皆と混浴した次の日の朝。
いつも通り起こされて、朝食を食べに向かう。基本リーナかトメリルのどちらかが起こしに来ていたのだが、今日は謎にトゥーンちゃんだった。
起こす時の優しさ度を言ったら、
トゥーンちゃん〉〉〉〉〉〉〉〉トメリル〉〉リーナみたいな?
所謂(いわゆる)絶対に越えられない壁。
いや、まじでそのくらいトゥーンちゃんが優しかった。30分くらい追加で寝かせてくれたのだ。
人間、そうやって甘やかされると。
「あと30分寝たらだめ? 」
こうなる。
「うぅん……わたしとしてはいつまでも寝かせてあげたいんですが、多分他の皆さんもう席に着いてると思いますし、これ以上待たせる訳にもいかなくて……。あっ! 今日も朝ごはん食べてお仕事頑張ったら、ちょっとしたことしてあげますね! だから起きましょ! 」
「いやいや。皆席に着いてるって、あのレミナがこんな朝早くから起きてるわけないだろ」
昨日起きてたのは意外だったが、それはお風呂があったから? いや、レミナは俺と同じでシャワー派の人間だったはずだ。もっとも、昨日のあれでお風呂が寿司になったと言っていたみたいだが。
そんなことをいいつつも、身体を起こし着替えをして、洗面所に向かう。
レバーを捻って【冷たい方】から【暖かい方】に切り替えて、顔を洗う。
昨日のシャワーで付けた機能だが、洗面所にもあったら便利かなと思い付けた。
これはお好みで好きな方をどうぞって感じかな。
夏は冷たく、冬は暖かく出来ていいかも。
そして死の駆動に行くと、やっぱりレミナは居なかった。なんならクレニも居ない。
「あの二人は? 」
「レミナは当然寝てるわよ〜。意外だったのがクレニちゃんもぐっすり眠ってて、起こそうとしてもうんともすんとも言わないのよ」
「なんか意外。聖女って規則正しい生活送ってるもんだと勝手に思ってた」
「新しい土地だし、まだここに来て3日目だから疲れも取れてないのかもね〜」
「それを言ったらマーリンだって三日目だろ? 」
「賢者だし体力には自信あるわよ〜。早起きの習慣も身体に染み付いちゃってるのもあるかも〜」
「健康賢者なのは相変わらずで安心したわ……って君らまじで律儀に松の? 」
30分も遅れてやってきた人の発言とは到底思えない言い草だが、誰も食事に手をつけてなかったので思わず言ってしまった。
「一応そういう了解? になっているので」
「じゃああいつら呼んでくるわ」
食堂を一旦後にして、あいつらの部屋に向かう。
まずは楽に起こせそうなクレニから。
ノックしても当然反応はないので、部屋の中に入る。
凄い寝相をした聖女が目に入った。
ベットから頭は出てるし、布団は蹴り飛ばされているし、服はめくれておヘソがチラ見してる。あとヨダレが垂れている。
「おーい起きろー」
身体を揺さぶってみるが中々起きない。
どうしたものかと頭を悩ませる。
あ、そうだ。こういう時こそ返金術の出番だな。
ベットの隅っこに置けるような小さめのサイズにして、時計を埋め込んで、設定した時間になると、大音量で音がなるようにして……っと。
ちょちょいのちょいっと数分で完成した。
これは【目覚まし時計君】とでも名付けよう。
試しに1分後に設定して、スイッチをon。
クレニの耳元にそっと置く。
そして待つこと1分。
ピピピピヒピピピピピピピピヒピピピピピピ!!!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!?????? な、なに!? 」
魔物みたいな声を上げながら飛び起きたクレニが、滝のような汗を流しながら、首をブンブンふりながら部屋中を見渡す。
「へ? レン君。どうしたの」
ピピピピヒピピピピピピ!!!!!
「やかましいわね!!!! どこから鳴ってるのよ!! 」
クレニはそう言って、視線を落とす。そしてようやく【目覚まし時計君】を見つける。
「これね!? どこ押せばいいのよこれぇぇ!! 耳が死ぬわよ」
「その頭の部分のとこ」
こうしてようやく音が消えた。
「れ、レン君よねこれ作ったの……あたしのために作ってくれたのはこの次農協を見たら分かるんだけど、流石にうるさすぎるわよコレ」
「ごめんそれ俺も思った」
鳴り響くピー音を聴きながら思ったのだ。
あっ、これ音量設定ミスったわって。
だって……
「おい聖女!! お前の部屋からとんでもない音してたけど無事か」
あの寝坊助で、頭を叩こうとも、頬をペチペチしようとも絶対に起きない鉄壁の昼夜逆転女であるレミナが血相変えて飛び起きてきたくらいだからだ。
「あ、レン? なんでレンがクレニの部屋に……朝から……朝から、ぷぷっ」
「ちょっとレミナ!? あんた勘違いしてない!!? ねぇ! 」
「やべ、逃げろ! 」
こうして二人とも部屋を出ていく。後ろから声をかけておく。
「皆待ってるから顔洗ったら食堂いけよー」
「わかったわ」
「あいよー」
走り去っていく二人の後ろ姿を見送り、俺はベットの上にある【目覚まし時計君】を持ち上げた。
これ、音量のとこ変えないとなぁ……。
一回分解して、程よい音量に変えたあと、俺も急いで食堂に向かったのだった。
因みにあの目覚まし時計君の音、食堂まで聞こえていたみたいだ。
なんだったんですかあの音は、って問い詰められたが、適当に流しておいて。
やっと揃った皆で朝ごはんを食べて、食器は自動洗剤噴射機能付きのガラクタに全部投げ込み、それを水で洗い流して終わり。
クレ二がほへーと眺めていた。
「こんな便利なのまで作っちゃえるのね」
「便利だしメイド組の負担軽減にもなってるみたいで作ってよかった」
他にもちょこちょこと話をしていたら、他のみんなは仕事なり洗濯物を星に行ったり、二度寝しに行ったりで、クレニと二人きりになっていた。
「ねぇ、レン君は王都……ってよりはお城で酷い目にあってきたんでしょ? ここは関係ないとはいっても間接的には王国のものだしさ。左遷なんてバックれて他の国に行こうって思ったりしなかったの? 」
突然そんなことを言われて驚きながらも答える。
「他の国っても行く宛てなんて何処にもないからなー。大人しく左遷を受け入れるしかなかったんだよな。それに城で酷い目にあってきたって皆に思われてるけど、正確には違うかな? 同じ血が流れてる人間に嫌われてただけで他のやつらは仲良くしてくれたからな。それこそ賢者のマーリンとか魔術師や騎士団のみんなも良くしてくれたし、魔剣プレゼントしてくれた結界魔術師長、それに……君もね? 」
「次から次へと重要な役職名が挙げられていくけど、なんかもう驚かなくなってきたわ。けどこれは聞いておきたいんだけど、後悔もしてないの? 」
「んー最初こそはこんな領地……って思ったけど、今じゃここが好きだぜ。それに俺の力でここを発展させていったら、少しは認めてくれるんじゃねぇかなって」
それを聞いて悲しそうな顔をするクレニ。
自分でも言ってて少し驚いた。
まだ、心の底ではクソ親父に認めてもらいたいって感情があったんだなって。
「辛かったらいつでもあたしは傍に居てあげるからね。メイドの方がいいのかもしれないけどっ」
「ははっ、ありがとう」
「今日は何かするの? 」
「昨日一日休んじゃったし、ちゃちゃっと広場を作ってくる」
「ちゃちゃっとって……そんな簡単に出来るものじゃないでしょ。あたしも手伝うよ? 暇だし」
うーん?
