気づけば夜になっていた。
 敵を倒してはお金に替えてを繰り返していると、次第にレベルも上がっていた。

 生きたままの魔物をNyamazonに入れて見たらどうなるかとやってみたが、それは出来なかった。

 ステータスも軒並み上昇。
 レベルが15から17しか上がってない所を見ると、必要経験値が高くなってきたのだろうか。

 そしてようやく、念願の魔法を覚えたのだ。
 キャンプをしている時に、火を、顔を洗っている時に水を、風が心地よかった時に風を、転んだ時に土を。
 
 最後は情けないが、とにかく覚えたのである。

 スキル:空間魔法Lv.2、解析Lv1、短剣Lv3、気配察知Lv2、隠密Lv1、冷静沈着lv2、魔獣召喚Lv2⇒3、格闘Lv1、君内剣Lv1
    New:火魔法Lv1、水魔法Lv1、風魔法Lv1、土魔法Lv1、魔法糸Lv1。

 更にもう一つ、魔法糸、というのを覚えた。
 
 おそらくスパイダーの攻撃を受けたことが要因だが、手の平から魔力の糸を出せるようになったのだ。
 少し不気味だが、とはいえ貴重なスキル。

 ゴムのように伸び縮みするし、裁縫が出来そうな小さな糸も出せる。
 また色々と調べてみようと思う。

 Nyamazonの貯金残高は9500円、なんとビールワンケースを買える勢いだ。
 思わず頬が緩む。

 近くの川で顔を洗おうとしたら、自身が返り血に染まっている事に気づく。

「……人の心は忘れないようにしないとな」

 戦闘は楽しいが、道徳まで無くしたくはない、そんな思いを胸に抱き、顔を上げると、遠くに灯りが見えた。
 知らないうちに随分と森を突き進んでいたのだろう。あれは――街だ。

 この世界の知識はないが、言語理解があれば人と対話をすることはできるはず。

 一晩山で過ごし、早朝向かってみるか。


 考えていたことがある。
 Nyamazonで購入したアイテムを売れば、もしかしたら高く売れるんじゃないのか、と。
 
 幼い頃、親のお使いを頼まれた時のような不安と高揚感。

 逸る気持ちを抑え身体の血を綺麗にふき取ると、空間魔法からキャンプ用品を取り出し、テントを設営して中に入る。
 そして召喚した魔獣のハム三郎を抱きしめながら、ぐっすりと眠った。

 ◇

「凄いな、結構大きな街だな、いや国か」

 近づくとその全貌が見えてきた。
 高い壁に囲まれた国、行商のような者、一般人、兵士のような人たちが出入りしている。
 特に何か見せている様子はないが……怪しまれないだろうか。

 自分の恰好を確かめてみると、完全なる作業着。

「これは……どうなんだ」

 その時、カッポカッポ馬車の音が聞こえてきた。
 積み荷は少なく、どうやら何かの帰りだろうか。
 
 馬を操っているのは、ふくよかで穏やかそうな男性だった。

 ……そうか。

「すみません」
「……ん? なんだ君は?」

 声を掛けると馬を停止させてくれた。
 だが眉をひそめて私を見る。

 この格好のせいだろうか。ということはやはり変わっているのだろう。
 だが止まってくれるということは、悪い人ではないと思った。

「田舎から来たのでわからなくて……あの国に入るには何か必要ですか?」
「田舎……ねえ? 確かに身なりはボロボロだが……どうやってここまで来たんだ?」
「森を抜けてました」
「森? この森をか?」
「はい、途中魔物に出くわしましたが、倒しつつ」
「ほう、そこそこ腕はあるのか。あそこはオーリアという国だ。その恰好なら許可証がないと怪しまれるだろう」
「やはりそうですか……」

 事前に教えてもらって良かったが、問題が解決したわけではない。
 一か八かで入国しようとしてもいいが、捕まったりしないだろうか。

 やはり国はまだ早いか……。

「入りたいのか?」
「え?」
「オーリアだ、そうなのだろう」
「ええ、はい。ですが、許可証は持ってなくて……」
「だろうな。だが育ちは悪くなさそうだ。言葉遣いがしっかりしている」
「ありがとうございます」

 どこか私を品定めするかのように見た後、何かを考えこんだ。

「俺の名前はビアードだ。商人で色々な国を渡り歩いている。それで訊ねたいが、何か珍しいものでも持ってるか? それ次第では付き人だと伝えよう」
「珍しい物ですか?」

 なるほど、やはり商人だったのか。積み荷を降ろして戻って来た、ということなのだろうか。
 空間魔法にはいくつか入っているが、人前で見せるのは少し不安だ。

 ゴソゴソとポケットを探るが何もない。
 唯一身に着けていたものはサバイバルナイフだった。

「でしたら、こちらはどうでしょうか? 傷つけることはしません、どうぞ手に取ってみてください」

 逆手に持ってナイフを手渡すと、ビアードさんはすぐに驚いて声をあげた。

「精巧な作りだな……耐久性も高そうだ。これはどこで?」
「私の田舎で作っていたものです。あの国に古い友人がいまして、他にも珍しいものはいくつか」
「ほう……」

 嘘も方便だが、商人ならこの物言いだけでわかるだろう。
 つまり珍しい物を今後も譲ることができるという意味だ。彼にとってもコネが出来るかもしれない。

「頭も切れるようだな。ナイフは返そう。取らぬワイバーンの皮算用、俺の好きな言葉だ。国に着いたら色々と話を聞かせてくれ。お前に恩を売れば得になる気がする。どうだ? 国に入りたいか?」

 差し出された手、交渉成立だ。
 偶然の出会いだったが、どうやら出会いのスキルも習得していたらしい。

「キミウチシガだ、よろしく」
「シガか、いい名前だ」

 そうして私は馬車の後ろに乗り込むと、少年のように高鳴る鼓動を抑えながら、門をくぐった。