、その反応。彼女が来てやったってのに、喜ばねえの?)

 詠子はそう思ったが、詠子自身も別に喜んでいないことに気づいた。これで先に進むことができる、という喜びはあったけれど、早苗や弘と再会した喜びは感じられていなかった。

「早苗ちゃん、昨日はここで?」

 詠子が尋ねると、早苗は一瞬答えを躊躇ったように見えた。ほんの一瞬だったけれど、詠子は見逃さなかった。

「うん。ここが見つかったから、ここで待っていようってことになって」
「弘くんに何かされなかった?」
「何もしてねえよ。そっちこそ、宥介さんと何もしてねえんだろうな?」

 ぶすっとした態度で弘が詠子に言う。詠子はかちんときたが、可愛く、可愛く、と自分に言い聞かせて、普段通りの顔を作った。

「なぁんにもないよぉ。ね、宥介さん」
「……ああ、うん、そうだね」

 宥介は何か考え事をしていたのか、反応が遅れた。弘は疑り深く詠子を見ていた。

(あぁ、もぉ、めんどくせえなぁ。いっそのこと宥介さんに乗り換えようかなぁ)

 詠子はうんざりしながら宥介の傍に行く。今は弘の近くにいたくなかった。本来なら彼氏との感動の再会のはずなのに、詠子は自然に喜ぶことができなかった。

「出発しますよね? 弘くん、準備しよう」
「おお、うん、そうだな」

 早苗に言われて、弘が外に出る支度を始める。

 詠子はある違和感を覚えていた。当たっていてほしくない推測。けれど、無視することもできない思い。早苗は弘の世話をして、嬉しそうに笑っている。弘もそれを受けて、でれでれとしている。

(おいおい。まさかとは思うけどなぁ)

「詠子ちゃん」

 宥介に呼ばれて、詠子は我に返った。反射的に笑顔を貼り付けたら、宥介は笑った。

「大丈夫? 少し、ぼーっとしていたみたいだけれど」
「あぁ、ええ、大丈夫ですっ」
「ここで一日休んでもいいよ。きみが疲れて動けなくなるのは避けたい」
「いえいえ、大丈夫ですってばぁ。あたしタフなので」
「そう。それならいいけれど、疲れたらすぐに言ってね」

 宥介の優しさが身に染みた。菜美が宥介のことを好きになるのもよくわかる。詠子の心も揺れ動きそうになっていた。

(だめだめ。あたしにはまだ彼氏がいる。二股は面倒なことになるだけだ)

 詠子は自分を戒める。弘のような頼りない奴でも、まだ彼氏なのだ。

 弘の準備ができたので、四人は小屋から出て西端の石碑を目指すことになった。昨日通ってきた丈夫な橋を抜けて川を渡り、また森の中を進んでいく。

 宥介と詠子が並んで歩き、その後ろを早苗と弘がついていく。宥介は時折後ろを気にしながら、歩くペースを調整する。自分と宥介さんだけならどんなに早いだろうか、と詠子は思ってしまう。

 黙々と歩き続けていると気が滅入ってくる。詠子はコンパスを見ながら歩いている宥介に話しかけた。

「宥介さん、一人暮らしなんですか?」

 宥介は少しだけ驚いたような顔を見せたが、すぐに答えた。

「そうだよ。地元はもっと田舎だからね。大学に入ってから一人暮らしだよ」
「へええ。どうです、一人暮らし? あたし憧れてるんですよねぇ」
「自由だよ。もう実家には戻りたくないね。一人で気ままに過ごせるんだから」
「家事とかめんどくさくないです? あたし、それが気になってて」
「意外と大丈夫だよ。やらなきゃならなくなったらやるものだよ」

 宥介の部屋はきっと綺麗なのだろうな、と詠子は思った。家具もびしっと配置されていて、モデルルームのような綺麗さを想像してしまう。

 詠子は出っ張った木の根を乗り越えながら、宥介に訊いた。

「あたし、宥介さんのお部屋に行ってみたいんですけど、いいですか?」

 その話は少し早かったかもしれない。もう少し踏み込んでからすべきだったかもしれない。詠子は後悔したが、意外にも宥介は簡単に受け入れてくれた。

「いいけど、きみ一人で来るの?」
「え? だめ?」

 可愛さを前面に押し出した瞳で宥介を見つめる。宥介はその瞳を受けても表情を変えない。

「弘くんが怒るだろう。来るなら弘くんと一緒に来なよ」
「ええ? だって宥介さんですよ? 何もしないでしょー?」
「いや、そういう問題じゃないんじゃないかな。ぼくは浮気だ何だという話に巻き込まれたくないしね」
「あぁ、そうかも。うーん」

 確かに弘は怒るだろう。逆の立場だったら詠子は怒るような気がする。今のように、愛が冷めきっていたとしても、浮気は浮気だ。先に関係を切ってからにすべきだ。

 じゃあ、弘と別れてしまえばいいか。詠子はそんなことまで考えてしまうほど、弘に対する気持ちが冷めてしまっていた。

 森の中を歩いていくと、小屋が見つかった。あまり大きな小屋ではないから、おそらく二人用の小屋だろう。宥介は腕時計で時間を確認する。

「今日はこの小屋で休もう。もうすぐ日没になる」
「はぁい。ベッドあるといいけどなー」

 小屋の中はやはり二人用だった。ベッドは二つ、ダイニングテ―ブルの椅子も二つで、タオル類だけ六人分用意されている。食料と水も潤沢に用意されていた。

「ベッドは三人で適当に割り振ってくれたらいいよ。ぼくは座って寝るから」
「たまには宥介さんもベッドで寝たらいいんじゃないですかねぇ?」

 詠子がそう言うと、宥介は首を横に振った。

「いや、ぼくは大丈夫だから。きみたち三人でゆっくり休んで」
「そぉですか。じゃあ、そぉしますね」

 ベッドはシングルサイズだった。二人で寝るには少し狭いが、眠れないこともない。詠子は弘がベッドを譲ってくれることに期待したが、弘はそのつもりがないようだった。

「わたしと詠子ちゃんだったら二人で寝れるんじゃないかな?」

 早苗が詠子と同じ考えを口にする。そうするとまた弘が一人でベッドを使うことになるのだが、詠子はそれに気づかなかったことにした。ここでその話をするのは可愛くない。

「じゃあ早苗ちゃんとあたし、弘くんということで、いいかな?」
「ああ、そうしよう」

 決まると同時に、弘はベッドにぼすんと腰掛ける。そこを自分のベッドとしたようだった。

(いちばん役に立ってない奴がなんでいちばんいい場所にいるんだっつーの)