「一時間もあったら終わると思うよ? 外暑いしクレニは部屋でゆっくりしててー」
「い、一時間って……いや、レン君ならやりかねないか。変にあたしが居て邪魔になってもあれだし、じゃあここで待っとくね! 帰ってきたらあたしと……あたしと二人っきりでお風呂入りましょ! 頑張ってきてね!! 」
クレニはそう言うと、俺の返答も待たずにぴゅーーーとマンガみたいに足を竜巻にしながら食堂を出ていった。
そんなにお風呂を気に入ってくれたのは嬉しいけど、なんでわざわざ俺と入りたがるんだろう? 今からでも一人で朝風呂入ればいいのに。
外に出て、集会をした場所に立っているとガークがやってきて、声をかけてきた。
「レンこうやって話すのは久々だな!」
「おーガーク。確かに二人っきりで話すのはあの日以来か? 」
ガークが喧嘩ふっかけてきて、返り討ちにしたら認めてくれたやつ。
「トメリルはちゃんとやってるか? 」
「色んな仕事してくれてるし、リーナの補佐もやってくれてるから凄く助かってるよ。それに屋敷の皆とも仲良くやってくれてるよ」
やっぱこいつ根から良い奴なんだよな。すぐ友人を気遣えるし。
必然ではあるが、屋敷メンバーのうち、トメリル以外は嘔吐組のため、どうしても疎外感が生まれたりしないか心配だったが、誰とでもすぐ打ち解けて、楽しそうに毎日過ごしてる。
「ならよかったわ。そーいや、聖女様たちってレンを追ってやってきたんだろ? お前、人望ありすぎじゃね? 下手したら国王以上なんじゃねぇか? 」
「いやいや買い被りすぎだそれは」
「いつか王女様とかが、レンを追ってヘレクス領にやってきたなんて大イベイベントが起こっても、俺は驚かねぇからな? 」
「お、王女様って……お前なぁ」
「じょーだんだよ、じょーだん。流石のレンでも王女様との交流はねぇか。レンと同じで王女も何人か、えーと三人だっけ? いるっつーのは知ってるが、第三王女とかだったら交流あんのかなって思ったんだが。第一王女はなくとも」
「え? そりゃ三人とも交流あるぞ? 」
「はぁぁぁ!?!? いや、俺……冗談で言ったんだぞ!? は、ガチで!? 」
あのイカつい顔したガークがめちゃくちゃ驚いてて面白い。
「いや、そりゃ王族のパーティーとかあるからな。兄貴共はでしゃばって、ガツガツと王女様方にとりいっていってたが、俺はそういうのには興味がなくてな。食いもんと飲み物だけ楽しんでた」
「なんだ、びっくりさせんなよ。ただパーティーであったことがあるだけかよ。じゃあ話したりとかもしてないんだろ? 」
「んや? 周囲や兄貴共がべちゃくちゃ喋りながらダンスとかなんならしてる中俺だけぼっちで飯食ってるのを、不憫に思ったのか、はたまた哀れに思ったからなのかは知らないけど、第三王女……クレシアが話しかけてきたんだ」
「王族や貴族のパーティーなんて見たことねぇから想像でしかないが、確かに一人、ぽつんと飯食ってるやつがいたら、浮くわな。それで話しかけようとするクレシア様もすげぇが」
「ガーク!! 」
「あん? どうした!? 」
「ガーク、ガークが人の名前に様を付けた!? お前本当にガークなのか!? 俺の知ってるガークじゃないぞ!!! 」
「アホか!? 王女様まで呼び捨てにはしねぇよ!!! 流石にそこは弁えてるぞ」
「これは驚いた。様を付けるにしても本人の目の前だけかと思ってた」
「レン、一回シバいていいか? 」
「やれるもんなら? 」
「さーせんした! 」
こんなやり取りが続いてーーー
「ーーーと、こんな感じてクレシアと仲良くなった俺は、クレシアからの紹介で第一王女と第二王女とも仲良くなったんだ」
「あんだけ俺に言っといてレンは呼び捨てなのかよ」
「俺も最初は様付けてたけど本人たちが様付けやめろ、名前で呼べ、差もなくば拉致るぞと脅されたから渋々な……」
「話聞いてて思ったんだが、王女様に気に入られたから、お前への妬みが増幅して行ったんじゃねぇか? 」
なるほどねぇ……。有り得ない話ではないな。
しかし王女三人に気に入られたところで、なんになるんだって話だよな。
綺麗だったり可愛い王女たちを嫁にして自慢したいとかそんなところ?
あいつらならそんな下な思惑しかなさそう、うん。
「レンがそれ言うか? 7人も女はべらせといて」
呆れたように言ってくるガーク。
「おまっ、はべらせるって何言ってんだ。あいつらはただ友達として仲良くしてくれてるだけだと思うんだが」
「レンは女心が分からんのだな」
またでた女心!
リーナとかトメリルとかトゥーンちゃんも言ってた気がする。なんなのだろう、女心って。
そういう疑問に答えてくれるナビゲーターガイドみたいなの後で作ってみようかな。
「はーこりゃあいつ苦労しそうだな。友達として言っといてやるが、ソレ、言われたら全員ショック受けるだろうから絶対言うなよ」
「お、おう」
「話は戻るが王女様方に気に入られたって言ってたよな? 俺はレンを追ってここに王女様が来ても驚かないからな」
「いやいや、流石に王女が俺の後を追ってくるなんてことは無いだろ……」
無いよな……?
