頼りにならない地図を頼りに、二人はようやくドラゴンの棲み家に繋がると思われる坑道の入り口を見つけた。
ファルサーは用意していた松明を灯し、坑道内に踏み込んだ。
「わっ!」
だが、さほども進まない所で、足を滑らせる。
取り落とした松明は、少し先まで転がっていき、か細い煙を上げて消えた。
「ひどく滑るな」
そう言いながら後ろから着いてきたアークが、ファルサーに手を差し出してくれている。
「これは参ったな…」
片手を岩に付いて歩けば、それなりに安定もするが、もう片方の手には松明を持たねばならない。
つまり咄嗟の時にも、即座に剣が抜けなくなるということだ。
どうしたものかと思案するファルサーの目の前に、小さな灯りがフワフワと過ぎっていった。
「これは…昨日の虫ですか?」
「そうだ。松明ほど明るくは無いが、全部を放てば相手の顔ぐらいは見えるだろう」
「ありがとうございます」
アークは "相手の顔ぐらい" と言ったが、虫達が先まで飛んでいるためか、数メートル先まで様子が判る。
松明のほうが明るいが、見通せる距離や手に持たずに済むことを考えると、こちらのほうが都合が良いぐらいだ。
更に虫達は、道が分かれるところでも、なぜか迷いなく進んでゆく。
足を止めて、頼りない地図を見るとさほど間違ってもいない。
それはまるで、ファルサーの道案内をしているかのようだった。
「この虫は、なぜ行き先が判るんでしょう?」
「ドラゴンの魔気を察して、誘われているのだろう。…たぶんだがな」
「たぶんなんですか?」
「研究というものは、望む結果と、望まざる結果と、予想外の結果が得られるものだ」
しばらく進んだところで、アークはファルサーの肩に手を掛けてきた。
「なんですか?」
「この先に、大きな気配がある」
「ドラゴン…ですか?」
「ああ。君に戦略はあるのかね?」
「そうですね。ほとんど無いに等しいでしょう。どう仕掛けたところで、向こうのほうが圧倒的なチカラを持ってますから」
そう答えたあと、ファルサーはおもむろに深呼吸をしてから、目を閉じて口の中でぼそぼそと何か祈りのような言葉を呟いている。
「それは、どういった儀式なのだろうか?」
「儀式…と言うほどのものじゃありません。ジンクスですね」
「なにに対する呪縛なのかね?」
「試合をする前に、軍神に勝利を祈願するんです。コレをやらずに試合に出た時に負けたんで、それ以降は戦いの前には必ずやるコトにしてるんです。まぁ、今回ばかりは意味が無いと思いますケド」
「そもそも、思い込みだと思うが?」
「そうですね。でも思い込みが暗示になれば、それだけ勝機も強くなるんじゃないですか? 同僚も、ジンクスを持っている者のほうが多かったですよ。軍神以外のものに祈る者もいました。親しかった奴は、イルンと言う不滅の神に祈りを捧げていました。その神に見初められると神の力を与えられて、勇ましく戦って死ぬと、美しい戦乙女が迎えに来てくれると信じてましたよ」
「では、今の君は軍神では無く、私に祈りを捧げるべきなのでは?」
アークの言葉に、ファルサーは一瞬ビックリしたような顔をした。
「確かに、今はいるかどうか判らない神じゃなくて、目の前のあなたに力を貸して欲しいと願うべきですね」
「こちらを向きたまえ」
アークはファルサーに真っ直ぐ立つように促し、指先を額に当ててきた。
「冷たい手をしていますね」
「黙って、動かないでくれたまえ」
指先で額をくるくると撫でたあとに、アークは何かを取り出して、ファルサーの額に線を描き始めた。
ファルサーは用意していた松明を灯し、坑道内に踏み込んだ。
「わっ!」
だが、さほども進まない所で、足を滑らせる。
取り落とした松明は、少し先まで転がっていき、か細い煙を上げて消えた。
「ひどく滑るな」
そう言いながら後ろから着いてきたアークが、ファルサーに手を差し出してくれている。
「これは参ったな…」
片手を岩に付いて歩けば、それなりに安定もするが、もう片方の手には松明を持たねばならない。
つまり咄嗟の時にも、即座に剣が抜けなくなるということだ。
どうしたものかと思案するファルサーの目の前に、小さな灯りがフワフワと過ぎっていった。
「これは…昨日の虫ですか?」
「そうだ。松明ほど明るくは無いが、全部を放てば相手の顔ぐらいは見えるだろう」
「ありがとうございます」
アークは "相手の顔ぐらい" と言ったが、虫達が先まで飛んでいるためか、数メートル先まで様子が判る。
松明のほうが明るいが、見通せる距離や手に持たずに済むことを考えると、こちらのほうが都合が良いぐらいだ。
更に虫達は、道が分かれるところでも、なぜか迷いなく進んでゆく。
足を止めて、頼りない地図を見るとさほど間違ってもいない。
それはまるで、ファルサーの道案内をしているかのようだった。
「この虫は、なぜ行き先が判るんでしょう?」
「ドラゴンの魔気を察して、誘われているのだろう。…たぶんだがな」
「たぶんなんですか?」
「研究というものは、望む結果と、望まざる結果と、予想外の結果が得られるものだ」
しばらく進んだところで、アークはファルサーの肩に手を掛けてきた。
「なんですか?」
「この先に、大きな気配がある」
「ドラゴン…ですか?」
「ああ。君に戦略はあるのかね?」
「そうですね。ほとんど無いに等しいでしょう。どう仕掛けたところで、向こうのほうが圧倒的なチカラを持ってますから」
そう答えたあと、ファルサーはおもむろに深呼吸をしてから、目を閉じて口の中でぼそぼそと何か祈りのような言葉を呟いている。
「それは、どういった儀式なのだろうか?」
「儀式…と言うほどのものじゃありません。ジンクスですね」
「なにに対する呪縛なのかね?」
「試合をする前に、軍神に勝利を祈願するんです。コレをやらずに試合に出た時に負けたんで、それ以降は戦いの前には必ずやるコトにしてるんです。まぁ、今回ばかりは意味が無いと思いますケド」
「そもそも、思い込みだと思うが?」
「そうですね。でも思い込みが暗示になれば、それだけ勝機も強くなるんじゃないですか? 同僚も、ジンクスを持っている者のほうが多かったですよ。軍神以外のものに祈る者もいました。親しかった奴は、イルンと言う不滅の神に祈りを捧げていました。その神に見初められると神の力を与えられて、勇ましく戦って死ぬと、美しい戦乙女が迎えに来てくれると信じてましたよ」
「では、今の君は軍神では無く、私に祈りを捧げるべきなのでは?」
アークの言葉に、ファルサーは一瞬ビックリしたような顔をした。
「確かに、今はいるかどうか判らない神じゃなくて、目の前のあなたに力を貸して欲しいと願うべきですね」
「こちらを向きたまえ」
アークはファルサーに真っ直ぐ立つように促し、指先を額に当ててきた。
「冷たい手をしていますね」
「黙って、動かないでくれたまえ」
指先で額をくるくると撫でたあとに、アークは何かを取り出して、ファルサーの額に線を描き始めた。