闇の龍神様と癒しの神子

━━━━翌日。

神代家で今回の件の報告会や今後について話し合いをすることになった。
十六夜としては榛名に害がなければ無関心無関係でどうでもいいが、今回はそんな訳にもいかない。

今回の話し合いの参加者は十六夜、榛名、光希、七宝、神代家当主、妖狐の当主、天狗のアヤカシの音羽の7名で大広間を使うことに。
榛名の護衛としてムクとミク、葵も縁側で控えていた。

まず光希の番で妖狐のアヤカシ・七宝を襲ったりアヤカシ界を追放した件。
天狗の当主は昔はかなり破天荒で権力を振りかざしており、妻の音羽が更生させた。
息子の翼には父親に似ないように厳しく躾をしたが番を見つけ、番の我儘と傲慢な性格と番を溺愛したの末に誑《たぶら》かされたのか徐々にやりたい放題の不良になり、手が付けられなくなったあげく父親を巻き込んだ。父親である当主も羽目を外したように破天荒になり雪愛に甘くなった。
そして2人は害になる妻であり母親でもある音羽に毒と思われる変な液体を与え続け、監禁したのだとか。

次に翼と天狗の当主についてだが、これには榛名もビックリしてしまった。
翼は雪愛に光希が自分に逆らうのが許せないからと誑かされ言われがまま、七宝を襲ったり追放した。


そして榛名の力を我が物にするため翼は側室、当主は実験動物にしようとし捕らえた。

2人の現状だが榛名が神代家に待機させられていた後、雪愛のためと理性を失った翼が天狗の化け物になり自分の父親を潰しアンパンにし、あれだけ溺愛していた雪愛を魂ごと食べてしまい、雪愛は実質亡くなってしまった。

音羽は雪愛の罪の大きさを考え、あえて何もしなかった。化け物状態の翼を音羽がワンパンでブチのめした。

今後についてだが、妖狐の息子である七宝に手を出したことや今回のこと、島やアヤカシ界での振る舞いについて天狗側は重く受け止め、妖狐側への心からの謝罪をした音羽。
天狗のアヤカシは最上位から退き、今後は妖狐のアヤカシが最上位になってもらうことになった。

妖狐側も天狗に対して怒りを感じていたが、諸悪の根源である雪愛が居なくなった事で許した。

七宝もアヤカシ界に帰れることになった。

他のアヤカシの一族たちの理解や色々とあるだろうからすぐとは行かずとも、数年後には妖狐のアヤカシが最上位になっているだろう。
その時には七宝が当主となり七宝を番の光希が支える日がくるのかもしれない。

最後に翼と神楽家について。

翼は正気に戻り、音羽から父のことや雪愛のことを、聞いた。
翼は愛していた雪愛を自ら手にかけたことがショックで意気消沈し生気を失い魂の抜け殻になってしまったらしい。
今は反省させるために厳重に牢獄に閉じ込めて、今後は更生させていきたいとのこと。


神楽家については十六夜の神子である榛名を虐げたあげく雪愛と手を組んだことによる罪人として、十六夜の命令で神代家当主は捕まえ、牢屋送りにした。
神代家に裁きは任せるそうだ。


「雪愛…冬史郎お兄様…」
まさかこんな事になるとは思わなかった。
家族なんて捨てたしいらないと言ったがまだ情があるのだろうか。心がモヤモヤした。

『気にするな。いずれ俺はお前の家族になるんだからお前の苦しみと共に家族を忘れろ』

十六夜が優しく声をかけてくれるとモヤモヤはあれど「家族になる」という言葉が嬉しかった。

十六夜は神代家当主に以前伝えた霊力のない者も平等に扱う事と榛名がいるので生贄は必要がない事、そして本来の姿に戻った暁には東ノ島に戻ることを伝えた。


十六夜と榛名は帰ることにした。
音羽と妖狐の当主はまだ今後の話し合いがあるため暫くいるらしい。

帰ろうとした時に声をかけられた。

光希と七宝だ。

「色々とお世話になりました。七宝様も無事に帰れるようで良かったですわ」

「光希様、七宝様、私のために色々とお世話になったのは私ですよ」

「あの…おこがましいのですが…」
光希は恥ずかしそうにしていると

「榛名様のお友達になりたいです。一時的ではありますが榛名様と過ごし…仲良くなりたいと。神子としてではなく榛名様自身とです」

「えっ…わわっ!宜しくお願いします」

榛名と光希はお互い握手をし、友達になった。

すると十六夜は榛名の背中から抱きしめ
『だが榛名の親友は俺様けだ!』
「十六夜様ったら…」
女同士でも嫉妬してしまうようだった。

「あらあら…お互い大変ですわね」
「光希、お互いって何?」
光希は七宝を微笑ましそうに見ながら
「七宝様は私が心配で学校の帰りを尾行したり、誰もいない部屋で私とキスしたいと悶えていらっしゃいますよね?」
「バレてたのか…」
「年は離れていても番なのですからキスしてもいいんですよ。むしろ…して欲しい…ですわ」