「というかこれ以上は誰も俺関連では来ないんじゃないかなぁ」
「んなことねぇだろ。って引き止めて悪かったな。そーいやなんでこんなとこに突っ立ってたんだ」
「ん? ここに皆が気安く集まれるように広場を作ろうと思ってな」
「俺がボコボコにされた場所が皆でキャッキャの広場になんのか」
「……そ、そうだな」
俺としてはただ広いってのと、集会所がスグそこってのを鑑みてここに決めただけだったのだが、そういえばガークと決闘したのここだったな。なんかもう懐かしく感じる。
「俺も手伝うぜ」
「え、いいのか? 」
「あたりめーだろ。てかそんな大掛かりなことすんのに一人でやるつもりだったのか? 」
「うーんだって数十分もあれば完成するし」
「数十分って……まぁレンだからそうか」
「なんだよその納得の仕方」
「ここの領主様はすげぇからな」
「買いかぶりすぎだ。けど、手伝ってくれるのはありがたい」
「一人より、二人でやった方が早く終わるだろ? お前は早く屋敷に帰ってあいつらと談笑したり遊んだりするのも仕事だ。早く帰ってやれ」
「ガーク……」
「あ? なんだよお前ほんといいやつだな。あの時では考えられないわ」
「一言多いんだよ一言。うっし、やるぞ。何をしたらいい? 」
「そっからここをこうしてだな」
ーーー30分後。
「「完成ー!!! 」」
額についた汗を拭い、お互い近くに歩み寄るとハイタッチをする。
「想定より早く終わったな。これもガークが手伝ってくれたおかげだ」
「ほとんどレンがやったけどな。俺はちょっと手伝っただけだ」
木材のイスやテーブルを何台かおいて、領民が座って談笑したりできるようにした。外だと日光に照らされて、夏は暑くなってしまうのでテントを貼って日差しを少しでも遮れるようにした。因みに天井にウォータースプリングをくっつけたので、霧型の水が優しく噴射されて暑さを軽減&涼しくできるように。
子供たちが退屈しないようにブランコと滑り台も併設した。
これでとりあえずの広場は完成した。
作ってる最中から領民たちが、少し集まってきていたので試しに座ってもらったが好評だった。
チラッと作った広場を見ると、早速話を聞き付けた子供たちが遊んでいるし、仕事に疲れた領民や散歩をしていた領民が座って談笑している。
そんな光景を見て、作ってよかったと心から思った。
しばらくの間少し離れた場所で、ガークと二人で様子を見守っていたのだった。
広場をガークと協力して作った俺は、ガークと共にベンチに座って酒を飲んでいる。
まだ夏本番って訳でもないのにこの暑さはまいってしまう。
ちらっとガークを見るが、こいつは汗をほとんどかいていない。
「なぁお前暑くねーの? 」
「そんなに暑くないぜ……汗かきすぎじゃね? 」
「ここに来る前はひきこもりニートみたいなもんだったからな……外での作業でこたえたのかもしれない。これ飲んで少しは生き返ったわ。あんがとな」
「お前と飲めて楽しかったぜ。でお前を引き止めた俺が言うのもなんだが、そろそろ屋敷戻らなくていいのか? てかそう言えばお前が早く屋敷に帰れるようにって手伝ったのにこれじゃ本末転倒だな」
その言葉にハッとなる。
そういえば出かける前にクレ二がなんか言ってたよな。それに対して一時間くらいで帰るって伝えたような……。
あーやべぇ〜、と内心焦りながらもそれを隠すために、ジョッキに残っていた酒をグビっと一気飲みして、立ち上がる。
「んじゃ、そろそろ行くわ。手伝ってくれて助かったぜガーク。また飲もうな」
「おう! いつでも呼んでくれ」
こうしてガークとのプチ飲み会はお開きとなった。
「ただい……うおっ!? 」
ドアを開けると、玄関にはクレ二の姿が。
「怒ってる? 」
「別に怒ってないわよ! レン君は領主なんだし領民との付き合いがあるってのは分かるわよ」
付き合い……? へ? まさか酒飲んでたのバレてる!?
「だって顔赤いし、酒臭いし」
「自分ではそんなに酔ってる感覚無いけど、そんなに目に見えて顔赤いか? 」
「後で鏡みたら」
そう言うクレ二はなんかこう、ずっともじもじしている。
「トイレ行きたいなら行ってきたら? てか俺が帰ってくるまでずっと玄関で待ってたの? 」
「トイレじゃないわよ!!!!!!! 聖女はトイレなんてしません!!!!! 」
「え、そうなのか!? すげー!! 」
「冗談に決まってるでしょ!? 」
冗談だったのか。一瞬本気にしてしまった。
「逆になんで本気だと思ったわけ!? 有り得ないでしょ普通」
「特別な訓練を受けていますみたいなテロップが出るような聖女さんなのかなって? 」
「どんな聖女よそれ」
「クレ二なら知ってるんじゃないの? 他の国の聖女事情とか、おもらし聖女とか、トイレに行かない聖女とか」
「交流ないからわかんないわよ。けど確実にこれだけは言えるわ。そんな聖女、世界中を探し回っても見つからないわよ」
「実際行ってみて確認しないとわからなく無い? 」
「一つ一つ国回っていったらとんでもない日数かかるわよ。それに聖女に、貴方はトイレに行かない聖女ですか? って聞くわけ? 」
「そうだけど、まずいかな? 」
「殺されるわよアンタ!? 」
聖女ってそんな物騒なのか。
ん? そういえばクレ二と初めて会った時、襲われたな?
「そんな誤解生むような言い方しないでよ。聖騎士に、襲われたでしょ。あたしが襲ったみたいに言わないでよ」
「クレ二の仲間なんだしそれであってるくない? 」
「全然違うわよー!!! あの時はほんとにあいつらがごめんねレン君」
さっきまでの空気から一点し、クレ二が謝ってくる。
急にどうしたんだと思いつつ答える。
「なんとも思ってねーから大丈夫だよ。クレ二が今言ったように聖騎士が勝手に襲ってきただけじゃんか。クレ二が命令した訳でもないでしょ? だったら悪くないよ」
「レン君は水晶を治そうとしてくれた。そんな善意を誰も見抜けなかったし、話を聞こうともしなかった。そんなヤツらをまとめてたのはあたしじゃん。だからあたしが悪いんだよ。責任取らないと行けない」
「責任なんて取らなくていいよ。今はヘレクス領の領民として頑張ってくれてるし。それだけで十分だよ」
クレ二は怪我をした領民を癒したりしてくれている。そんな彼女に責任を取らせるなんてことはできない。
というかどんな責任を取るんだって話だ。
「いやあたしが取りたいのよ」
「あの時のことを引け目に思ってるんだったら、ほんとに俺は気にしてないから安心してって……」
「責任としてあたしをレン君に捧げたいのよ」
「へ? 」
なんかとんでもない事言わなかった?