 詠子は心の中で呟く。この気持ちを外に出すわけにはいかないから、あくまでも心の中だけに留めておく。

 日没を告げる一度目のサイレンが鳴る。今日は無事に小屋に辿り着くことができた。明日はどうなるのか、わかったものではない。

 こんなゲームは早くクリアしなければならない。早く日常生活に戻りたい、と詠子は願った。

 明け方、朝を告げるサイレンで詠子は目を覚ました。隣ではまだ早苗が眠っている。詠子は早苗を起こさないようにしながらベッドから下りて、もう起きている宥介のところへ行く。宥介はダイニングテーブルの椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。詠子が来たことに気づくと、ふっと優しく笑った。

「相変わらず詠子ちゃんは起きるのが早いね」
「あたし、枕が変わると眠れないタイプだったのかもしれません」
「意外だね。枕がなくても眠れそうなのに」
「えぇっ、宥介さんの中でのあたしってそんなイメージなんですかぁ?」

 笑いながら、詠子は自分の分のコーヒーを用意する。この世界に来てからは、朝はいつも宥介と二人でコーヒーを飲むのが習慣になっていた。今日もそうしようと思って、電気ポットで湯を沸かす。

 そこで、詠子はふと思った。自分が抱いている疑念は、宥介も感じているのだろうか。

「宥介さん、ちょっと外に行きません?」
「外? ああ、サイレンも鳴ったし、いいよ。どうしたの」
「ええっと、ちょっと、ここじゃ話しにくい内容がありましてぇ」

 詠子が濁すと、宥介はその内容を悟ったようだった。席を立ち、玄関のほうに歩いていく。詠子もその後ろに続き、外に出てドアを閉める。

 先に話を始めたのは宥介だった。詠子が何か言うよりも先に、宥介が口を開いた。

「弘くんと早苗ちゃんのことだろう?」
「さっすがぁ。気づいてます?」

 詠子が言おうとしていたことを宥介が言い当てて、詠子はその察しのよさに感心した。宥介ならば気づいていただろうと思っていた。

 詠子が言いたかったのは、弘と早苗の距離感だった。前々からよく話しているというのは実感していたが、二手に分かれた直後から、弘が異様なほど早苗の近くにいるのだ。詠子が宥介と話しているというのを抜きにしても、弘はとてもよく早苗と話している。とても楽しそうに。

 詠子は浮気を疑っていた。しかし、そう簡単に尻尾を出すとは思っていなかった。弘は馬鹿だろうが、早苗はそうではないだろう。おそらくは隠し通してくるはずだ。そこをどうにかして捕まえたい、というのが詠子の狙いだった。そのために宥介の知恵を借りようというのだ。

 宥介も概ね詠子と同意見のようだった。やはり、あの二人は関係性を隠している。

「まさかこのゲームの中で浮気されるとは思いませんでしたけどねぇ。早苗ちゃん可愛いから、仕方なかったのかなぁ」
「まだ決まったわけじゃない。断定するのは早いよ」
「でも、もうほぼクロですよ。問い詰めたら自白するんじゃないですかね?」
「それはやめてくれよ。ゲームが終わってからにしてくれないか。チームに影響が出るよ」
「はぁい。じゃあ、そーゆーことにしますね」

 詠子と宥介は小屋の中に戻る。詠子はもやもやした気持ちを抱えていた。

 そこには、言い逃れのできない状況が広がっていた。

 弘が早苗を押し倒し、キスをしていたのだ。早苗も抵抗する様子があるわけでもなく、弘の背に手を回してキスを受け入れている。ドアが開いた音で、二人は詠子たちが帰ってきたことに気が付いたようだったが、時は既に遅かった。

「なに、してるの」

 詠子は呆然とした口調を装うことができた。本性が殻を破って出て行きそうになるのを必死に押し留めて、可愛い葛城詠子を演じた。心の中では、ああやっぱりなという気持ちと、何をしているんだという驚愕と、怒りがごちゃ混ぜになっていた。

「う、詠子ちゃん、これは、違うの、これはっ」

 早苗が言い訳を口にしようとするが、いったい何をどう言い訳しても釈明にはならない。詠子は本性のままに激情を放とうとするが、すんでのところで抑える。

(ふざけんじゃねえぞ。こいつら、あたしと宥介さんもいるのに何やってやがる)

 詠子は本性と仮面のせめぎあいで声を出すことができなかった。それが混乱から来るものだと誤解したのか、早苗はすぐに弘から離れて言った。弘もごまかそうとして必死になる。

「詠子ちゃん、ごめんね、あの」
「う、詠子、俺、その、あの」
「いったん落ち着こう、みんな。状況を整理しよう」

 ここで冷静なのは宥介だけだった。宥介だけは当事者ではないのだ。宥介の声を受けて、沈黙が生まれる。詠子にはその沈黙がありがたかった。この間に本性を心の奥底に閉じ込めることができるのだから。

