「あなたのことなにも知らないのに、結婚だって言われて、ふりまわされて。年だってだいぶ違うのに」
 萌々香は尊琉を見た。
「もっと待ってほしい。お互いを知るために、時間が必要だと思う」
「待つ必要はないな」
 彼は断言した。
「今日一日すごして君を知った。それで充分だ」
 微笑する尊琉に見つめられ、萌々香の胸がきゅうっとしめつけられた。
 銀色の輪がかかった月は真円で、なにもかもを満たすかのように明るく地上を照らしている。
 月光を受けて青銀に光る彼の目に浮かぶのは、彼女に愛される自信と、彼女への愛。
「大切にするから」
 尊琉の言葉が心に響き、溢れた。
 萌々香はうなずいた。
 彼は彼女の頬に手を伸ばした。
 彼女は逆らわず彼の手に動かされるまま、顔を上げる。
 端正な顔がすぐ近くにあった。
 目を閉じると、優しい感触が萌々香の唇に重なった。
 一面のススキに風がそよぐ。
 銀の輪をかけた満月が、二人を明るく照らし続けていた。