十七時まであと五分というところでバンド同好会の練習が終わり、タブレットをリュックにしまう。

そろそろバイトに向かう時間だ。楽器を音楽準備室まで運ぶのを手伝って、その代金として、またジュースを一本もらった。

「んじゃ」

軽く手を上げたあたしは、三人とはそこで別れて教室に戻る。

今日は金曜だからジャージを持って帰るということを思い出し、自分のロッカーを開けてジャージをリュックに突っ込んだ。

二本目のジュースは今日の風呂上がりにでも飲むか。

そう思いながら、手に持っていたジュースもリュックに入れ、廊下を歩き出した。

すると廊下の左側、第二校舎の渡り廊下と交差する曲がり角に差しかかった時、ひとりの生徒が突然飛び出してきた。

あたしは寸前で止まったけど、そいつは体勢を崩したのか、「ひゃっ」と悲鳴を上げて尻もちをついた。

よく見ると、同じクラスの女子だった。

名前は確か……なんだっけ。

分かんないけど、まぁいっか。

「廊下は走っちゃいけませんって、小学生の時に習わなかったか?」

とりあえずそう言うと、思っていた以上にそいつは焦り出した。ていうか、なんかビビってる?

「冗談だから、そんな焦んなよ。ほらっ」

あまりに狼狽(うろた)えていてちょっと可哀想になったので、手を取って立ち上がらせてやった。

その時に顔を見て思い出した。そうだ、名前は確か早坂美羽だ。

「あ、ありがとうございます。その、ごめんなさい」

早坂は、最後にそう言って教室のほうへ逃げるように去っていった。

同じクラスなのになんで敬語なんだと思ったけど、別にどうでもいいか。

ふと視線を下げると、そこには小さなメモ帳が落ちていた。

もしかすると早坂が落としたのかもしれないけど、バイトの時間が迫っているし……。

拾い上げたメモ帳をとりあえず自分のスラックスのポケットに入れて、急いで学校を出た。

バイト先までは学校からバスで二十分、平日の勤務時間は十七時半から二十一時までだ。ちなみに火曜日と水曜日と金曜日で、土曜は朝から十五時まで。

バイトで稼ぐには限度があって、一定の金額を越えないようにシフトを組んでもらっている。本当はもっとガンガン働きたいのに、できないのがもどかしい。

不満を吐き出すように軽く舌を鳴らしたあたしは、到着したバスに乗り込み、空いている席に座る。

……ん?

なんとなく違和感を覚えてポケットに手を入れると、そこにあるメモ帳を取り出した。

そうか、拾ったんだった。ま、週明け学校に行った時に返せばいいか。

何も考えずにメモ帳をパラパラと(めく)った瞬間、とある文字があたしの目に飛び込んできた。

これって……。