 宥介は詠子をダイニングテーブルの椅子に座らせ、早苗と弘をベッドに座らせた。自分もダイニングテーブルの椅子に座り、静かに口を開いた。

「まず、訊こう。早苗ちゃんと弘くんは何をしていた?」
「な、何って、そりゃあ」
「正直に答えてほしい。きみは、早苗ちゃんと何をしていた?」

 反論の余地を許さないような口調で宥介が問う。弘は口ごもり、声が出て行かない。

「キス、していました」

 代わりに答えたのは早苗だった。俯いたまま、決して詠子のほうを見ようとはしない。

「弘くんは、詠子ちゃんという彼女がいながら、別の女性とキスをした。そういうことだね?」
「だって、詠子が冷たくするからだろ! 早苗ちゃんは優しくて、俺を受け入れてくれて!」
「あたしが悪いの? あたしが優しくなかったから浮気したの?」

 可愛く振舞うなら、ここで涙を浮かべるべきだ。けれど、詠子の瞳に涙は出てこなかった。本性が激流のように渦巻いていた。許されるのなら、本性のままに弘を罵倒してやりたかった。でもここで本性を晒すわけにはいかない。可愛く、可愛く、可愛く。

 詠子は弘を睨みつけた。弘はその視線に怯えて、詠子から目を逸らした。

 ああ、だめだ。こんな顔をしたら可愛くない。可愛くないのに。

「詠子ちゃん。何か、言うことはある?」

 宥介が穏やかな声で詠子に問う。言ってやりたいことは山ほどあったが、可愛い葛城詠子が言うような言葉ではなかった。この場に及んでも、詠子はまだ葛城詠子という仮面を外さなかった。

「別れて。早苗ちゃんと付き合えばいいでしょ」
「言われなくてもそのつもりだ。早苗ちゃんはお前と違って優しいんだから」
「詠子ちゃん、あのね、弘くんは」
「いいよ、早苗ちゃん。あたしは悲しくない。弘くんを支えてあげて」

 詠子は早苗の言葉を遮り、小屋を出た。外の風を浴びたかった。そうでもしなければ、心の中で暴れまわっている本性が口から出て行きそうだった。

 小屋の外に出ると、爽やかな風に包まれる。火照った頭が冷やされていく。

 自分が悪かったのだろうか。もっと弘のことを考えるべきだったのだろうか。詠子は自問するが、別れて正解だったとも思っていた。このラビットハントを経て、詠子の中での弘の印象は大きく変わってしまった。参加する前のような愛情はなくなってしまった。だったら、これはよい機会だったのかもしれない。

 やはり男は可愛い女の子に弱いのだ。早苗のように、外見も中身も可愛い女の子には敵わないのだ。詠子が精一杯努力したところで、限界はあるのだ。そう思うと、詠子は悲しくなって、涙が溢れてくる。弘と別れたことよりも、早苗の可愛さに負けたことのほうが悔しかった。

「詠子ちゃん」

 名前を呼ばれて、振り向く。宥介が穏やかな表情でこちらへ来た。

 そして、宥介は詠子を優しく抱きしめてくれた。

「泣きたいなら泣けばいい。ぼくはいい言葉をかけてあげることはできないけれど、傍にいることくらいならできるよ」
「宥介さん、優しいんですね。惚れちゃう」
「そんな冗談が言えるなら大丈夫だね。もう、いいのか?」
「もうちょっとだけ、こうしてていいですか?」
「いいよ。きみの気が済むまで」

 詠子は宥介の腕の中で泣いた。宥介は黙ったまま詠子の頭を撫でてくれた。

 やがて、詠子が宥介から離れる。荒ぶる本性はまだ完全に潜んだわけではなかったが、隠せないほどではなくなった。これならもう大丈夫だと詠子は思った。

 宥介と詠子が小屋に戻ると、さすがに弘と早苗は距離を取っていた。二人とも詠子を怯えるような視線で見てくる。詠子は二人をねめつけた後、宥介に訊いた。

「宥介さん、これからどうします?」
「予定通り、西端の石碑を目指すよ。他に手がかりもないしね」
「はぁい。じゃ、行きましょっか」

 全員が無言のまま準備して、小屋を出る。詠子は弘と早苗を置いていきたい気分だったが、それを宥介に提案すると宥介の好感度が下がりそうなので、やめておいた。森の中で二人とはぐれてしまえばよいと思った。

 また森の中を進んでいく。チームの空気は重く、誰一人として口を開く者はいない。いつもなら後ろを気にする詠子だが、今日は一切後ろを見なかった。遅れてしまうなら遅れてしまえと思っていた。

「詠子ちゃん、待って。弘くんが遅れている」

 宥介に呼び止められて、詠子は足を止めた。見れば、弘と早苗が少し遠くなっていた。

(早く歩けよグズ。菜美さんじゃなくてお前が死ねばよかったんだよ)

「宥介さん、あたしたちだけで行きません? そのほうが早いですよ」
「立場が逆になったね、詠子ちゃん。前はきみがぼくを止めていたのに」
「あの二人には小屋でラブラブしててもらって、その間にあたしと宥介さんでちゃちゃっとクリアしちゃいましょうよ」
「一度、提案してみようか。弘くんは賛成してくれるだろうしね」
「早苗ちゃんが反対したって、三対一で可決でしょー? ほら、いけますって」

 詠子が推すと、宥介は苦笑した。

「今日の夜に提案しよう。いい小屋が見つかるといいけれどね」
「ほんとですねぇ。二人用の小屋だったら完璧じゃないですか」

 詠子は嫌味たっぷりに言った。足手まといの弘を小屋に置いてこられるのなら、探索のスピードも上がるし、何より顔を見なくて済む。詠子にとってはそれが最大のメリットだった。もう弘の顔を見ることさえ嫌になってきていたのだ。