「えっ…」
七宝も光希も顔を赤らめた。


幸せそうな2人を見てるとこちらまで幸せになってしまう。
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十六夜(龍の姿)に乗りながら海を眺めていると、十六夜は言いづらそうに榛名に伝えた。

『お前がこの後予定なかったらだが……帰ったら一緒に湯浴みをしないか?……それで……お前と心と体も一つになりたいというかだな……愛したいんだが…その……嫌なら断っていいからな…』

「湯浴みは恥ずかしいのでちょっと…でも私も十六夜様と一緒になりたいです…」

恥ずかしそうになりながら伝えると十六夜は嬉しそうにしていた。




湯浴みをし、寝室に向かった。
今では十六夜の部屋でもあり榛名の部屋でもある。
昼間だが2人の前では関係ない。

襖を開けると十六夜はすでに待っていた

「…失礼します」
『ああ…』
榛名もだが十六夜も緊張していた。

「ペンダントに私の神通力入れ終わりました」
『かけてくれないか。榛名のおかげで助かったよ』
「いえいえ」

十六夜への想いを込めたペンダントがまさか十六夜の命を救ったと聞き、そんなことができるなんて思わなかったが十六夜の助けになったのなら贈ってよかったと思った。

『榛名にいつも守られている気分だ』
十六夜は榛名に愛おしいそうに優しいキスをした。

体を重ねた。



榛名には十六夜の神通力はわからないが愛を感じ、十六夜は榛名の愛と凄まじい神通力を感じながら2人だけの世界へいった。

「んっ…?」
榛名は目を開けると外には朝日が昇っていた。

「いつの間に朝に?」
体を起こし、隣に寝ている十六夜を愛しそうに見つめ、髪を撫でる。

(いつも撫でてくれるからたまには私もいいよね……ん?)

「………」
呆然と眺めていると十六夜が起きた。
『榛名…おはよう』
朝から優しく甘々笑顔を見せるが榛名の反応がない

『どうした?』
「十六夜様…髪が…それに瞳も…」

十六夜は部屋の鏡で確認すると青みがかった黒髪から濃い青髪に、瞳は黒から月のように美しい金色の目になっていた。


『…………………』

十六夜は全裸で部屋を出て走りだした。

「きゃあですわん!」
「変態ヘビなの!」
「捕まえるですぅ!」
など大騒ぎになっていた。



十六夜は龍神の姿になり、海面に映る自分の姿に歓喜の唸り声をあげた。
榛名も急いで外に出るとあまりの美しさに目が釘付けになっていた。


黒い龍はキラキラした綺麗な青い龍になっていた。
その姿は青龍。


十六夜は喜びのあまり踊るように海に潜っては泳ぎを繰り返した。

落ち着ついたのか十六夜は人型に戻ると全裸だったはずが、和装と洋装が混じった不思議な服装をしていたが最初に会った時とは違い、青色と黒色を基調として色が変わるだけで印象が変わる。
十六夜の美しさは変わらないが更に美しく高貴な感じで凛々しくて格好いい。


榛名は見惚れてしまい動けなくなる。

十六夜は榛名を強く抱きしめた。

『お前は本当に凄いな。早くて1年かと思ったら1日とはな…』
「ありがとうございます。十六夜様を近くに感じたら幸せで幸せで堪らなかっただけなんですが……」

『榛名が幸せを感じると力が覚醒したり凄い力を発揮できるって事か?』

「そうなんでしょうか?…十六夜様に恋をしてからのキスは幸せでした…私を神子や番だと言ってくださった時には最高に幸せで…私の力じゃなくて十六夜様の力です」

十六夜は榛名と見つめ合う
『そうか…だったらもっと幸せにしてしないとな。……榛名、正式に俺の番になってほしい』

「はい、よろしくお願いします」

お互いに抱きしめ合い、誓いのキスをした。




榛名が朝の湯浴みをしている間、十六夜は机の引き出しに隠した手紙を開封した。
玄武の翡翠が『もし貴方が本来の姿に戻った時に開けなさい』と渡されたものだ。

中身を確認すると少し眉がピクッと動いた。



十六夜から結婚式をやらないかと提案された。

以前、ウェディングドレスのショーウィンドウを榛名が見ていたことを覚えてくれたのだ。

言い出したはいいが、初代神子の八重とは式はしていなかったらしく、和式洋式問わず十六夜には結婚式の知識はなかった。

会場は十六夜の住む島で招待客はいない。
かなりシンプルなものになるが榛名にとっては嬉しくて仕方なかった。


「あの結婚指輪買いませんか?十六夜様とお揃いが欲しいです」
『お揃いか…わかった』
以前より我儘が言えるようになった。

自分の我儘で十六夜が危険にあったので二度と言わないと思ったが十六夜から『我儘言ってくれないと俺が欲求不満になるから言ってくれ』とのことで雪愛のようにならないよう、十六夜に感謝を忘れないようにしている。


