英語の小テストを無事に終えた。小川が直前に要点を教えてくれたこと、その教え方が上手だったこともあって約7割は取れただろう。
今日1日だけで俺は小川に沢山の恩を作ってしまった。そんな思いからテストが終わったと同時に教室から出ていく彼を追いかける。
「なぁ、待てよ」
声をかけると小川は驚いたように振り返った。
「お前、この後も授業あるの」
「いや、今日はこれで終わり」
「そっか、この後暇」
「……特に用事はないけど」
グイグイと話しかける俺に小川は僅かに身構える。気づかないふりをして話を続けた。
「良かったらさ、この後メシ行かない」
「え」
「いや、まじでお前のおかげで助かったから。せめてご飯くらい奢らせてもらえないかなーって」
小川は唖然とした表情のまま固まっていた。何も返事をしてくれないので仕方なく話し続ける。
「急にこんなこと言われても困るよな、悪い。お礼って奢ることくらいしか思いつかなくて」
「いや……いいの」
「おう、もちろん」
それから2人で近くのファミレスに移動した。
俺らは名前と顔だけ知っているような相柄だ。だから自然と話は自己紹介のような内容になる。
「そういえばお前って何学部?俺とあまり講義が被ってないから社会学部ではないんだろう」
「うん。僕は法学部だよ」
「へぇー、頭良さそう。何、将来は弁護士にでもなるの」
「うん。弁護士を目指してる」
一瞬の逡巡さえなく肯定された。
「すげぇ」
自然とそんな感想が口から漏れる。大学生にもなって未だに将来何になりたいか決めてない俺とは大違いだ。
「弁護士を目指したキッカケって何かあるの」
「あるよ。相葉くんはリーガル・ファイトってドラマ知ってる」
リーガル・ファイトは何年も前に放送されたドラマだ。毎回なんらかの問題が起きて裁判で争う。法律を扱ったドラマにも関わらずギャグ要素が沢山あり見所満載のドラマだった。
「ああ、あれね。見てたよ」
「そのドラマがキッカケ」
「え」
確かにリーガル・ファイトは面白かった。俺も毎週欠かさずに見てた覚えがある。けれど1つのドラマによって職業まで決める。そんな人は今まで俺の周りには1人もいなかった。
「あれ、でもさリーガル・ファイトが放送されたのって大分前だよね」
「うん。僕らが小2の時だね」
「小学生の頃からずっと弁護士を目指しているんだ」
無意識のうちに再び「すげえ」と呟いていた。俺が小学生の時なんて何も考えずに毎日ダラダラと過ごしていた。
「全然凄くないよ。僕からしたら相葉くんの方がずっと凄い」
「俺、なんで」
「僕は相葉くんみたいにコミニケーション能力高くないから」
「……」
そうだろうな、とは思った。今日だって小川は食堂に1人でいた。それどころかこいつが誰かと一緒にいる所を見たことない。
「でもそんなに人見知りなら今日、よく俺に声かけてくれたな」
正直、逆の立場なら放っておく。俺だったら対して親しくもない人の面倒まで見ない。
「そうだね。話しかける時ちょっとだけ緊張したよ。でもテスト受けれなかったら相葉くん困るかなーって思って」
「お前、本当にいいやつだな」
しみじみと呟いた。それから。
「なぁ、良かったらさ、俺と友達にならない」
「え」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。元々童顔な小川がさらに子供のように見える。
「なんかお前面白そうだし」
「僕が……面白い?」
理解できない外国語でも聞かされたように不思議な顔をされた。
「ああ。俺とは全然違う考え方してるから」
「友達……。僕と相葉くんが」
「ああ。小川が良かったらだけど」
「なりたいよ」
「じゃあこれからよろしくな。涼介」
いきなり名前で呼んだことに涼介は面食らった顔をする。けれど少し恥ずかしそうに。
「よろしく。敦」
そう返事をしてくれた。
今日1日だけで俺は小川に沢山の恩を作ってしまった。そんな思いからテストが終わったと同時に教室から出ていく彼を追いかける。
「なぁ、待てよ」
声をかけると小川は驚いたように振り返った。
「お前、この後も授業あるの」
「いや、今日はこれで終わり」
「そっか、この後暇」
「……特に用事はないけど」
グイグイと話しかける俺に小川は僅かに身構える。気づかないふりをして話を続けた。
「良かったらさ、この後メシ行かない」
「え」
「いや、まじでお前のおかげで助かったから。せめてご飯くらい奢らせてもらえないかなーって」
小川は唖然とした表情のまま固まっていた。何も返事をしてくれないので仕方なく話し続ける。
「急にこんなこと言われても困るよな、悪い。お礼って奢ることくらいしか思いつかなくて」
「いや……いいの」
「おう、もちろん」
それから2人で近くのファミレスに移動した。
俺らは名前と顔だけ知っているような相柄だ。だから自然と話は自己紹介のような内容になる。
「そういえばお前って何学部?俺とあまり講義が被ってないから社会学部ではないんだろう」
「うん。僕は法学部だよ」
「へぇー、頭良さそう。何、将来は弁護士にでもなるの」
「うん。弁護士を目指してる」
一瞬の逡巡さえなく肯定された。
「すげぇ」
自然とそんな感想が口から漏れる。大学生にもなって未だに将来何になりたいか決めてない俺とは大違いだ。
「弁護士を目指したキッカケって何かあるの」
「あるよ。相葉くんはリーガル・ファイトってドラマ知ってる」
リーガル・ファイトは何年も前に放送されたドラマだ。毎回なんらかの問題が起きて裁判で争う。法律を扱ったドラマにも関わらずギャグ要素が沢山あり見所満載のドラマだった。
「ああ、あれね。見てたよ」
「そのドラマがキッカケ」
「え」
確かにリーガル・ファイトは面白かった。俺も毎週欠かさずに見てた覚えがある。けれど1つのドラマによって職業まで決める。そんな人は今まで俺の周りには1人もいなかった。
「あれ、でもさリーガル・ファイトが放送されたのって大分前だよね」
「うん。僕らが小2の時だね」
「小学生の頃からずっと弁護士を目指しているんだ」
無意識のうちに再び「すげえ」と呟いていた。俺が小学生の時なんて何も考えずに毎日ダラダラと過ごしていた。
「全然凄くないよ。僕からしたら相葉くんの方がずっと凄い」
「俺、なんで」
「僕は相葉くんみたいにコミニケーション能力高くないから」
「……」
そうだろうな、とは思った。今日だって小川は食堂に1人でいた。それどころかこいつが誰かと一緒にいる所を見たことない。
「でもそんなに人見知りなら今日、よく俺に声かけてくれたな」
正直、逆の立場なら放っておく。俺だったら対して親しくもない人の面倒まで見ない。
「そうだね。話しかける時ちょっとだけ緊張したよ。でもテスト受けれなかったら相葉くん困るかなーって思って」
「お前、本当にいいやつだな」
しみじみと呟いた。それから。
「なぁ、良かったらさ、俺と友達にならない」
「え」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。元々童顔な小川がさらに子供のように見える。
「なんかお前面白そうだし」
「僕が……面白い?」
理解できない外国語でも聞かされたように不思議な顔をされた。
「ああ。俺とは全然違う考え方してるから」
「友達……。僕と相葉くんが」
「ああ。小川が良かったらだけど」
「なりたいよ」
「じゃあこれからよろしくな。涼介」
いきなり名前で呼んだことに涼介は面食らった顔をする。けれど少し恥ずかしそうに。
「よろしく。敦」
そう返事をしてくれた。