学食でご飯を食べる時間は、好きだ。

 好きな人に会えるから。

 学年は違うし、クラブも違う。接点は一切ないけど、好き。

「あ…」

 見つけた。私の好きな人。

「おめーは何食べるんだ?」
「んー… オムライス?」

 可愛い。オムライスを頼むところが普通に可愛い。

「…?」

 ハンカチが落ちている。誰のかは分からない。

 食堂にはたくさんの人。どうやって持ち主を探そう…

「君、どうしたの?」
「え?」

 私の好きな人。私の隣に居るのは、私の好きな人。

「これの…持ち主を…」
「一緒に探す?」
「あ、はい…」

 ♢ ♢ ♢

「あの、ありがとうございました。」
「いいよ。気にしないで。」

 好きな人と過ごした、束の間の時間。

 長いような、短いような、なんとも不思議な時間だった。

「じゃあね。」

 好きな人の声が心に響く。

 もう話すことは、ないだろうな…

 最初で最後の、夢のような時間は、静かにどこかへ消えていった。

「本当に、ありがとうございました。」

 私は精一杯、もう話すことのない好きな人に頭を下げた。