広場をガークと協力して作った俺は、ガークと共にベンチに座って酒を飲んでいる。

まだ夏本番って訳でもないのにこの暑さはまいってしまう。

ちらっとガークを見るが、こいつは汗をほとんどかいていない。

「なぁお前暑くねーの? 」

「そんなに暑くないぜ……汗かきすぎじゃね? 」

「ここに来る前はひきこもりニートみたいなもんだったからな……外での作業でこたえたのかもしれない。これ飲んで少しは生き返ったわ。あんがとな」

「お前と飲めて楽しかったぜ。でお前を引き止めた俺が言うのもなんだが、そろそろ屋敷戻らなくていいのか? てかそう言えばお前が早く屋敷に帰れるようにって手伝ったのにこれじゃ本末転倒だな」

その言葉にハッとなる。
そういえば出かける前にクレ二がなんか言ってたよな。それに対して一時間くらいで帰るって伝えたような……。

あーやべぇ〜、と内心焦りながらもそれを隠すために、ジョッキに残っていた酒をグビっと一気飲みして、立ち上がる。

「んじゃ、そろそろ行くわ。手伝ってくれて助かったぜガーク。また飲もうな」

「おう! いつでも呼んでくれ」

こうしてガークとのプチ飲み会はお開きとなった。


「ただい……うおっ!? 」

ドアを開けると、玄関にはクレ二の姿が。

「怒ってる? 」

「別に怒ってないわよ! レン君は領主なんだし領民との付き合いがあるってのは分かるわよ」

付き合い……? へ? まさか酒飲んでたのバレてる!?

「だって顔赤いし、酒臭いし」

「自分ではそんなに酔ってる感覚無いけど、そんなに目に見えて顔赤いか? 」

「後で鏡みたら」

そう言うクレ二はなんかこう、ずっともじもじしている。

「トイレ行きたいなら行ってきたら? てか俺が帰ってくるまでずっと玄関で待ってたの? 」

「トイレじゃないわよ!!!!!!! 聖女はトイレなんてしません!!!!! 」

「え、そうなのか!? すげー!! 」

「冗談に決まってるでしょ!? 」

冗談だったのか。一瞬本気にしてしまった。

「逆になんで本気だと思ったわけ!? 有り得ないでしょ普通」

「特別な訓練を受けていますみたいなテロップが出るような聖女さんなのかなって? 」

「どんな聖女よそれ」

「クレ二なら知ってるんじゃないの? 他の国の聖女事情とか、おもらし聖女とか、トイレに行かない聖女とか」

「交流ないからわかんないわよ。けど確実にこれだけは言えるわ。そんな聖女、世界中を探し回っても見つからないわよ」

「実際行ってみて確認しないとわからなく無い? 」

「一つ一つ国回っていったらとんでもない日数かかるわよ。それに聖女に、貴方はトイレに行かない聖女ですか? って聞くわけ? 」

「そうだけど、まずいかな? 」

「殺されるわよアンタ!? 」

聖女ってそんな物騒なのか。
ん? そういえばクレ二と初めて会った時、襲われたな?

「そんな誤解生むような言い方しないでよ。聖騎士に、襲われたでしょ。あたしが襲ったみたいに言わないでよ」

「クレ二の仲間なんだしそれであってるくない? 」

「全然違うわよー!!! あの時はほんとにあいつらがごめんねレン君」

さっきまでの空気から一点し、クレ二が謝ってくる。
急にどうしたんだと思いつつ答える。

「なんとも思ってねーから大丈夫だよ。クレ二が今言ったように聖騎士が勝手に襲ってきただけじゃんか。クレ二が命令した訳でもないでしょ? だったら悪くないよ」

「レン君は水晶を治そうとしてくれた。そんな善意を誰も見抜けなかったし、話を聞こうともしなかった。そんなヤツらをまとめてたのはあたしじゃん。だからあたしが悪いんだよ。責任取らないと行けない」

「責任なんて取らなくていいよ。今はヘレクス領の領民として頑張ってくれてるし。それだけで十分だよ」

クレ二は怪我をした領民を癒したりしてくれている。そんな彼女に責任を取らせるなんてことはできない。
というかどんな責任を取るんだって話だ。

「いやあたしが取りたいのよ」

「あの時のことを引け目に思ってるんだったら、ほんとに俺は気にしてないから安心してって……」



「責任としてあたしをレン君に捧げたいのよ」

「へ? 」

なんかとんでもない事言わなかった?
い、いや聞き間違いだろう。うん……きのせい。

「す、すまん。よく聞こえなかったんだ……」

「こんなところで鈍感主人公発動させんじゃないわよ!? 二回もあんな恥ずかしいこと言えたもんじゃないわよ」

「じゃあ無かったことに」

そう言って俺は自分の部屋に逃げようとしたが、腕を捕まれ阻止される。

「もう1回言うからぁ!!! 今度はちゃんと耳かっぽじって聞くのよ」

ふぅっと深呼吸をしたクレ二は、顔を真っ赤に染め、さっきよりもずっとずっと小さく、今まで聞いたこともないようなかよわい声で、呟いた。

「元部下の責任をとって、あたしの全てをレン君にあげます……」

俺の腕を引っ張ったまま、顔を俯けている。耳の先まで赤くなっているのが分かる。

「そ、その責任をどうしても取りたいっていうなら、全然他のことでいいんだよ……? それに捧げるにしてもクレ二が好きな人にね? 」

ちょっと動揺しすぎて頭が回らない。

「……だからレン君に言ってるんだよ? 他の皆を差し置いたのは悪かったけど、トゥーンちゃんの様子を見てたらいてもたってもいられなくなって」

「それって、その……いわゆるあれ? 自分の全てを捧げることに快感を覚える」


「ぜんっぜん違うわよ!!!! レン君が好きってことよーーーーーーーーーー!!!!!!! 」

クレ二の愛の言葉が屋敷中に響き渡るのだった。