下校時刻を告げるチャイムが鳴る。
 その日、学校中を捜したけれど、ハルを見つけることはできなかった。

「……どこに行っちゃったんだよ、ハル」

 学校外へは出られないから、絶対敷地内にいるはずなんだけど。
 あきらめた僕は、ため息をつきながら学校をあとにする。
 空はもう真っ暗だ。
 部活も終わり、校舎の灯りも消えていく。
 暗くなった学校にひとりで佇んでいるハルのことを思うと、胸が締めつけられるように痛くなった。


 学校から家へ帰る途中に、小さな児童公園がある。
 さっき話題になった公園だ。
 街灯の灯りがぼんやりと灯るだけの、薄暗い公園に足を踏み入れる。
 滑り台やブランコ、ジャングルジムなどの遊具。
 小学生のころ、よく遊んでいた遊具が、やけに小さく見える。
 僕が大人になってしまったからだろう。
 いや、中身はたいして変わってない。背が少し伸び、見た目が大人に近づいただけだ。

 当てもなく歩き、ジャングルジムに手を触れる。
 そういえば学校のジャングルジムから、落ちたことがあったっけ。
 あのころから運動神経が鈍かった僕は、体格のいい男子にぶつかってよろけ、手を離してしまったんだ。
 やばい。落ちる。
 とっさに「たすけて!」と叫んだ僕に、手を差し伸べてくれたのは……。

「聖亜……」

 宙に浮く体。目に映る青い空。
 落ちていく僕に、必死な表情で手を差し伸べる聖亜。
 でもその手は僕に届かなくて。

「落ちて骨折して、救急車で大学病院に運ばれたんだっけ」

 情けない黒歴史に、ははっと乾いた笑いがもれる。

 でも――あのときの聖亜は必死だった。
 必死に僕を助けようとしてくれた。
 かくれんぼのときもそうだった。
 僕を助けにきてくれたのは、聖亜だけだった。