外に出たあたしたち。
またドアを開けた反動で、路地裏にゴミが落ちる。
「そこにゴミ箱あるんだし、廊下の捨ててったら? 重要なモノとか混ざっちゃってるなら仕方ないけど」
「全部ゴミだぞ、これ」
「じゃあ尚更捨てなさいよ! 」
「はいはい、捨てますよぉ」
とんでもない量だし、しょうがないからあたしも手伝ってあげてるんだけど……。
いかんせん汚い。仮にも女がよくここまでゴミを廊下に溜め込んで入れたなと。
衛生上死ぬでしょこれ。あたしだったら一日で逃げ出すわよ。
だるいだるいと言いながらも、ちゃんと片付けをしているレミナを見て、思う。
この人もレン君の事を……?
もしそうなら清潔感とかちゃんとした方がいいのになー。顔つきはなんか美少女っぽいし。
けどそれを今日初めてあったような人に言われても、喧嘩になるだけか。それにライバル増えたら困るし。
ってライバルってなんのライバルよ。
はぁ……あたしほんと疲れてんのかな。
そんなことを思いながらも、ごみ捨てを続けていると、青色の物体? がムニュムニュと動き、あたしの足にまとわりついてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! な、なにこいつ!! 」
聖女の柄もなく、大絶叫してしまう。
レミナに対して女らしさがあーだこーだとか、とても言えないようなガチの大絶叫をかましてしまった。
脚をどんどん登ってきてるキモイやつを再度見て、倒れそうになる。
「も、もう無理……誰かこれ取ってぇ……」
「おースーラ。お前こんなとこに潜り込んでたのか」
ひょいっとキモイやつを抱き上げると、両手で抱えるレミナ。
「なによそいつ」
脚にまとわりつく感触がキモすぎた。
なんか脚がスースーするし。
「あ? コイツ? こいつはなんか実験してたら生まれたスライムだ。無害そうだったし、部屋にそのまま居らせてたんだが、床に散らばってた書類とかゴミとか廃棄物とかなんでも食いまくってたから、掃除機の名目で、我が家の仲間入りを果たしたんだ」
「えっ、じゃあさっきまでゴミに埋もれてた身体であたしの脚にまとわりついたっての? 」
「そういうことだな! 」
「きゅ〜! 」
「ぶっ潰すわよアンタ!? 聖女ちゃんの美麗な脚をなんだと思ってるの!? 」
「スライムにそんなことわかんねーだろ。てか俺様のゴミ屋敷に踏み入れてる時点で美麗もくそもない」
「それ自分で認めちゃうのね!? ゴミ屋敷って」
「えっ? だってそうだろ。廊下の足場がない、床すら見えない程ゴミやらが敷き詰まってるようなとこ、他にねーだろ」
「分かってるならなんでここまで放置するのよ……っと、これで綺麗になったんじゃない? どう? モノひとつ無いこの廊下をみて」
「俺様の家に床って存在したんだな」
「なにアホなこと言ってるのよ。床が存在するのは当然よ」
あの量のゴミは、路地裏にあったゴミ箱には到底収まりきる訳もなく、マーリンがゴミ箱を【複製】して、9個くらい増やしてようやく収まりがついた。
路地裏の行き止まりはゴミ箱が10個も鎮座している奇妙な空間へと早変わりしたのであった。
もう不要になったデカイ実験器具とかも廃棄したいとの要望だったので、次はゴミ袋を作り包んだ。
当然これもするのはマーリンである。
賢者の力をゴマステニフル活用するという、賢者の尊厳が失われかねない仕事が数時間に及び続いたのであった。
終わりを迎えた頃には、マーリンはというと。
「クレニちゃんが綺麗好きにこだわる理由が分かったわ……これじゃマーリン、お掃除賢者じゃないの……」
いじけていた。
そんな様子を見てレミナは笑う。
「美しくも聡明な賢者とか言われてたお前がお掃除賢者とかめっちゃ笑えるんだけど!! ぷぷぷっ」
「このゴミ箱とゴミ袋、全てまたレミナの家にぶち撒いてもいいんですか〜? 」
「はっ、やってみろよー! 」
レミナがそう言うと、マーリンは結んでいたゴミ袋をほどいて開けた状態で手に持つと、ひっくり返そうとする。