い、いや聞き間違いだろう。うん……きのせい。
「す、すまん。よく聞こえなかったんだ……」
「こんなところで鈍感主人公発動させんじゃないわよ!? 二回もあんな恥ずかしいこと言えたもんじゃないわよ」
「じゃあ無かったことに」
そう言って俺は自分の部屋に逃げようとしたが、腕を捕まれ阻止される。
「もう1回言うからぁ!!! 今度はちゃんと耳かっぽじって聞くのよ」
ふぅっと深呼吸をしたクレ二は、顔を真っ赤に染め、さっきよりもずっとずっと小さく、今まで聞いたこともないようなかよわい声で、呟いた。
「元部下の責任をとって、あたしの全てをレン君にあげます……」
俺の腕を引っ張ったまま、顔を俯けている。耳の先まで赤くなっているのが分かる。
「そ、その責任をどうしても取りたいっていうなら、全然他のことでいいんだよ……? それに捧げるにしてもクレ二が好きな人にね? 」
ちょっと動揺しすぎて頭が回らない。
「……だからレン君に言ってるんだよ? 他の皆を差し置いたのは悪かったけど、トゥーンちゃんの様子を見てたらいてもたってもいられなくなって」
「それって、その……いわゆるあれ? 自分の全てを捧げることに快感を覚える」
「ぜんっぜん違うわよ!!!! レン君が好きってことよーーーーーーーーーー!!!!!!! 」
クレ二の愛の言葉が屋敷中に響き渡るのだった。
「そ、そそそそそそそののののののの、やっぱ今のは……」
「勇気をだして言ってくれてありがとう。いやまぁ、実はさっきのも聞こえてたんだけど」
それを聞いてわなわなと震え出すクレ二。
「1回目のもすっごく勇気だしていったんだけど!? 」
「初手捧げる云々はビビるでしょ」
「あたしなりに頑張ったらああなったのよ。別に困ることじゃないでしょ。乙女に自分を捧げます、だなんて言われても」
「反応に困る」
「けど、まんざらでもないんじゃない? 」
それに俺はうーん、と唸る。
捧げるとかってなんかこう、スケールがデカくない?
というか答えどうしよう。
クレ二はあの時から思いを馳せていてくれたみたいだが、俺からしたら会って数日みたいなもんだし。
出会って数日の女を自分の屋敷に連れ込んでいるこの状況はなんなんだと突っ込まれたら返す言葉もない。
「考えてくれてて嬉しいんだけど、あれよ? これ別に今すぐ答え出してくれってことじゃないからね。好きな時に返事聞かせてくれたらいいわよ」
「それでいいの? 俺としては助かるけど。変に返事待たされてクレ二は嫌じゃないのか? 」
「別に嫌じゃないわよ。急にこんなこと言ったのは、焦りからきたのもあるけど、マーリンが背中を押してくれたから出来たってのもあるからね」
「そうか……返事、ほんとにいつになるか俺自身分からないから、それだけは先に謝っておくよ」
マーリンはあそこでも皆のお姉さん的なポジションでもあったが、ここでもそれは健在なよう。
「あとレン君を独り占めしようだなんて考えてないからね! それも踏まえた上で返事、いつでも待ってるからね」
独り占め……? どういうことだろう。
「それはあたしからは言えないわよ。これでこの話はおしまい! 汗かいてるのに玄関で長々と話しちゃってごめんね。お風呂入りましょ! 洗ってあげるわよ」
あ、風呂はちゃんと予定通り入るのね。こんな話したあとに二人きりで入れるなんて、クレ二は意外と鋼メンタルなのだろうか。
「意外ってなによ!!! 」
クレ二が抗議してきたが、その口は少しにやけていた。
俺としても身体を洗ってやると言われて拒む理由はない。それに外での作業で疲れたのもあって、面倒な作業を他人がやってくれるってのはありがたいことだと思い、今日はクレ二と朝風呂ならぬ昼風呂につかったのだった。
危惧していたような、気まづさや沈黙なんてものはなく、ここでの話や、王都や、ここに来るまでの道中の話などを話してくれて、楽しく過ごせた。
クレ二に告られたことをのぞけばいつも通りの、すっきりとした朝。
寝坊組2名が、朝食の時間に席に着いていたことに驚く皆。
「あのねぼすけさんなお二人がちゃんと起きてるなんて偉いです! やっぱり起きれた理由って、レン様が昨日作ったと仰っていたあれのおかげですか? 」
と、トゥーンちゃん。
その問いに首を縦に振り頷くねぼすけさんことクレ二&レミナの二人。
「ちょっと、あたしまでねぼすけ判定されるのは違うでしよ。昨日はたまたまよ! たまたま」
「たまたまですか。それはごめんなさいです! けどレミナさまはたまたまじゃないですよね? 」
「そーだな。ほんとはこの時間はまだ寝てたいよ。まだ早朝だ早朝」
「起きれてるのすごいです! 」
「あれは幾ら深い眠りについていようが、幸せな夢を見ていようが、時間が来たら問答無用で叩き起してくる拷問器具みたいなもんだ……」
ゲンナリとした様子でそう言うレミナ。
拷問器具て……まぁ、俺は使ってないからわからんのだがな、わはは。
「レンが寝てる時にやってやるから覚悟しろ」
「やめろよ!? 」
「私も一つ貰っていいですか? 」
「私も欲しいです! 」
「レンが作ったものなら……欲しい」
「もちろんわたしも欲しいです! 」
「ここでマーリンだけ貰わなかったら、他のみんなより一歩遅れてるみたいで嫌だからもらおうかしら〜」
リーナの言葉を皮切りに他のみんなも次々と言ってきた。
「じゃあ後で皆の部屋に行って1個ずつ渡していくよ」
「ありがとうございます」
こうして今日も一日が始まった。
まずは誰の部屋から行こう?
リーナはまだ食堂に居るだろうし、トメリルは洗濯物。真っ先に部屋に戻ってそうなのはトルン、レミナ辺りだがレミナにはもう渡しているから行く必要はない。
それにレミナはいつも朝食の時間眠そうにしてるから、食べ終わったら速攻部屋に戻って二度寝を始めているだろう。おそらく早くても昼までは寝ているはずだ。王都にいたころも、レミナのとこに遊びに行く時は基本夜からだった。
けどそれでも最近昼には起きていて、誰かしらと話していたり遊んであるのを見かける。
レミナなりに昼夜逆転生活を治そうと頑張っているのかもしれない。
夜は皆寝ているから、それが寂しいのかも。
そう考えた俺は、今日の夜もしレミナが起きていたら、部屋に行ってみようと思った。
マーリンは朝食を食べたあと、必ず朝の散歩に出かけている。王都にいた時から習慣づいているらしい。
俺はどっちかというとレミナよりの思考をした人間のため、わざわざ暑っつい中、飯食って直ぐに運動をしようなんて思わない。
本人曰く「健康に気を使うのが一流の人間の証拠よ」との事だが、俺は一流の人間になろうとなんて思わない。
厳しいって、とお叱りをうけそうだが、お生憎様俺はそういう人間だ。
散歩から帰ってきた頃合に部屋に行くとしよう。
となると、今部屋にいる確率が高いのはトルン&トゥーンちゃんコンビとなる。
二人は基本一緒に居るので、双子みがあって可愛い。
しかしそれをトゥーンちゃんに言うと、トルン様に恐れ多いと怒られる。
トルンはトゥーンちゃんのことを信頼してるみたいだし、いいと思ったんだが、どうもトゥーンちゃん的には、どうしても2人の関係に一つの板を敷いてしまってるみたいだ。
どうにか取り除いて上げたいって気持ちもあるけど、部外者の俺がずさずさ踏み込んでいくことじゃないのかもしれない。
もしトルンと二人きりで話せる時間があれば、トゥーンちゃんをどう思っているのか聞いてみて、その返答次第で考えてみようかな。
二人の部屋をノックすると、トゥーンちゃんが開けてくれた。
「作ってくれたんですか! わぁ〜! ありがとうございます!! これってわたし達の髪色に合わせて色変えてくれたんですか? 」
そう、全員同じ色でもよかったけど、どうせならそれぞれのモチーフ色にでもしたら区別がついていいかなと思い色を付けてみたのだ。
トメリルとトゥーンちゃんの髪色は同じだが、この二人であれば混ざることもないだろうし。
トルンとしか寝ないしね、この子。
ちなみにトルンは俺の銀髪より少しうっすらとした銀色。
何故か銀髪率が少し高く、この屋敷だけで三人銀髪がいる。
皆は染めたりしないだろうけど、俺はそろそろ染めたいと思ってる。よく地毛なのかと聞かれて、驚かれる。
染めるとしたら地毛の銀も残したまま部分的に染めたい。そうなると必然的に二色マンになるわけだが。
「ねぇ、俺って何色が似合う? 銀以外で」
「突然ですね。うーん……黒、ですかね? トルン様はどうですか? 」
「ん、トゥーンの言う通り銀以外で答えるなら黒」
二人とも黒を推してきた。銀と黒のイメージを脳内に浮かび上がらせる。
うん、確かにかっこいいな!