 しかし、事態はそううまく運ばない。小屋が見つからないまま、一度目のサイレンが鳴った。それぞれの顔に焦りの色が浮かび始める。

「二回目のサイレンまで時間がない。どうにかして小屋を見つけないと」

 宥介が呟く。自然と宥介の足が速くなり、詠子でさえもついていくのが精一杯になる。

「ゆ、宥介さん、待ってください!」

 後ろから早苗の声がする。弘が遅れているのだろう。詠子は舌打ちしたい気持ちを抑えて、宥介の袖を引いた。

「宥介さん、後ろが遅れてます。ちょっと待ちましょう」
「わかった」

 そう言いながらも、宥介は周囲に目を走らせて小屋を探している。辺りはどんどん暗くなっており、視界が効きづらくなってきている。バケモノが徘徊する夜の森など、詠子は歩きたいとも思えなかった。

 少し遅れて弘が息を切らせながら追い付いてくる。それと同時に宥介は歩き出し、小屋を探す。しかし、小屋はどこにも見つからず、時間だけが過ぎていった。

 そんなことを繰り返しているうちに、二回目のサイレンが鳴った。

「あ、ああ、やべえよ、二回目が鳴っちまった」

 弘が怯えた声で言う。宥介は足を止めず、草木をかき分けて進んでいく。

 詠子には自分たち以外の足音が聞こえた。何かが近づいてくる。隣を走る宥介を見ると、宥介も同じ足音を聞いているようだった。

「来ているね。ぼくたちを追ってきている」
「きっと、バケモノですよね? まるであたしたちの位置がわかってるみたい」
「どうだろうね。隠れてやり過ごすことなんてできるんだろうか」
「できなかった時がやばいですよね。逃げるしかないって感じですかねぇ」
「そうだね。とにかく、ぼくたちは逃げるしかない」

 詠子たちは全速力でバケモノから逃げる。時々きいいと耳障りな声が森の奥から聞こえてくる。バケモノの声なのかもしれない。詠子たちを探して、バケモノが徘徊しているのだろう。

 小屋はまだ見つからない。いつもならすぐに見つかるはずなのに、こういう時に限って見つからないのだ。詠子は心中の焦りがどんどん強くなっているのを感じていた。自分の余裕がなくなっていく。可愛い葛城詠子を演じている余裕がなくなってくる。

 見つかれば殺される。小屋がないのだから、逃げ場はない。迫り来る死の恐怖がどんどん大きくなってきているのを詠子は感じていた。宥介のほうを見ると、宥介も焦りの色が見えた。

「うわっ!」

 どさり、と音がして詠子が振り返ると、木の根に引っかかって弘が転んでいた。すぐさま早苗が助けに行く。宥介と詠子は、おそらくこの時同じことを思っただろう。

「弘くんっ!」

 早苗が助け起こすと、弘は足を痛そうにしながら立ち上がった。しかし、思うように走ることができない。見かねた宥介が道を戻り、弘に訊いた。

「どうしたの、弘くん。足を捻ったのか?」
「そ、そうみたいです。痛くて、走れないっす」
「そんな……!」

 早苗は絶句した。今のこの状況で走れないというのは、死ぬこととほぼ同義だ。小屋以外の場所で一晩中隠れて過ごすことなどできるはずがないだろう。

 宥介は険しい顔をして、何かを考えている。きっと助ける方法を考えているのだろう、と詠子は思った。詠子とは全然違うことを考えているのだ。

「肩を貸そう。それでどうにか」
「もぉいいだろ。ここで隠れてろよ」
「う……詠子?」

 詠子が言った言葉で場が凍り付いた。いや、それは、詠子の口調からだったのかもしれない。

 可愛い葛城詠子の偶像を演じるのは終わりだ。今は、それよりも生き延びるほうが優先だ。

「行こ、宥介さん。こんな奴放っておけばいい」
「詠子ちゃん、弘くんを見捨てるって言うの?」
「死にたくねえんだよ、あたしは」

 突き放すように言った詠子の声は、全員に深く突き刺さった。皆が知る葛城詠子がそこにはいないことを誰もが理解した。

「どうすんだ、宥介さん。あたしと逃げるか、そいつらと心中するか、選べよ」
「う、詠子、俺を助けてくれないのか? お前、俺を見捨てて逃げるのか!」
「逃げるっつってんだろうが馬鹿。早苗も、どうする? 選ぶ権利はお前にある」

 きいい、と声がする。バケモノがすぐ近くまで迫っているのかもしれない。

 詠子は宥介を見た。宥介はしっかりと詠子の目を見つめ返すと、立ち上がった。

「ぼくは詠子ちゃんと逃げる。ゲームクリアにはそうするしかない」
「宥介さんも、弘くんを見捨てるんですか」

 責めるような口調で早苗が言う。宥介の表情は変わらなかった。

「ぼくが見ているのは、ゲームクリアだ。そのためには詠子ちゃんについていくしかない」
「早苗は残るんだな? じゃあ、ここまでだ。精々二人で仲良く死ねよ」

 詠子はそれだけ言って歩き出した。もう一刻の猶予も残されていなかった。いつバケモノに遭遇するのかわからないのだ。一秒でも早く小屋を見つけて逃げ込まなければならない。

「恨んでやる!」

 後ろから早苗の声がした。それでも、詠子も宥介も振り返らなかった。

「わたしたちを見捨てたこと、恨んでやるから! 絶対に、絶対に、許さないから!」
「そうかよ。知ったことじゃねえな」

 詠子はぼそりと呟いて、無言でついてくる宥介と二人で小屋を探す。がさがさと木をかき分ける音がするたびに、詠子と宥介は身を屈めてやり過ごす。

 木の間に隠れると、目の前を白い仮面をつけたバケモノが通り過ぎていく。気づかれなかったことに安堵して、詠子と宥介は再び小屋を探すために走る。

 弘たちと別れてからしばらくして、詠子と宥介はようやく小屋を見つけた。二人用の小さな小屋だった。しかしこちらも二人なのだから、ちょうどよいサイズになってしまった。

 小屋に逃げ込んで扉を閉めると、安心感が急に湧いてきて、詠子はそのままベッドに飛び込んだ。ぼふん、と柔らかい布団が詠子を出迎えてくれる。

「詠子ちゃん、お疲れ様。逃げきれてよかったね」
「ほんとですねぇ。いやぁ、一時はどうなることかと」

 一度外した葛城詠子の仮面を被り直す。けれど、宥介はそれを見て笑った。

「今更取り繕ったって無理だよ、詠子ちゃん。きみの本性はあれなんだろう?」
「えぇ? 何の話です?」
「ごまかさなくていいよ。ぼくしかいないんだからさ」

 宥介はやわらかく笑って言った。

 詠子は観念した。もう、葛城詠子を演じることはできないのだ。

「んだよ、まさかバレるとはなぁ。親にだってバレてねえのに」
「ぼくしか知らないんだ?」
「そぉだよ、宥介さんしか知らねえよ。くそ、あんなことがなけりゃバレなかったのに」

