次の朝。皇子は皆を集めると、しっかりとした口調で言った。

「皆、聞いてくれ。この湯に入ったら病が治ったぞ!」

「な、何という!」

「み、皇子様!」

 心底驚いた顔をしている者や「良かった」と、涙を流している者がいる。その様子から芝居だということに気がついた者は誰もいないと知る。皇子の側でずっと遣えていた家臣達や侍女達をも欺く程の演技を遠くにいる中大兄皇子だけが見破ったとは思えない。

 “__患っていようといまいと邪魔な存在”

「この湯は天からの思し召しだ。恐らく斉明大王の御心も癒やしてくださることであろう。皆このまま飛鳥板葺宮に参るぞ」と、平伏す家臣達に皇子は力強く言った。