長いことかかった。この気持ちに素直になるまで。
 総合学習の、地域調査の発表の時だったと思う。スライドを作って、教壇に立って、スクリーンの前でみんなに発表する。四人一班。私と東野くん、それから千堂さんに三島くん。それぞれ担当を持って発表。千堂さんが人口、地理について。三島くんが「この街の好きなところは?」というアンケート調査の結果について。東野くんが歴史と産業について、そして私が文化について。
 この「文化について」は曲者だった。まず「文化」の切り口が大きすぎる。地域に根付いたお祭りも文化だし、市民文化センターで開かれるパソコン教室だって文化だ。正直、何を調べていいかも分からないくらいだった。そんな時に東野くんが手を貸してくれた。
「この街は古くから工業地帯で、特に金属製品の生産は盛んだったみたい。そのせいか、金管楽器にまつわるイベントが昔からよく開かれてたみたいよ。音楽の街、なんて謳ってるみたい。僕も大会でこの町の体育館使ったことある」
 すごくありがたいパスだった。私はこの街の音楽関係の文化について調べた。
 そもそもこの辺りのお祭りには笛がよく使われていたらしく、時代の変遷とともにその笛が金管楽器へと進化していった。マーチングバンドやジャズコンサートなど、お祭りは様々な音楽イベントに発展し、今ではこの地域で開かれる音楽系のイベントには必ず「コンペイ」という、お祭りの母体となった神社の名前がつくようになっている。
 さぁ、そんなことをまとめた発表。しかし私はあがり症だった。だから、躓いた。
「あっ、えっと、その……」
 お祭りの神様の名前、「コンペイ」が出てこなかった。すると東野くんがすかさず手助けしてくれた。
「歴史の項目でも触れましたが、古くからこの地では『コンペイさま』という神様の信仰がありました」
 このおかげで私はすぐに気を取り直した。
「この『コンペイさま』のコンペイの名が街の音楽イベントで使われるようになり……」
 そして、おかげさまで。
 私たちの発表は無事に、終わった。
 放課後。お疲れ様会としてみんなで購買で買ったお菓子とジュースで乾杯した。そしてこの時、東野くんが出してきたお菓子が忘れられなくなった。
「金平糖」
 彼が私の顔を見てきた。
「コンペイさま、関係あるのかも?」
 カリッと噛んだあの甘さが、今でも忘れられない。
「昔の人が信じたものを言葉として生かし続けるのって素敵だよね」
 東野くんの言葉が私の胸に染みていった。
 そして、思った。
 私も、私の言葉を……。