『ごめんなさい。わたし、ずっと琥珀のことが好きでした。もちろん、無理なのは分かっています。思いを伝えたかっただけです。これからも忘れないでいてくれると嬉しいです。 香澄(かすみ)

 薄紅色の封筒に、何度も書き直してできた小さな便箋を入れる。そして、その封筒を、すでにプレゼントの入った少し大きな紙袋に入れる。少し遅い時間だけど、今からだったら遅くないはず。
 私は香澄。昔からの幼馴染の琥珀(こはく)とは、高校生になった今でも大の仲良しだった。その琥珀が転校することを知ったのは、つい最近のことだった。

『はい、朝学活の時間より少し話が早いですが、大切な話をします。東雲(しののめ)琥珀さんが、再来週に転校することになりました。皆さんも知っておいてください。』

 先生がこのことを話してから、もう二週間。明日には琥珀に会えなくなるから、塾が終わった今、自分の家から琥珀の家に全速力で向かっている。こうやって走っている間にも、琥珀との幼い頃の思い出がたくさん蘇ってくる。

『こんにちゃちゃ!あたち、こはく!あにゃたは?』
『あたし、かすみ…』
『かしゅみ!よろちく!』

『かーすみっ!今年もクラス一緒だね!』
『そうだね。小学校で六年間一緒って、難しそう。』
『ねー!今年もよろしくっ!』

『香澄!見て、私受かったよ!』
『ホント…私もあっちにあったよ。』
『やったー!これで高校も香澄と一緒だ!これからもよろしくね!』
『私こそ。よろしくね、琥珀。』

 たくさんの思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返して、気が付けば琥珀の家まであと少しの距離になった。

(でも、一番嬉しかったのはこの時の思い出…)

『香澄!すっごく似合ってるよ!』
『琥珀こそ、すごく素敵。』

 小学校の卒業式。私たちの小学校の卒業式では袴を着る人が多く、私や琥珀も袴を着ていた。

『あ!例のアレ持ってる?』
『もちろん。ちゃんと作ってきたよ。』

 その、『例のアレ』というのは…

『こんな感じかな…琥珀、どう?』
『え⁈すっごく可愛い!』

 そう、私が作ったのはリボンバレッタ。梔子色のリボンに水引にとおされた蜜柑色のビーズ。琥珀の性格を表すのにピッタリなヘアアクセサリーだった。

『もちろん、私も作ってきたからね!』
『ありがとう。早速つけてみてくれる?』
『分かった!んーと…こうかな!』
『か、可愛い…』

 琥珀が作ってくれたのは、撫子色の玉かんざしに枝垂れ桜のような飾りが付いた髪飾り。

『すっごく似合ってる!やっぱり香澄はこういうのが似合うのかな?』
『ありがとう。琥珀も、すごく素敵。付ける人とヘアアクセサリーの相性も抜群ね。』
『なーに言ってんの。そんなに言われても何も出てこないよ?』

 周りから見れば、些細な出来事なのかもしれない。でも、私に対してこんなにも『可愛い』と言ってくれたのがとてもうれしかったのだ。