昼前になってから、縄で腕を縛ったカービンを連れて、三人が向かったのは、町の西側にある遺跡だった。
昨晩の、カービンへの尋問はあっけないほど簡単に終わった。
というのも、目を覚ましたカービンは、マハトの鍛え上げられた体躯を見ただけで震え上がり、こちらが何かを問う必要もなく、知っていることをペラペラと喋ったからだ。
その情報の中には、自分とルミギリスがねぐらにしている遺跡の場所をも含んでいた。
「砂漠というのは、こんなにも不毛の土地なのか…」
クロスの仕入れた前情報どおりに、砂漠に踏み込むとそこは見渡す限りの砂と、ポツポツと点在する遺跡しかない場所だった。
『この地は以前、緑豊かな場所であったが、人間が考えなしに大規模な魔力を使った戦いをしおっての。窪地だったために魔素が滞留し、土地の奥深くにまで染み込んでしまったのじゃ』
「人間が、大規模な魔法で戦争を?」
「今の魔導組合は、人間同士の戦いに魔導士が参加しないことを徹底してるけど、昔は国家間の戦争に魔導士部隊が投入されたりしたんだよ」
「じゃあ、遺跡は人間の物なのか…」
件の事前情報によると、遺跡は宿を取った町が出来る以前からあると言う。
だが近代の人間にとっての遺跡とは、人跡未踏の地と大差が無い。
というか、そもそも持たざる者の人間にとって、壁や柵といった人家を守る囲いの無い場所は、街道と言えど常に危険が伴う。
それは妖魔のような強力な外敵以外にも、魔気のような、目に見えないが人体に影響を及ぼすような危険もあるからだ。
タクトの言う通り、魔素が土地に染み込んでいるこの地などは、何らかの防御策を講じてなければ、魔障してしまう。
知能が低く体が頑強な生き物であれば妖魔と成るが、脆弱な人間の体は、魔障に耐えきれずに死に至る。
そこに遺跡があることを知っていても、調査に赴けるほどの余力は、現在の人間には無いのだ。
故にその遺跡が、どの年代の、どんな民族が、なんの目的で作ったのか? 何故に打ち捨てられたのか? など、調べることなどおぼつかない。
「サンドウォームも出るらしいから、気をつけないと…」
通商路は、それでも魔気が多少はうすい場所が選ばれているが、ルミギリスとカービンの隠れ家は、そこから外れた遺跡の中だ。
クロスは魔気を退けるための結界を、マハトの体に施した。
「一日ぐらいは、これで問題ないと思うよ」
「これは、便利だなぁ」
マハトは無邪気に感心しているが、こちらを見るタクトはもの言いたげな顔をしている。
その視線に気づいて、クロスは心のなかでしまったと思う。
なぜなら、結界は古代魔法で、一般的な魔導士ならばここは防御を使うべきだと、タクトの視線で思い出したからだ。
だが、ここでタクトに何らかの言い訳をしたら、事態は更に面倒な方向へと転がるだろう。
そう考えたクロスは、あえてタクトを無視した。
そしてカービンと自身の体にも、結界を施す。
そうして、通商路から外れてしばらく歩くと、遠くに砂に埋れかけた廃墟群が見えてきた。