「おはよーっす!」
「先生、おはようございます」
「おはよう」

 高等学校の校門には二人の教師が立っていた。

「おはよう、また二人で登校か!長谷川と大谷は本当に仲が良いなぁ!」
「そりゃガキの頃からの友だちだし!」
「そうか、そうか!幼馴染か!」

 生活指導の教師に声を掛けられ、俺が「ガキの頃からの友だち」と返事をし教師が「幼馴染」と口にした瞬間伊月の表情が変わった様な気がした。

「伊月、どうした?なんかあった?」
「いえ・・・・なんでもありません」
「そっかなら良いけど」
「はい」

「おはよーっす!」
「また陸斗と大谷で仲良し登校かよ!」
「うるせえな!」
「おまえら付き合ってるんじゃねぇの!?」
「そんな訳ないだろ!」

 また伊月からいつもと違う気配を感じた。

「腹でも痛いのか?」
「いいえ」
「顔、変だぞ?」
「そうですか?」
「なんか・・・変」

 俺が下駄箱を開けると水色の封筒が入っていた。

「あーー伊月、またおまえにラブレターだぞ」
「ラブレターですか。みなさん()りませんね」
「ほれ」

 伊月は朝一番から面倒だなと溜め息混じりに宛名を見て目を見開いた。

「なに、どしたん?不幸の手紙?」
「これ」
「なんだよ」

 伊月は無言でその封筒を俺に手渡した。俺は確率一パーセントの奇跡に驚いた。

「それは陸斗さんへのラブレターです」
「ま、マジか!」
「はい」

 俺は<長谷川陸斗さんへ>と書かれた水色の封筒を両手で持ち光に透かして見た。確かに便箋が入っている。思わず頬が緩んだ。

「遂に、ついに俺の時代が来た!」
「陸斗さん、女の子から貰ったラブレターはそんなに嬉しいですか?」
「そりゃあ嬉しいよ!」
「そうですか」
「いやぁ、久々だな!」

 伊月の動きが止まった。

「陸斗さんはこれまでも女の子から手紙を貰った事があるんですか?」
「ん?そりゃあるよ」
「知りませんでした」
「別にわざわざ伊月に言う様な事じゃないだろ?」

 その言葉に伊月は眉間にシワを寄せローファーを下駄箱に荒々しく突っ込むと上履きに履き替えた。

「な、どうしたんだよ」
「どうもしません」
「伊月、怒ってんのか?」
「朝練、頑張って下さい!」
「伊月?おまえさっきからなんか変じゃね?」
「なんでもありません!」
「伊月!?」

 声を荒げた伊月は俺を振り向く事なく廊下を歩いて行った。俺は何がなんだか訳が分からずその姿を見送った。