 詠子は弘を恨んだ。弘があんなところで転ばなければ、自分の本性が明かされることはなかったのに。浮気現場を押さえた時だって騙せたのだから、詠子は隠し通す自信があった。

 これが詠子の本性だ。言葉遣いは荒く乱暴で、可愛さの欠片もない。この本性をひたすらに隠してきた。親にも、友人にも、誰にも気づかれてこなかった本性が、宥介に知られてしまった。詠子にとっては大きな事件だった。

 けれど、宥介は意外な反応を見せた。

「そのほうがきみらしくていいと思うよ。今までのきみは、何か裏があるようだったから」
「そんなこと言われたことねえよ。みんな可愛い葛城詠子を可愛がってくれてる。本性なんて隠しておくほうがいいんだ」
「ぼくの前では葛城詠子を演じる必要はない。もう、知ってしまったからね」
「そーだな。ま、そーゆーわけだから、よろしく」

 詠子が起き上がって宥介に言うと、宥介はにこやかに笑った。

「さて、まずは夕食にしようか。二人分だと用意が楽でいい」
「いい加減パンもカレーも飽きてきたよな。何か目新しいものはねえの?」
「牛丼があるね。これにしようか」
「お、いいねぇ」

 詠子と宥介は食事の準備を始める。バケモノから逃げきったことで、二人の心にも余裕が生まれていた。その余裕は、心の隙とも呼べるものだった。

 だから、気が付かなかったのだ。

 詠子と宥介の二人になれば、探索のスピードは格段に上がった。

 まず朝が早かった。詠子は朝のサイレンより前に起きてしまい、それから朝食を済ませて準備しても、それまでよりかなり早く小屋を出ることができた。夕方までの時間制限があるゲームにおいては、朝早く出られるというのは大きなポイントだった。

 そして、森の中を歩く速度も速くなった。宥介は詠子だけを気にしながら歩くことができるので、どんどん先へ進むことができた。二人は西端にあるはずの石碑を目指していた。

 詠子は足元に注意して歩きながら、宥介に話しかけた。

「まだ着かねえんだな。ったく、どんだけ広いんだよ」
「方向は合っているはずだよ。もう少し歩いたら着くんじゃないかな」
「もう少し、ねぇ。あとこれくらいですって誰か教えてくれりゃいいのに」
「そんな便利なシステムがあったらゲームが成立しないよ」
「そういや、これゲームだったな。とんでもねえクソゲーだよ」

 詠子は本性を隠すことなくさらけ出す。可愛い葛城詠子の仮面を外して会話できるのはとても楽だった。可愛くありたい、可愛くなければならないという呪縛から解放されるのはこんなにも楽なことだったのかと実感してしまった。

 でも、これは宥介の前だけだ。他の人の前では仮面を被らなければならない。可愛くありたいと思う自分がいなくなったわけではないのだ。宥介の、本性を知る人の前だけでは、本性を見せられるのだ。

 詠子の本性を知っても、宥介は何も変わらなかった。むしろ好意的に受け止めているようだった。詠子にとってはそれも喜ばしいことだった。本性を知って、怖がられたり軽蔑されたりするのがいちばん困る。宥介のように何も反応しないのが最良だ。

 森の中を進んでいくと、急に開けた場所に出た。波が岩にぶつかる音がする。崖の上に石碑が立っているのが見えた。

「お、着いたんじゃねえか?」

 おそらくあれが西端の石碑だろう。詠子が近づこうとすると、宥介が詠子の手を掴んで止めた。

「危険だ。何があるかわからない。慎重に行こう」

 菜美を失った時のことを言っているのだろう、と詠子は思った。あの時は菜美が不用意に近づいて水を浴びてしまった。今回もそれがないとは限らない。むしろ、何か仕掛けられていると踏んだほうが安全だろう。

 宥介と詠子はゆっくりと石碑に近づいた。石碑には何も書いていない。石碑というよりは墓標のようなものだった。ぐるりと一周回ってみても、何かが隠されている様子はなかった。

 ひととおり調べて、宥介は考え込む。当初の推測では、ここにウサギが隠されているはずだったのだ。しかし、ウサギどころか宝箱さえ落ちていない。ここではない、と考えるのが妥当だった。

「ここじゃないのか? だとしたら、夕陽を臨む石碑とは何だ?」
「ここ以外にも石碑があるんじゃねえの? 地図には載ってねえけど、あえて載せてねえのかもしれねえだろ」
「うん、そうかもしれない。とりあえずここにはもう用はない。動こう」

 詠子と宥介は西端の石碑から離れ、また森の中に戻る。歩きながら、詠子は宥介に尋ねた。

「どうやって探す? 西側にあるのは間違いなさそうだよな」
「崖沿いに歩いてみようか。もしかしたら石碑があるかもしれない。夕陽を臨むっていうことは、森の中にはないだろうしね」

