わたしは精一杯の笑顔で手を振った。

理斗君はわたしの頭を少し強めに撫でると「じゃあ」と手を上げて歩いて行った。

肩に掛けたカバンを掛けなおすと壁の向こうに消えていった理斗君。

理斗君が見えなくなると顔いっぱいに広げていたわたしの笑顔は一気にしぼむ。

涙が溢れ、人に気付かれないように下を向いた瞬間、

わたしを呼ぶ理斗君の声が聞こえてきた。

「真琴!」

顔を上げると向こうに理斗君が居る。

理斗君は普段なら絶対に出さない大きな声でもう一度わたしを呼んだ。

「真琴っ‼」

周りの視線を感じながらわたしは同じくらい大きな声で返事をした。

「はいっ‼」

理斗君はにこっと笑うと言った。

「寂しかったらいつでも連絡しろよ!!」

そして大きく手を振る。

「うん!!」

わたしは大きくうなずくと両手を使って手を振った。

理斗君は吹き出すようなしぐさをすると、手を振り返す。

理斗君の姿が徐々に壁の向こうに消え、

最後にわたしに向かって振る手が壁の向こうに吸い込まれていった。