「ばか! おま、やめろ!! 」
「あら〜やってみろと言ったのはどこの誰ですかね〜? 」
「本気でやろうとするやつがいるか!! また数時間かけて掃除する羽目になるじゃねぇか」
「では何か言うことありませんか〜? 」
「すまねぇ」
「何がですか〜? 」
「はっ? 」
「何に対してすまねぇなんですか〜? 主語がないと分からないですよ〜」
このやりとりを聞いてて、あたしは思った。
マーリンのプライドがあの発言によって傷付いたのだろう。あんなにおっとり?してて優しい雰囲気のマーリンが、傍から見ても分かるくらいにブチギレてるんだもん。
……あたしも怒らせないように気をつけよ。
「ッッ……だから! あー言って悪かったって! 」
「あーってなんですか〜」
しかしレミナにもプライドがあるのか中々あの発言を言わない。
その後も数分言い争いは続いたが、最後にはレミナが折れて謝罪して終わったのだった。
「じゃあ一旦レミナのお家預かりますね」
そう言うと、手を向け、眩い光が出た後に先程まであったトビラが消えた。
「今のって来た時にやったやつとは違うの? 」
「そうですね〜来た時は魔力を照合するだけで、今やったのはここにあった空間そのものを保管する魔法よ」
「空間を保管するって、ほんとマーリンすごいね」
「どっかの誰かと違って直ぐ褒めてくれるクレニちゃんは可愛いわね」
「あ? 誰が可愛くないって? 」
「可愛くないなんて一言も言ってないですよ〜」
「こ、こいつ! 」
「はいはい、さっきのモニターでヘレクス領の大体の領地はわかったんだし、さっさと転移するわよ〜。クレニちゃんもレミナもレンちゃんに速く会いたいでしょ? 」
「うん! お願いね、マーリン! 」
「おいおいクレニ、貴重な貴重な転移石を上げたのは俺様だぞ? なんでマーリンにお願いするんだよ」
「どうせその転移石、レンちゃんから貰った物でしょう? ただで」
「えっ、そうなの!? てかただで貰ったの!? 」
「マーリン!! ネタばらししなくていいだろ!! ……ああ、まぁそうだぜ。研究ばっかで疲れるだろうしたまには息抜きで、これでも使ってリゾートにでも行けよってくれたやつだな。勿体なさすぎて使えてなかったが、まさかこんなところで使う日が来るとはな」
「レン君の趣旨とはズレてるけど、レミナも来てくれたら喜ぶんじゃない? 」
「あたりめーだろ!! 」
「は〜い、じゃあ使いますよ。クレニちゃんは初めて使うだろうから、転移酔いしちゃうかもしれないから気をつけてね〜」
マーリンが転移石を地面に落とす。
視界がぐわんとし、妙な気持ち悪さに目をつぶる。
「もうあけても大丈夫だよ〜」
マーリンのその言葉で、ようやくあたしはおそるおそる目を開くと、そこは木々が生い茂った森の中だった。
「え? ここどこ? 」
さっきまで薄暗い路地裏に居たはずなのに、今は森林の中。
「ちょっとズレちゃったみたいだけど、ヘレクス領の近くよ〜少し歩くことになるけど、もう少しでレンちゃんに会えるわよ」
「いやーワクワクするな! レン元気にやってっかな? 」
「どうでしょう。レンちゃんだから心配は要らないと思いますが……なにせヘレクス領ですからね。良い噂を聞いたことがありません。それに王都から今までに任命された領主は尽く逃げてますからね〜王都から、しかも元とはいえ王子だった人物が来ても、領民はいい気にはなりそうにないですし」
「レンが左遷されたってことは、リーナが当然レンについていってるだろうし、あいつが上手いことまとめあげてそうだけどな」
「一番安心してレンちゃんを任せられる人だものね」
二人が……いや、あのレミナが素直に認める人物ーーリーナ。
まだみぬ強敵にあたしはゲンナリするのであった。ライバル多すぎよ、ほんと。
歩くこと数十分。
なにやら看板をみつけた。
その看板には【ここからヘレクス領付近につき、要注意】と書かれていた。
目的地まであと少しだ!
