翌朝、俺は寝坊をした。顔を洗い歯を磨き、慌てて制服に着替えた。6:45、伊月は迎えに来なかった。
「母ちゃん!なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「あら、だって伊月くんがお迎えに来ないからてっきり朝練がお休みだと思ったのよ」
「伊月はスケジュール表じゃねーんだよ!」
「あらあら、ごめんなさいね」
「行って来ます!」
「はい、行ってらっしゃい」
俺は母親が持たせてくれたおむすびをリュックに詰め込むと自転車に跨り一目散に駅へと向かった。
(伊月、どうしたんかな?)
「陸斗くんと一緒にいたいから」そう言って毎朝迎えに来ていた伊月が俺を呼びに来ない理由は二つ。一つ目は体調が良くない、二つ目は機嫌が悪い。
(昨日は身体の具合が悪くて機嫌が悪かったのか?)
俺は携帯電話を取り出して液晶画面をタップした。
おはよ
既読
おはようございます
なに病気?
既読
いえ、元気です
なんで
来なかったん
既読
なんとなく
そうか
既読
(なんとなく?)
伊月のなんとなく、という言葉に俺は苛立った。昨日の今日、相変わらず伊月は何かに腹を立てている。それならそうと何に対して腹を立てているのか言葉にして伝えてくれなければ対処の仕様がなかった。
(なんなんだよ、訳わかんねえ!)
その日の朝練は大幅に遅刻し部員仲間からは揶揄われ気を取り直してグラウンドを走ればハードルを何台も倒すといった散々なものだった。ホームルーム開始のチャイムが鳴っても俺の脚は不貞腐れ前に進もうとはしなかった。
「こら!長谷川遅いぞ!」
「すんません」
「早く座れ!」
「ふあい」
席に着いたが伊月は振り向かなかった。
(無視かよ!)
伊月の椅子の脚を蹴ってみたが無反応だった。俺の苛立ちは怒りに変わった。ホームルームが終わりクラスメートは教科書とノート、筆箱を手に立ち上がった。一限目は化学の授業で教室を移動しなければならなかった。伊月も同じく席を立ったが俺はその手首を握り睨みつけた。
「伊月、おまえ何なんだよ」
「離して下さい」
伊月は俺の手を振り解き廊下に向かい踵を返した。
「待てよ!」
俺はガタガタと机を掻き分け伊月に詰め寄ると両手首を掴んで激しく壁に押し付けた。
「離して下さい」
「おまえ、何なんだよ、何怒ってんだよ!」
「怒ってなんかいません」
「昨日からおかしいだろ!朝も家に来なかったし!」
「そんな気分じゃなかったんです」
「なんで!」
自然と語尾が強くなった。
「今までずっと迎えに来てたろ!?」
「もう行きません!」
「何でだよ!おまえがいないと寂しいだろ!!」
寂しい。伊月がいない時間が寂しかった。俺は自分が抱え込んでいた苛立ちが何なのかを悟った。
「寂しいんですか?」
「・・・・・・・っ」
顔を赤らめた俺は伊月の手首を離すと廊下へと飛び出していた。
(寂しい)
そうだ。伊月がいない世界は寂しい。
「母ちゃん!なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「あら、だって伊月くんがお迎えに来ないからてっきり朝練がお休みだと思ったのよ」
「伊月はスケジュール表じゃねーんだよ!」
「あらあら、ごめんなさいね」
「行って来ます!」
「はい、行ってらっしゃい」
俺は母親が持たせてくれたおむすびをリュックに詰め込むと自転車に跨り一目散に駅へと向かった。
(伊月、どうしたんかな?)
「陸斗くんと一緒にいたいから」そう言って毎朝迎えに来ていた伊月が俺を呼びに来ない理由は二つ。一つ目は体調が良くない、二つ目は機嫌が悪い。
(昨日は身体の具合が悪くて機嫌が悪かったのか?)
俺は携帯電話を取り出して液晶画面をタップした。
おはよ
既読
おはようございます
なに病気?
既読
いえ、元気です
なんで
来なかったん
既読
なんとなく
そうか
既読
(なんとなく?)
伊月のなんとなく、という言葉に俺は苛立った。昨日の今日、相変わらず伊月は何かに腹を立てている。それならそうと何に対して腹を立てているのか言葉にして伝えてくれなければ対処の仕様がなかった。
(なんなんだよ、訳わかんねえ!)
その日の朝練は大幅に遅刻し部員仲間からは揶揄われ気を取り直してグラウンドを走ればハードルを何台も倒すといった散々なものだった。ホームルーム開始のチャイムが鳴っても俺の脚は不貞腐れ前に進もうとはしなかった。
「こら!長谷川遅いぞ!」
「すんません」
「早く座れ!」
「ふあい」
席に着いたが伊月は振り向かなかった。
(無視かよ!)
伊月の椅子の脚を蹴ってみたが無反応だった。俺の苛立ちは怒りに変わった。ホームルームが終わりクラスメートは教科書とノート、筆箱を手に立ち上がった。一限目は化学の授業で教室を移動しなければならなかった。伊月も同じく席を立ったが俺はその手首を握り睨みつけた。
「伊月、おまえ何なんだよ」
「離して下さい」
伊月は俺の手を振り解き廊下に向かい踵を返した。
「待てよ!」
俺はガタガタと机を掻き分け伊月に詰め寄ると両手首を掴んで激しく壁に押し付けた。
「離して下さい」
「おまえ、何なんだよ、何怒ってんだよ!」
「怒ってなんかいません」
「昨日からおかしいだろ!朝も家に来なかったし!」
「そんな気分じゃなかったんです」
「なんで!」
自然と語尾が強くなった。
「今までずっと迎えに来てたろ!?」
「もう行きません!」
「何でだよ!おまえがいないと寂しいだろ!!」
寂しい。伊月がいない時間が寂しかった。俺は自分が抱え込んでいた苛立ちが何なのかを悟った。
「寂しいんですか?」
「・・・・・・・っ」
顔を赤らめた俺は伊月の手首を離すと廊下へと飛び出していた。
(寂しい)
そうだ。伊月がいない世界は寂しい。