 詠子は頷き、崖に沿って森の中を歩き始める。西端の石碑から南の方向へ進むことになる。

 宥介の後ろに続きながら、詠子は宥介に話しかけた。

「西端の石碑は何のためにあったんだろうな? フェイクか?」
「何の意味もないことはないだろうから、何か意味があるとは思う。けれど、今はわからない。今のぼくたちに必要なものなのかどうかもわからない」
「そーだな。歩き損じゃねえことを祈るよ」

 二人は他の石碑を探して南下する。しかし、石碑らしきものは見当たらなかった。時間だけが過ぎていき、二人の体力も削られていく。

 そして、夜を告げる一度目のサイレンが鳴った。探索をやめて、小屋を探す時間になる。幸いにも、今日はすぐに小屋を見つけることができた。詠子と宥介は見つけた小屋に入る。小屋は四人が泊まれるような広さで、備品も四人分用意されていた。

「今日はすぐに見つかってよかったね。もうバケモノから逃げるのは嫌だよ」
「だな。広い場所だし、ゆっくりと寛がせてもらうか」

 詠子はベッドに身を投げ出した。柔らかな布団が詠子を包み込んでくれる。

 詠子は嫌でも弘と早苗のことを思い出してしまう。あの時、切り捨てた自分は正しかったのだろうか。弘と早苗を救う手立てはなかったのだろうか。見捨てるのではなく、助けていたら、今頃はまだ四人だったのではないだろうか。

 いや、あれでよかったのだ、と詠子は自分を納得させた。自分が助かるにはああするしかなかった。四人で逃げ切ることなど不可能だった。

 宥介は電気ポットで湯を沸かし、コーヒーを淹れた。コーヒーのかぐわしい香りが詠子の鼻をくすぐる。詠子は身体を起こし、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいる宥介のところに行った。

「ああ、詠子ちゃんもコーヒー飲む?」
「そーするよ。ああ、いいよ自分でやるから」

 動こうとした宥介を制して、詠子は電気ポットのスイッチを入れる。すぐに湯が沸いて、詠子はコーヒーを淹れた。カップを持って宥介の隣に座る。

「あれ、ブラックで飲むの?」

 宥介は詠子が何も入れないことに驚いたようだった。詠子はブラックコーヒーを口に含む。苦みが頭を冴えさせてくれる。

「ブラックで飲むより、ミルクとか入れたほうが可愛いだろ。だからだよ」
「ああ、なるほど。ぼくの前ではもう演じなくていいからね」
「演じてほしいなら演じてやるけど?」

 詠子が尋ねると、宥介はやわらかい微笑みを見せた。

「そのままのきみのほうが好きだよ。見た目と中身のギャップがあって」
「そーかよ。それ、見た目は可愛いってことか?」
「ああ、うん、詠子ちゃんは可愛いと思うよ」
「あたしより早苗のほうが可愛かっただろ。あたしはああいう女子になりたかった」
「そうかな。ぼくは詠子ちゃんのほうが好きだったけれど」

 宥介は何を思ってそんなことを言っているのか、詠子にはわからなかった。今のこの状況で詠子を褒めても、何の意味もない。まあ、ただの雑談程度なのだろうと詠子は軽く流した。

 わずかな沈黙が流れる。宥介は気にする様子もなく、この静かな時間を楽しんでいるようにも思えた。

「なあ、宥介さん」
「うん?」
「早苗と弘は生きてると思うか?」

 詠子が尋ねると、宥介は首を横に振った。

「生きていないだろう。あの状況で生き残れるとは思えない。バケモノに見つからないはずがないし、どこかへ移動できる状態でもなかった」
「あたしたち、これでよかったんだよな?」
「ゲームクリアのためなら仕方なかった。ぼくたちは全員生き延びることを目的としていない。あくまで目的はゲームクリアだ。あの場ではああするしかなかったとぼくは思う」
「そう、だよな。悪い、変なこと訊いて」

 詠子の中では罪の意識があった。自分が見捨てなければ、弘と早苗は助かったのではないか。助けられたのではないかという思いが詠子を苦しめていた。宥介の意見を聞いて、詠子の罪の意識は少しだけ和らいだ。

 そうだ。ああするしかなかったのだ。あんな浮気野郎のために自分を危険に晒す必要なんてない。詠子は自分を納得させて、コーヒーで嫌な思いを腹の中へ流し込んだ。

「詠子ちゃんは優しいね」
「なんだよ急に。気持ち悪い」
「ぼくは弘くんと早苗ちゃんを見捨てたことに何とも思っていない。ただついてこられなかったから切り捨てた、それだけだ。でもきみは違う。どうにかしたら助けられたんじゃないかって思っているんだろう?」

 宥介はコーヒーを啜る。詠子は宥介の顔をじっと見つめて、頬杖をついて言った。

「確かにそう思ってる。あたしが殺したようなもんだよなって」
「そうだとするなら、ぼくも同じだ。ぼくときみが殺した。ぼくもその罪を一緒に負うよ」
「ありがとな。元気づけてくれてんだろ?」
「そうだね。ぼくのパートナーだからね」
「でもあたしがついてこれなかったら切り捨てるんだろ? ゲームクリアのために」
「どうだろうね。詠子ちゃんは必要だから、どうにかして救う方法を考えるんじゃないかな」
「ええ? そーなの?」
「そうだよ。詠子ちゃんを失うわけにはいかない」

 意外な返答に詠子は戸惑った。宥介の中での自分は、どうやら高い位置にいるらしい。

 沈黙が流れた。宥介はコーヒーを口に運び、それから言った。

「夕陽を臨む石碑はどこにあると思う?」

 詠子は考える。夕陽を臨む石碑とは、いったいどこにあるのか。

「今日探した範囲にはなかったよな。ほんとにあるのか? 実は石碑なんてなくて、ただの石ころを石碑とか言ってるんじゃねえのか?」
「その可能性はある。ぼくたちが石碑だと思っていないものを石碑と表現しているのかもしれない」
「じゃあ見つけようがねえだろ。もっとどーんと目立つものにしてほしいよなぁ」
「どーんと目立つもの。やはり、あの西端の石碑か?」