指輪は小さなサファイアの宝石が入った名前を刻印して貰うようお願いした。
出来あがったらお互いの神通力を込めようと話した。


休憩がてらミルクティーを飲んでいると隣の十六夜から肩を引き寄せられた。
十六夜を感じながらのミルクティーは最高だ。


『榛名、嫌だったら断ってくれてもいいんだが…翡翠から神の手紙をもらってな』
「はい」

『…俺と天界に行かないか?』

「えっ?神様や天界に捨てられたと、おっしゃってましたよね?」

『ああ、それは間違いない。俺じゃなくて榛名を天界に迎えたいらしい。俺はオマケだ』

「……」

『俺が元の姿に戻ったらって条件なようでな、お前の癒やしの力をただの人間にしておくのは勿体ないから神の仲間にならないかと』

「私が神に?」

『人間の生は長くて100年ほどだが天界の仲間になれば永遠の時が生きられるんだ』

「つまり永遠に私は十六夜様と一緒にいられるんですね。私は十六夜様と一緒ならどこへでも行きます。十六夜様が天界にお帰りになられるのなら付いていきます」

『榛名…俺は天界に帰りたい。一緒に行こう』

「はい!ムクちゃん達も一緒ですよ?」
『そのつもりだ』


ムクたちに天界に行くと話すと「天界行ってみたかったですぅ〜」と喜んでいた。


十六夜が本来の姿に戻ることが条件なので、いつ帰ってもいいらしいので結婚式を挙げた後に話した。

此処にいられるのも後少し。
荷造りや片付けを始めた。
十六夜からは『またこの島にも街にも来たい時に来れるしたまに東ノ島を視察しに行かねばならんからな』と言われたが綺麗にしたい。


「うふふっ。ワタクシは榛名様と短い付き合いですが、初めて会った時よりも輝いて素敵ですわん」

「ありがとう、葵」

「私はあの島を出て行って変わったと思う。十六夜様に出会えなかったら生きていなかった。生にしがみついて良かったって思うよ」

「ワタクシも榛名様に会えて嬉しいですわん。いつまでもどこまでも付いていきますわん」

榛名と葵はハグを交わした。

そんな2人の会話を盗み聞きしていた十六夜は嫉妬しムクとミクになだめられていた。


結婚式を迎える日はすでに4月になっていた。

この島にも桜が咲き誇っている。

(私はまだ自分に自信がない。もっと強くならなくちゃね!)
榛名の今の目標だ。

葵に化粧やウェディングドレスを着るのを手伝ってもらった。

自分の花嫁の姿になんだかソワソワしてきた。
十六夜と結婚する自分が信じられない。

「おまたせしました」
既に待っていた十六夜の元へ行く。

『神子姿も美しかったがドレス姿も美しいな。癒やしの女神だな』
「ありがとうございます」

榛名のドレスはシンプルなウェディングドレスだ。派手さはないが清楚さがある。頭にはティアラを飾った。幼少期は女の子なのでお姫様に憧れていた。

十六夜は白のタキシードに水色のスカーフ。胸元には2頭の鹿と鳥のアクセサリーが付いていた。


『夜でよかったのか?』
「はい。今日は満月ですから月の光で輝く十六夜と結婚式をしたかったんです」

式は誓いの言葉→指輪の交換→誓いのキスと簡単だったが幸せな時間だった。


誓いのキスをした後、榛名は思わず泣いてしまった。
「十六夜様、私と出会ってくれて私を神子と番に選んでくださって本当にありがとうございます」

『俺の方こそ闇を祓い、数百年の淋しさから俺に無限の愛を注ぎ救ってくれたんだ。ありがとう、榛名。これから永久に俺のそばにいてくれ』

「はいっ!」

榛名と十六夜はキスを交わす。


桜が舞い曇りのない満月が祝ってくれるよう。


結婚式をした日は榛名の19歳の誕生日。


十六夜と過ごした日々とこれからの未来の日々を大切にしたいと願った日を榛名は忘れないだろう。



      【完】