「ありがとう二人とも! 」
「どうして急にそんなことを? 」
そう言って、ハッとなるトゥーンちゃん。
そしてあわあわとしだす。
「まさかご自身にも目覚まし時計作られるおつもりなんですか!? だめですよーーー!? 」
「ん? いや違うけど。なんでー? 」
自分で作っておいてなんだが、あんなやかましいもの俺は使わない。朝というのは気持ちよく迎えるものだ。一日の始まりをあんなクソデカピー音によって阻害されるなどあってはならない。
そんなものを渡すなとつっこまれそうだが、みんな側から欲しいとの要望があったから渡していってるだけだからな。
クレ二の一件で音量見直しを行ったから、屋敷中に響き渡るような音量ではなくなったので、各々の部屋から目覚まし時計大合唱が始まり、俺が無理やり起こされるなんてことはないだろう。
トゥーンちゃんは恥ずかしそうに言う。
「えっと……その、ただでさえ三日に一度しか起こしに行けないのに、それが無くなっちゃうのはいやだな、って……」
「トゥーン。いつも前日の夜ウキウキしてる。起こしてへやにもどったあと、嬉しそうにそれを話す」
「あっ!? ちょっとトルン様あああ!!! 本人の前で言わないでくださいよ!!!! 恥ずかしいですうううう……」
なんかいっつも恥ずかしがってるなと思いながら、二人を微笑ましく見守るのだった。
なんだかんだ平和な日々を過ごしている。
変な案件も舞い込んでこないし、領地は少しずつ発展していっている。
そして今日は領地の外にやってきた。
ヘレクス領までの街道は、ナナンちゃんを外に連れ出した時に少しだけ整えたが、それだけだ。
多少整えてもまだ雰囲気が悪い。
言うならば薄暗くて、近寄り難いような雰囲気を醸し出している。逆にこれがあるから、この道を進んでは行けない。あの領地に続く道だ、とか言われるのかも。もっとこう、安全ですよってアピール出来るようにしなければ。
それだけて人が来るのかと言われたら微妙だが、こういうところから改革していくべきだろう。
「それでマーリンを連れてきたの〜? 」
「いや、勝手に着いてきただろ。俺、誘ってねーし」
「あら? マーリンをじっと見つめてたじゃない」
「捏造するな。一切そんな記憶ないぞ」
「レンちゃんが5歳の頃」
「はっ倒すぞ!? いつの時代を引き合いに出してんだ……お前俺がそんな小さな頃から近くに居たんだったな。そーいや」
「だってお抱えの賢者でしたし。あのくらいの頃は皆可愛かったわね〜今じゃ全員憎たらしい態度とってるけど、大人になった証拠ね」
「おい、あいつらと同類にすんな」
俺は不満を口にする。
だってそうだろう、クソ兄貴達と同じ括りにされるなんて溜まったもんじゃない。自分で言うのもなんだか、アレらよりはマシだと自負している。
人に不躾な態度はとってない……と思う。
まずお偉いさんと話さんし。ガークと話してる時に話題にでた王女とか、魔界に住んでるロリババアとか。実際にはお偉いさん的な立ち位置なんだろうけど、どうも本人がバカっぽくて、同年代、ロリババアは一回りも二回りも小さい子供みたいな扱いで考えてしまう。
「レンちゃんへの憎たらしいは別の意味で、ですよ〜」
「はぁ、よく分からんがまぁいい。着いてくるなら手伝ってもらうぞ」
「元より手伝うつもりで来たわけだし、もちろん手伝うわよ〜」
そうか。
……うん? 俺は誰にもこのことを朝食の時間に伝えていないはずだ。出かける時にリーナ、トメリル、トゥーンちゃんのメイドコンビか玄関でお見送りをしてくれたが、その時にも散歩としか答えていない。
ましてや外で合流してきたマーリンが知ってるわけが無いのだが。
「何故知っている? 」
そう聞くと、ニヤニヤとしながら言ってきた。
「レンちゃんがサボる時ってあんな真面目な顔して散歩に言ってくるとか言わないもの。というか昔からサボる時ほど仕事をしてくるって強調してたもの〜」
その言葉に俺はショックを受けた。
「そんなに分かりやすかったのか……」
しかし、これは彼女が賢者だからってのもあるだろう。
洞察力のある人間だし。
そんなことを考えていたが、次の一言で否定された。
「クレ二ちゃん以外、分かってるわよ」
「へ? 」
「レンちゃん、散歩に行くってリーナに言った時に彼女、ニコニコしてなかった? 」
「言われてみれば確かにそうだったな」
出る前はただ機嫌がいいのだろう程度しか考えてなかったが、実際は俺が真面目に働きに行くのを見越したから微笑んでいたらしい。
そんなに俺って分かりやすかったのかと、肩を落とし項垂れる。
「つーかクレ二で思い出したけど、君あいつに何吹き込んでんの!? 」
「マーリンはただ一人の恋する乙女の相談に乗って、背中を押しただけよ。何も言われる筋合いは無いわ〜」
「そうだけどさぁ……」
「返事はいつでもいいって、普通ありえないわよ? 」
「俺としちゃありがたいが、まぁそうだろうな」
「返事どうするつもりなの〜? 」
「仮にも元とはいえ聖女だろ? 逃げるようにしてここに来たとはいえ、問題になって面倒事になるのは避けたい」
「レンちゃんなら協会と対立しても余裕でしょうに」
「そういう問題じゃねー! 俺はゆっくりのんびりしたいんだよ」
「(否定はしなかった……ここに来てレンちゃん少しは自分に自信を持てるようになったのかな。マーリンとしては嬉しい限りだし、リーナはマーリン以上に嬉しいでしょうね)」
「何その子供の成長を感じてる母親みたいな目」
「あれ、そんな顔してた? 」
頷くと、あちゃーと頭に手をやるマーリン。
「マーリンも人のこと言えないくらい顔に出るのね。嫌な目だった? 」
「んや、別に? 俺にとっちゃリーナが母親みたいなとこあるけど、お前だって俺を育ててくれた大切な母親だと思ってるぜ? 」
その言葉に固まったマーリンは複雑そうな顔をしながら小声で何かを呟いたが聞き取れなかった。
聞き返したが、
「なんでもないわよ〜」
とのことだったので、あまり深くは考えず歩いていき、道をぬけて看板がある場所までやってきた。
その看板にはここから先は危険だなんだの書かれている。
ヘレクス領をいじめて楽しいか!