 宥介が詠子の言葉を受けて話す。詠子は頬杖をついたまま、じっと考える。

 夕陽を臨む石碑。夕陽を臨む。

 まさか。詠子はそれに気づき、宥介の顔を見た。宥介は驚いた顔をしていた。

「どうしたの、詠子ちゃん」
「夕陽を臨むんだよ。あの西端の石碑で合ってたんだ」

 詠子の意図が伝わらず、宥介は首を傾げた。詠子はその勢いのまま、宥介に話す。

「夕陽を臨む時間帯だけなんだ。その時間帯だけ、ウサギが出てくるんだよ」
「……なるほど。確かに、ぼくたちが行った時間帯は昼だった。夕陽ではない」
「だから、夕方に行ってみよう。もしかしたらウサギがいるかもしれねえ」
「でも、賭けだね。夕方まであの石碑にいたとしたら、小屋まで戻ってくるには時間が足りない。もしこの推測が間違っていたら、バケモノから逃げることになる」

 宥介は冷静に分析する。あの西端の石碑の近くに小屋はなかった。見落としているだけかもしれないが、宥介が言うように、二度目のサイレンまでに小屋に辿り着くのは不可能だろう。

「片方は小屋にいて、もう片方がウサギを探しに行くっていうのはどうだ? 全滅は避けられるだろ」
「いや、二人で行こう。これでだめならそれまでだ」
「いいのか? ゲームクリアのためなら分かれたほうが安全だぞ」
「一人じゃできないことがあるかもしれないだろう。ウサギを取る寸前に水トラップがあるかもしれない。だから二人で行ったほうがいいよ」

 宥介の言うことも尤もだった。だから詠子は頷き、宥介の提案に賛成した。

「わかった。じゃあ明日は西端の石碑に戻るか」
「推測が合っていればいいけれどね。それを願うしかないか」
「だめだったら逃げるだけだ。大丈夫、何とかなるだろ」

 詠子が楽観的に言うと、宥介は笑った。

「そうだね。何とかなる。詠子ちゃんといるとそんな気がしてくるよ」
「そりゃどーも。宥介さんも、頼りにしてるぞ」

 二人で微笑を交わす。二人の間には確かな絆が生まれていた。

 翌日、詠子と宥介は西端の石碑まで戻ってきた。時刻はまだ昼過ぎで、夕陽が差すような時間帯ではなかった。念のため周囲を調べてみたが、ウサギが置いてある様子はなく、水トラップも仕掛けられていなかった。

 詠子と宥介は石碑の近くの木陰に座り、時間まで待つことにした。詠子の推測が正しければ、夕陽が差す時間帯になったらこの石碑にウサギが現れるのだ。今はそれを信じて待つしかなかった。

 ただ時間が過ぎるのを待つのは退屈だった。景色が変わるわけでもなく、波が岩にぶつかる音だけが響いている。

「ゲームクリアしたら賞金とか貰えねえかな」
「何らかのお金は貰えると思うよ。迷惑料は請求したいところだね」
「宥介さん、金貰ったら何に使う?」

 詠子が尋ねると、宥介はうぅんと唸って考え込む。

「何だろうね。金額にもよるけれど、貯金するような気がするな」
「うわ、夢がねえな。もっとぱぁっと使わねえのかよ」
「詠子ちゃんはどうする?」
「旅行行こうかなぁ。国内旅行に行けるくらいの金は欲しいよな」

 詠子はこれでゲームがクリアできると信じていた。自分の推測が誤っているとは思っていなかった。夕陽が出る時間になれば、この石碑の近くのどこかにウサギが現れるのだと思っていた。

 だから、がさがさという草木をかき分ける音がした時、詠子はにわかに緊張感を抱いた。

 バケモノが出てくる時間帯ではない。今まで野生生物に遭遇したことはなかった。だから、その正体が何なのか、詠子には推測できなかった。

 同じ音を聞いて、宥介も立ち上がって身構える。石碑を背にするようにして、詠子と宥介はその音の正体が現れるのを待った。

 そして、その音の正体が現れた時、詠子は驚くことしかできなかった。

「さ……早苗?」

 森の向こうから現れたのは、泥だらけになった早苗だった。あちこちに切り傷ができていて、ぼろぼろの状態だった。その瞳は憎悪に染まり、ただ一心に詠子を見つめていた。

「見つけた。やっと、見つけた」

 早苗は掠れた声でそう言った。詠子も、宥介も、言葉を失っていた。

 早苗は弘と一緒に死んだのではなかったのか。あの状況下で、生き延びることができたというのか。早苗の瞳はまっすぐに詠子を見つめて、睨みつける。

「どうやって生き延びた? 弘くんはどうした?」

 宥介が早苗に問うと、早苗はその憎悪に染まった瞳を宥介に向けた。宥介は怯える様子もなく、その視線を受け止める。

「弘くんは死んだよ。バケモノに殺された」
「ならどうしてきみは生きている? きみはバケモノに狙われなかったのか?」
「さあ? バケモノはわたしも仕留めたと思ったんじゃない? いずれにしてもわたしは生き延びた。あの夜を越えることができた」

 早苗は制服のポケットからナイフを取り出した。陽光を受けてナイフの刀身がぎらりと光る。

「思ったの。わたし、あなたたちを殺すために生かされたんじゃないかって」
「馬鹿なことはやめろ。このまま待っていればゲームはクリアできる。きみも元の世界に戻ることができるはずなんだ。今ここでぼくたちと争う意味なんてない」
「今ここでしかあなたたちを殺せないでしょう? 現実世界に戻ったら誰かに止められちゃうに決まっている。誰にも止められないここなら、あなたたちを殺すことができる」