もう少しでレン君に会える♪
ウッキウキなあたしはスキップしながら先頭を歩いていく。
もう少しで会える……それだけしか頭になかった。
誰も近寄らない、世界最高峰の危険領地付近。
そんな場所で油断してしまった。
死角からデスベアが現れて、その大きな手を振り上げ、爪であたしを切り裂こうとするーーー。
マーリンの魔法は間に合いそうにない。
人って死にそうな瞬間はスローモーションになるのかな……?
ゆっくりーーーゆっくりと爪が振り下ろされていく。
もう少しでレン君に会えたのに……。
あたしが浮かれたせいで、あたしの不注意で、もう永遠に会えなくなってしまう。
死ぬことも怖い。けどそれよりもレン君に会えないことがもっと悲しい。
「レン君とご飯……食べたかったなぁ……」
涙を流しながら、約束が叶わずに終わってしまうことを悔いる。
目を瞑って、終わりを悟る。
もし転生なんてものがあるなら、次は最初からレン君の傍にーーー
あれ……? いつまで経っても、身体が切り裂かれる感覚も、首を跳ねられる感覚も、身体を咀嚼される感覚も、何も起こらない。
もしかして一瞬で絶命しちゃったのかな、あたし……。
ズサァァァァァァ!!!
「俺と飯食べたいの? ……って、あんときの聖女ちゃん!?なんでこんな所に!? 」
「えっ……? レン……君? 」
ゆっくりと目を開けるとそこには、ずっと会いたかった人の姿があった。
「レン君!!!! レン君だぁ……!! 」
堪えきれず大粒の涙を零す。
そんなあたしをレン君は、ぎゅっと抱き締めてくれた。
それが命の危機から脱したからなのか、レン君と会えたからなのか、はたまた両方なのか分からない。けど、今はそんなことどうでもいい。
会いたい人にようやく会うことが出来た。
それだけであたしの心は満タンになるのだった。
「なんで泣いてんのかわかんねーけど、スッキリするまで存分に泣いていいぞ」
あたしの想いには気づいてないみたいで、少し悲しいけどお言葉に甘えて、涙が枯れてあたしが落ち着くまで、ずっと抱きついたまま背中をさすってくれたのだった。
またドアを開けた反動で、路地裏にゴミが落ちる。
「そこにゴミ箱あるんだし、廊下の捨ててったら? 重要なモノとか混ざっちゃってるなら仕方ないけど」
「全部ゴミだぞ、これ」
「じゃあ尚更捨てなさいよ! 」
「はいはい、捨てますよぉ」
とんでもない量だし、しょうがないからあたしも手伝ってあげてるんだけど……。
いかんせん汚い。仮にも女がよくここまでゴミを廊下に溜め込んで入れたなと。
衛生上死ぬでしょこれ。あたしだったら一日で逃げ出すわよ。
だるいだるいと言いながらも、ちゃんと片付けをしているレミナを見て、思う。
この人もレン君の事を……?