なんて言葉が出そうだが、それはさておいて。
「まずはこの看板を引っこ抜いて、新しく看板を建てようと思うんだが、どう思う? 」
「いいと思いますよ〜まずはこの看板をっ〜……んぬぬぬぬっ!! こ、これどれだけ深くに埋まってるのよ〜。マーリンの魔法ですらビクともしないわ〜」
ふむ、これを建てた奴は余程ヘレクス領が嫌いだと見た。もしこの看板を建てた奴、それに作ったやつと会う機会があろうものなら一発殴りを入れてやる。
それに親父も。
「それは左遷されたからか? 」
「んや、ここに何も支援をしてこなかったからだよ。ってマーリンなら分かるくね? 」
「マーリン何も言ってないわよ〜」
ん? 確かにいつもの間延びしたような、おっとりした声じゃなかった気がする。先程の声はもっと低くて、性別や素性が分からないような声で。認識阻害の魔法がかかってる。
俺は後ろを振り向く。そこにはフードを被った一人の姿が。
深く被っているせいで、顔は見えない。
「だれっ!? 」
マーリンが一瞬で戦闘態勢をとる。その顔にはすぅっ……と一滴の汗が垂れている。
まー確かにヤバそうだけどさ、目の前のこいつ。魔力量えげつないし。
けど、俺はそいつに1歩、歩みよる。
「ちょっとレンちゃん!? 」
その行動をみて慌てるマーリンに、左手を上げる。
「大丈夫そうだよ? あいつ」
「レンちゃんなら気づいてると思うけど、あの人魔力量やばいわよ」
「けど殺気とかないし、敵意もないみたいだぞ? そこの人、そうだよな? なければ俺とハイタッチしようぜ」
「うむ。しかし何故ハイタッチしなければならんのだ」
「その瞬間にお顔が見えるかな? って」
「まだその時では無い。素性を明かすのはまだ先であろう」
「えー今教えてくれないのかよ」
「今日ここにきたのは他でもない。大事な話をしに来たのだ」
大事な話なら正体あかせよ、と言いたいところだ。
「隣の女もそう身構えるな。ただお隣さんとして挨拶をしに来ただけだ。どうも人間にはそういう文化があると部活から教えられてな。それで来た感じだ」
へーお隣さんね。そんなアパートの引越しみたいなノリで、挨拶来てくれるもんなんだな。世間一般的に見たら、近寄り難いだろうに。
そこまで考えて、ふとおかしい点に気づいた。
お隣はピクニックにも行った森、逆側は魔の森。後は海。
てことはお隣のお隣さん? なんて現実逃避してみる。
「我が主が森から降り立つ訳にもいかぬからな。我はただの代理だ」
「森ってもしかして魔の森であってる? 」
「うむ。瘴気が濃い方だ」
「やっぱりかー。まぁ、これからよろしく頼む! 俺は最近ここの領主になったレンだ。で、こっちがマーリン」
「なんでそんなにすんなり納得出来てるの!? そして会話スムーズすぎない!? 」
「敵意がなけりゃなんだったっていいよ。魔の森に住んでようが、ただのお隣さんなのには変わりないし」
「我はザグトウェス。もし我が主に用事がある時は我の名前を言え。融通が聞くはずだ。ではまた会おう」
そう言って、正体不明で尚且つ魔の森に住んでるザグトウェスはこの場から消えた。
俺と同じで転移魔法が使える人間、いや人間なのか怪しいが。
雰囲気やあの魔力量、そして今の転移魔法。どれをとっても実力者なのは間違いない。
彼はただの挨拶だと言っていたが、何故このタイミングだったのか。魔の森に住んでいるというのは本当なのか。そして主の存在。主ってくらいだし、あいつよりも強いのだろう。
マーリンにはああいったが、とてつもなく面倒事が始まりそうな気がしてならない。
俺はため息をつきながら、新しい看板の作成に取り掛かるのだった。
ちなみにマーリンはさっきの出来事が衝撃すぎたのか、固まっていたので結局一人で仕上げた。
素性不詳なお隣さん(ちなみに魔の森)、ザグトウェスが挨拶に来たことを除けば、何も変わりのない平和な朝。
「起きてくださいレン様、時間です。……珍しいですね、起こす前から起きてるなんて」
今日はリーナが起こしに来た。
リーナが言ったように、俺は珍しく起きていて、ベッドから身体を起こしていた。
「自分でも分からんが、早く起きた」
「何度も起こす手間が省けてよかったです。……本当は久しぶりのレン様の寝顔を拝みたかったですけど、何故私の番に限って起きてるんですか」
「なにかいったか? 」
「いえなにも。では私はこれで」
なにか小声で呟いていた気がしたのだが。
今日も皆揃って食事をして、各々自分のやりたいことをしだす。
リーナとトメリルが纏めた資料を確認して、はんこおして、重要そうな案件だけ隅にやる。
今日も特に問題なさそうで安心した。
開放された俺は、自分の部屋に籠る。
何をするかというと。
机に置いておいた楕円形で細長い瓶状のモノを手に取る。
そして、フタを開けて頭にやる。
ああ、境目を分けるために、半分覆い被せないとな。
適当に錬金術でそれっぽいのを作って、被せる。
これで半分だけ染めれるはず。
今度こそスプレーを噴射して、髪をもんていき馴染ませていく。銀色だった髪がみるみる黒に染まっていき、ものの数分で染まりきった。
後は色落ちしないようにこっちのスプレーをかけて同じ工程をして……っと。
鏡の前に立ち、確認してみる。
銀と黒で綺麗にわかれており、思ってた通りの結果。
染めたいとはぼんやりとしか思ってなかったが、暇だったし道具も直ぐ作れたのでやってみた。
思い立ったが吉日って言うしな。
自分ながらに満足した俺は、皆にも感想をもらおうと部屋を出て探す。
リーナと廊下でばったりあった。
「……なんですかその頭」
「イメチェン、みたいな? で、どう? 似合ってる!? 」
「正直ビックリしましたが、まぁ似合ってますよ。……かっこいいです」
おお、リーナが素直に褒めてくれた。ダサいとか言われたらどうしようかとおもってたけど、杞憂だったみたい。
俺はリーナに褒められてルンルンになりながら、屋敷中を駆け回った。
「なぁなぁトメリルこれどう? 」
「イメチェンですか! かっこいいです! 素敵! 」
トメリルを発見して、褒めてもらい、
「二人とも! この色合いどんな感じ? 」
「レンさまの白銀の髪が半分だけ黒になってる! 今までずっと白銀だけを見てきたからなんか違和感すごいですけど、かっこいいです!! (はわわ……!!? 突然部屋にきたと思ったら、かっこいいレンさまが更にカッコよくなってやってきた!? 前のレンさまもいいけど、今のもいい!! )」
「ん。漆黒の精霊が好みそうな黒。紹介したら喜びそう」
トゥーンちゃんとトルンの部屋に押し入って、二人にも褒めてもらった。
俺は銀も好きだが黒も好きだからな。
漆黒の精霊とやらと、一度話してみたいものだ。
そして次はクレ二の部屋に突撃。
「ちょっと、ノックもせずに入ってこないでよ!? 幾らレン君でも、いやレン君だからこそノックして欲しいんだけど!? 心の準備ってものがあるのよ乙女には!! 」
クレ二がなんか抗議してきてるけど、いち早くみんなに染めた髪を見てもらいたかった俺の耳には何も入ってきてなかった。
「そんなことより、これみて! どう!? 」
頭を指さして、言う。
「そんなことより!!!??? 」
クレ二が素っ頓狂な声を上げていたが、手の動きに合わせて目を追いやる。
「あっ……♡ かっこいい♡♡♡♡ 」
でへへ、と笑いながらベットにすとんと背中から倒れる。
俺はそんなクレ二を放置して、次の元へ向かう。
はっやく、はっやく!