 早苗はナイフを構えてじりじりと近寄ってくる。

 宥介はジャケットのポケットから水鉄砲を取り出して、詠子に渡した。そういえばこんなものを拾っていたことを詠子は思い出す。

「詠子ちゃん、ぼくが早苗ちゃんを押さえこむ。きみはその水鉄砲で早苗ちゃんを撃ってくれ」
「撃てって、お前が巻き込まれたらどうすんだよ」
「そこはきみの腕の見せ所だろう? 頼んだよ、相棒」
「くそ、厄介な役回りばっかり押し付けやがって。間違って水かかっても知らねえぞ」

 詠子は水鉄砲を構える。どれくらいの飛距離があるのか、どれくらいの水が出るのかはわからない。早苗だけを狙う必要がある。チャンスがさほど多くないことは、詠子自身も理解していた。

「宥介さん、わたしが殺したいのは詠子ちゃんなの。詠子ちゃんだけ殺させてくれたら、宥介さんは助けてあげる」
「その交換条件は飲めないな。ぼくにとっても詠子ちゃんは大切な人だから」
「そう。じゃあ、まずは宥介さんから殺してあげる」

 早苗はナイフを構えて突進した。宥介はかろうじてそれを避け、ナイフを持っていた早苗の手を掴む。揉みあいになり、ナイフの先端があちらこちらに揺れる。

 この状況でどうやって早苗だけに水を掛けろというのか。早苗がこちらを向いたと思ったら、次の瞬間には宥介がそこに割り込んでくる。詠子は水鉄砲を撃つタイミングを探していた。

「詠子ちゃん、早く!」
「うるせえ! もうちょっと動かねえようにしろよ!」

 宥介は早苗を投げ飛ばした。早苗の小さな身体は簡単に転がっていき、ナイフも地面に落ちる。早苗は俊敏な動作でナイフを拾うと、再び宥介に突っ込んでいった。

「殺してやる、殺してやる、殺してやるっ!」

 宥介はまた早苗の手首を掴み、どうにか抑えようとする。しかし詠子が水鉄砲を撃てる決定的な隙は生まれない。

 詠子は思考する。どうすれば早苗にだけ水鉄砲を当てることができるだろうか。

 そして思いついた。これなら、確実に早苗だけに当てることができる方法。

「放して! わたしは、わたしはっ、弘くんの仇を取るんだからっ!」
「やめろ! そんなことをしたって何にもならないだろ!」

 宥介が早苗のナイフを弾き飛ばして、地面に押し倒した。詠子は走って早苗に近づく。

「宥介さん、そのまま押さえてろ!」

 詠子は早苗の首元に銃口を当てて、引き金を引いた。水がぶしゅっと発射されて、早苗の首輪が反応する。

「プレイヤー西原早苗。水濡れを確認。ゲームクリア失敗」
「あ……あ、ああ、あ…っ」

 もがき苦しむようにしながら早苗は首を搔きむしる。そして、そのまま砂のようになって姿が消えていく。

 後に残された詠子と宥介は顔を見合わせた。互いに言葉はなく、ただ早苗の怒りを噛みしめていた。

 気づけば夕陽が差す時間帯になっていた。石碑に夕陽が当たり、影ができる。我に返った詠子が石碑の周りを調べると、石碑が少しだけ動き、下から銀色のウサギの像が現れた。

 詠子はそのウサギの像を手に取る。しっかりとした重量感のある像だった。

「これが、ウサギか?」
「そのようだね。これでゲームクリア、かな?」

 詠子と宥介はその時を待つ。そして、その時が来る。

「プレイヤー葛城詠子。プレイヤー大槻宥介。ウサギを獲得。ゲームクリア成功」

 ざざっという雑音とともに、自分の意識が上に引っ張られる感覚に襲われる。現実世界に戻されるのだろう。ゲームクリアの余韻に二人で浸る間もなく、二人の意識は薄れていく。

 ただひとつだけできたのは、手を繋ぐことだけだった。



 あのラビットハントから半年が経った。

 四人もの死者を出したあの事件以来、ラビットハントは休止している。再開の目途も立っていないそうだ。なぜAIが反乱を起こしたのか、どうすれば防ぐことができるのか、それが解決されるまでは、ラビットハントが再開されることはないだろう、と言われている。

 生存者である詠子と宥介はメディアの取材を受けていたが、最近は過去の話となり徐々に風化しつつあった。それでもよい、と詠子は思っていた。

 ラビットハントをクリアしてから変わったことがひとつある。宥介との関係性だ。

 詠子は隣を歩く宥介と腕を絡めながら、上機嫌に歩いていた。

「宥介さん、あたし水族館なんて久しぶりですよぉ。イルカのショーとか見ましょうね」
「そうだね。あの水族館の名物らしいからね」
「あたし、水浸しになってもいい服着てきたんで。準備ばっちりですっ」

 詠子がそう言うと、宥介はふっと笑った。詠子が好きな表情だった。

 ラビットハントが終わって、二人はすぐに交際を始めた。言い出したのは宥介だった。詠子は、宥介が緊張した面持ちで好きだと言ってくれたことを昨日のように思い出すことができる。詠子の本性を知ってもなお、宥介は詠子が好きだと言ってくれた。それが詠子には嬉しくて、交際を始めることにしたのだ。

「詠子ちゃん、ぼくの前なんだから猫被らなくてもいいのに」

 詠子は宥介と二人きりになった時だけ、本性を晒すようにしていた。外ではいつものように猫を被り、可愛い葛城詠子を演じている。そのほうが宥介にとってもよいと思うのだ。

「だめですよぉ、誰が見てるかわかんないんですからぁ。あたしは誰からも可愛く見られたいんですっ」
「本性のままの詠子ちゃんも可愛いと思うよ」
「や、あの、そーゆーのは、お部屋で二人きりの時に言ってください。恥ずかしいんで」
「そう。じゃあ、そうするよ」

 宥介は笑って、二人で水族館への道を歩いていく。

 詠子は宥介の手を握りながら、幸せを感じていた。

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