まだ見てもらってないのはマーリンとレミナだけだな。
庭で優雅に飲み物を飲んでいるマーリンを見つけた。
目をキランと光らせて、庭に向かう。
「レンちゃんどうしたの〜そんなに急いで〜。ああ、髪を染めてみたのね」
「どう!? 感想!! 」
「イケてるわよ〜。これだと更にモテそうで大変ね」
「よっしゃー! 」
「お茶でも一緒に飲む? 」
「いらなーい」
きびすを返して、部屋の中に戻る。
「た、たまにはマーリンとの時間も……」
そんな声が後ろから聞こえた気がする。
「レミナこれをみろ! 」
「んごごご……」
最後の一人、レミナの元に向かった訳だが、案の定爆睡を噛ましている。
とても女とは思えないイビキだが、今はどうでもいい。
おらっ! 起きろ!!
ペちっ! ペちっ! ペちっ! ペちっ!
往復ビンタをしまくるがそれでも起きない。
ぐぬぬ、早く俺のかっこいい髪を見てもらいたい。
どうにか爆睡モンスターのレミナを叩き起す方法はないか。
周りをキョロキョロと見渡すと、例のブツが目に入った。
レミナのやつめ、目覚まし時計君の音を少しでも遮るために、毛布をかけて、ベットの隅の方に置いてやがる。
俺はそれをぶんどると、【改良】で試作機の音量設定に戻し、【起こす時間】を1秒後にセットして、スタートボタンをおす。そいつをレミナの耳元、いや耳に押し付ける。
1秒後に設定したため当然ーーー
ビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビビ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「おんぎゃああああああああああああ!!!!!!!???????!!!!!!?????」
突如鳴り響く爆音に、流石の爆睡モンスターレミナも飛び起きる。とんでもない量の汗を垂らしながら、俺を見る。
「ななななななななななににににににに!??!!??!?!?!? 」
はぁ、やっと起きたか。
俺は頭を指さしてとぅっ∠( ・ω・)/。
「髪染めてみたんだけど、どうだ? 」
「あ? ま、まぁいいんじゃねぇか。で、どうしたんだ……急に起こして……っていない!?!? あのやろ、まさかそんなどうでもいい報告するためだけにこれ使ってまで起こしやがったのか!? 」
全員に見てもらい、感想をもらった俺は満足して、ホクホク顔で部屋に戻り、眠りについた。
そのあと、治すのを忘れていた目覚まし時計君(レミナver)を使われて起こされた上に、全員にみっちり怒られ(特にクレ二、マーリン、レミナ)、1時間ほど正座をさせられたのは言うまでもない。
特にクレ二とレミナの二人はこの一日顔を合わしてくれず、口も聞いてくれなかったのだった。
けど俺、そんな悪いことしたかなぁ?
ワシは頭を抱えていた。
つい先日、聖女と賢者が王都を去った。しかも理由はあの無能のレンを左遷したワシに失望しただの、あいつのいない王都に未来はないだの。
ふざけるなと言いたい。
国王であるこのワシより、あの無能のレンの方が優れているなど有り得ない話だ。
ワシの判断はなにも間違ってはいない。
レンに何か吹き込まれて揺らいだだけだろう。
しかもなにせ向かった先はあのヘレクス領だ。劣悪な環境に耐えきれず、王都に戻ってくるに違いない。
そこまで考えてワシは、自分でも笑みがこぼれて行くのがわかった。
歪なまでに口が歪んでいるだろう。
あいつらが出ていったせいで、ワシの城での……いや王都での評判まで落ち始めていた。
人の噂というものはすぐに広まる。
「聖女様と賢者様が愛想を尽かして出ていかれてしまわれたらしい」
だの、
「理由は第五王子のレン様を左遷したかららしい。聖女様や賢者様が、自らあのヘレクス領に向かう程の理由になる人物……」
だの、
「ウチの娘が迷子が怪我をして座り込んで泣いていた時に、キズを癒して、ウチまで連れ帰ってくれたことがある。そんな優しい心の持ち主を左遷させるなんて信じられない」
だの、
「騎士団長様と訓練してるところを偶然みかけたことがあるが、かなりの実力者だった。終始圧倒していたし、騎士団長様の悪い癖や、アドバイスも的確に行っていた。それでいて、休憩中には冷たいシート? をおでこに貼ってあげていて、喜んでいたのを見かけた」
だの……。
ああああ!!!!
机を思い切り叩きつける。
思い出すだけでも腹が立つ。
現在のワシの評判はかなり悪いといっていいだろう。
レンを追放して、それを城のもの達に報告して以降、メイドどもはワシを汚物を見るような目で見てくるし、騎士団長も、剣聖も、魔術師長も、結界魔術師長も、どいつもこいつも、その決定は可笑しい、貴方は何もわかっていないとほざく始末。
無能を1匹追放した。ただそれだけのことだ。何故こいつらはレンがレンがと言ってくる。意味がわからない。
しかし。 ワシは再びニヤリとする。
見立てではそろそろ寝を上げて、聖女どもが帰ってくるはずだ。
「私たちが間違っていました。これからも国王様の元で働かせてください。なんでもします」
こういうに違いない。
ククク……。
しかしワシはこう返答してやる。
「今更もう遅い。しかしワシは心が寛大だからなぁ。一生城の飼育小屋で畜生共の糞尿でも掃除してろ。もちろんそこが貴様らの住む部屋だ」
となぁ。そう言い放った時の顔が見てみたくてしょうがない。
くくく……!! 想像したら気分が良くなってきた。
よぉし、仕事をしよう。
「おいメイドぉぉ!! 書類をもってこんかぁ!!! 」
大声で怒鳴るが、誰も入ってこない。
なぜだ? いつでも呼びつけて雑用をさせれるように必ず一人は部屋の外に配置しているはずだ。
少し待っているとカツン、カツン、と金属が擦れる音がなりながら、足音が近づいてきた。
ちぃぃっ、やっときたか。このメイドはもうクビだ。
呼びつけてからやってくるまでに数十秒もかかったことにイライラしたワシは、机に置いてあった、飲みかけが入ったコップを持ち上げ、腕を振り上げる。
入ってきた瞬間に飲み物を顔にぶちまけてやる。
これでワシの溜飲が下がるのだから、本望だろう。
ギギギ……とドアが開く。
今だ!
入ってきた人物にコップを投げつけた。
その人物の【甲冑】にコップが当たり、衝撃で粉々に割れる。びしゃりと液体が全身にふりかかる。
そう、【甲冑】に。
一瞬、ワシの思考が止まった。
甲冑を着るようなメイドは居ないはずだ。
それに思い返せば、何故ドアの向こうからやってくる足音に、金属が擦れる音が鳴っていたのか。
メイドは全員メイド服を着用させているので、金属なんて一切身についていない。
と、なると……。今、目の前にいるであろう人物はメイドではない。そして、メイド以外にここに来るような人間。
執事……違う。
ここまで考えてワシの頭は真っ白になる。とてもじゃないが目の前の人物の顔を見上げることが出来ない。
いや、待て、落ち着くんだ。
焦りからよく考えれなかったが、兵士どもだって甲冑を来てるはずだ。
ああ、そうだ。ワシは何を勘違いして焦っていたのだろう。
報告に来た兵士だ。それ以外ありえない。
しかし何故だろうか。
目の前にたっている人物からとてつもない殺気が、襲いかかってきているのだ。
並の兵士が出せる殺気をゆうに越えている。
そう、まるで王都の最上位クラス。
ワシはまた現実逃避をする。
そうだ、息子達だ。外で訓練をしていたから甲冑でも着ているのだろう。そうに違いない。
ワシはようやく顔を上げて、来訪者の顔を見上げた。
そして、絶望する。
目の前にいる、飲み物で顔と髪がべちゃべちゃになった女性の姿を見て。
なんとか力を振り絞り声をかける。
「こ、これはメリア殿。以下にしてこちらへ……」
ダメだ、情けない声になってしまった。
無理もない、なにせメリアは王国最強クラスの騎士団長なのだから。
とんでもない人物に飲み物を、それも顔面にぶちまけてしまった。
急ぎポケットからハンカチを取り出す。
「こ、これでお顔をお吹きくだされ。こ、これは事故でして……」
メリアは顔をヒクつかせながら言う。
「そうか、事故か。部屋にやってきた人物に顔も見ることなく飲み物を、いや器物を投げつけてきたのが事故か。ハハハ! 国王様は面白い事をおっしゃるな」
「ガハハハ! そうであろう!! 」
メリア殿が笑うので、つられてワシも大きく笑う。……両者、顔をヒクつかせながら。
「して、何用で」
ええい、ビビらせやがって。
こいつだって国王が直々に飲み物をぶちまけたんだ、今頃感謝し、ありがたみを噛み締めているはずだ。
「(なっ、なぜこのあほ面バカ国王はこの状況で笑ってられるのだ!? さっきのは皮肉に決まっているだろう。謝罪の一言もなく、平然と、いや、当たり前のようにふんぞり返っているのはおかしいだろう!? 今ここで叩き切ってやってもいいんだぞ……はっ、いかんいかん。深呼吸してっと)こほん、ここに参ったのは他でもない」
なんだ……?
まさか、こいつまで辞めるとか言い出さないだろうな。
いや、こいつの家系は先祖代々王国の騎士団長としてこの国に仕えてきた。そんなやつが辞めるなどありえない。
「マサカコンナコト国王、すまないが私、メリア・トライシスは王国騎士団長を辞めさせていただく」
しかしメリア殿の口から発せられた言葉は、ワシが危惧していたものだった。
「なぜだッ!? 先程のは事故だと言っただろう!! 」
「(こ、こいつはやはりアホ、アホなのか!? 飲み物を頭にかけられたから、ふてくされて辞めると言い出したと思われてるのか!? )違うに決まってるだろう!? 私はそんな幼稚ではないぞ!? 」
「じゃあ、なぜぇ!!!!!!!!! 」
「(唾を撒き散らかしながら怒鳴らないでくれ、私は今日は液体まみれになる一日なのか!? というか、)そんな理由も分からないのか!? 少し考えたら分かるだろう」
「分からんから聞いてるのだろう!!!!!!! 」
「(よくこんなやつが国王になれたな!? 今までレンから愚痴は聞いていたが、まさかここまでとは……あいつがここまで苦労していたことに気づけなかった私は、あいつの友失格だ。あいつはいつも私を気遣ってくれたのに……)」
メリアは深呼吸をする。
そして、意を決した様子で言う。
「友が心配だ。あいつのサポートに回る。ああ、安心しろ、私の後釜は全信頼を置いている副団長に任せている。これからも変わらないはずだ」
「その友が誰だときいているんだあああああ!!!!! 」
「私の心からの友はただ1人。レンだけだ。では失礼する」
「ま、待ってくれ……いや、まてええええ!!!!! 」
メリアはワシの魂の絶叫を無視し、きびすを返す。
しかし、思い立ったかのように立ち止まる。
考え直してくれるのだろうか、ワシの言葉で踏みとどまってくれるのか。
そんな願いとは裏腹に、淡々と言う。
「このエンブレムの付いた甲冑や鎧、剣。一式ここに置いておく。副団長に渡してくれ」
そして今度こそ立ち止まることはなく、ドアが閉まった。
部屋に一人取り残される。
また、レンだ。
聖女も賢者も、そして騎士団長も全員が「レン」。
抗議に来たメイドどもも、全員、どいつもこいつも口を揃えて「レン」。
これじゃあ、あいつが国王みたいじゃないか。
「レンんんんぅぅぅぅぅ!!!! ……待っていろよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!! 貴様の全てを壊してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!! 」
机の上にあった紙束をぐしゃりと握りしめる。
重要な書類の束だが、今はどうでもいい。
ワシの顔に泥を塗り、恥をかかせ続けるレンをどうやって潰してやろうと、その計画をねり始めるのであった。