もしそうなら清潔感とかちゃんとした方がいいのになー。顔つきはなんか美少女っぽいし。
けどそれを今日初めてあったような人に言われても、喧嘩になるだけか。それにライバル増えたら困るし。
ってライバルってなんのライバルよ。
はぁ……あたしほんと疲れてんのかな。
そんなことを思いながらも、ごみ捨てを続けていると、青色の物体? がムニュムニュと動き、あたしの足にまとわりついてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! な、なにこいつ!! 」
聖女の柄もなく、大絶叫してしまう。
レミナに対して女らしさがあーだこーだとか、とても言えないようなガチの大絶叫をかましてしまった。
脚をどんどん登ってきてるキモイやつを再度見て、倒れそうになる。
「も、もう無理……誰かこれ取ってぇ……」
「おースーラ。お前こんなとこに潜り込んでたのか」
ひょいっとキモイやつを抱き上げると、両手で抱えるレミナ。
「なによそいつ」
脚にまとわりつく感触がキモすぎた。
なんか脚がスースーするし。
「あ? コイツ? こいつはなんか実験してたら生まれたスライムだ。無害そうだったし、部屋にそのまま居らせてたんだが、床に散らばってた書類とかゴミとか廃棄物とかなんでも食いまくってたから、掃除機の名目で、我が家の仲間入りを果たしたんだ」
「えっ、じゃあさっきまでゴミに埋もれてた身体であたしの脚にまとわりついたっての? 」
「そういうことだな! 」
「きゅ〜! 」
「ぶっ潰すわよアンタ!? 聖女ちゃんの美麗な脚をなんだと思ってるの!? 」
「スライムにそんなことわかんねーだろ。てか俺様のゴミ屋敷に踏み入れてる時点で美麗もくそもない」
「それ自分で認めちゃうのね!? ゴミ屋敷って」
「えっ? だってそうだろ。廊下の足場がない、床すら見えない程ゴミやらが敷き詰まってるようなとこ、他にねーだろ」
「分かってるならなんでここまで放置するのよ……っと、これで綺麗になったんじゃない? どう? モノひとつ無いこの廊下をみて」
「俺様の家に床って存在したんだな」
「なにアホなこと言ってるのよ。床が存在するのは当然よ」
あの量のゴミは、路地裏にあったゴミ箱には到底収まりきる訳もなく、マーリンがゴミ箱を【複製】して、9個くらい増やしてようやく収まりがついた。
路地裏の行き止まりはゴミ箱が10個も鎮座している奇妙な空間へと早変わりしたのであった。
もう不要になったデカイ実験器具とかも廃棄したいとの要望だったので、次はゴミ袋を作り包んだ。
当然これもするのはマーリンである。
賢者の力をゴマステニフル活用するという、賢者の尊厳が失われかねない仕事が数時間に及び続いたのであった。
終わりを迎えた頃には、マーリンはというと。
「クレニちゃんが綺麗好きにこだわる理由が分かったわ……これじゃマーリン、お掃除賢者じゃないの……」
いじけていた。
そんな様子を見てレミナは笑う。
「美しくも聡明な賢者とか言われてたお前がお掃除賢者とかめっちゃ笑えるんだけど!! ぷぷぷっ」
「このゴミ箱とゴミ袋、全てまたレミナの家にぶち撒いてもいいんですか〜? 」
「はっ、やってみろよー! 」
レミナがそう言うと、マーリンは結んでいたゴミ袋をほどいて開けた状態で手に持つと、ひっくり返そうとする。
「ばか! おま、やめろ!! 」
「あら〜やってみろと言ったのはどこの誰ですかね〜? 」
「本気でやろうとするやつがいるか!! また数時間かけて掃除する羽目になるじゃねぇか」
「では何か言うことありませんか〜? 」
「すまねぇ」
「何がですか〜? 」
「はっ? 」
「何に対してすまねぇなんですか〜? 主語がないと分からないですよ〜」
このやりとりを聞いてて、あたしは思った。
マーリンのプライドがあの発言によって傷付いたのだろう。あんなにおっとり?してて優しい雰囲気のマーリンが、傍から見ても分かるくらいにブチギレてるんだもん。
……あたしも怒らせないように気をつけよ。
「ッッ……だから! あー言って悪かったって! 」
「あーってなんですか〜」
しかしレミナにもプライドがあるのか中々あの発言を言わない。
その後も数分言い争いは続いたが、最後にはレミナが折れて謝罪して終わったのだった。
「じゃあ一旦レミナのお家預かりますね」
そう言うと、手を向け、眩い光が出た後に先程まであったトビラが消えた。
「今のって来た時にやったやつとは違うの? 」
「そうですね〜来た時は魔力を照合するだけで、今やったのはここにあった空間そのものを保管する魔法よ」
「空間を保管するって、ほんとマーリンすごいね」
「どっかの誰かと違って直ぐ褒めてくれるクレニちゃんは可愛いわね」
「あ? 誰が可愛くないって? 」
「可愛くないなんて一言も言ってないですよ〜」
「こ、こいつ! 」
「はいはい、さっきのモニターでヘレクス領の大体の領地はわかったんだし、さっさと転移するわよ〜。クレニちゃんもレミナもレンちゃんに速く会いたいでしょ? 」
「うん! お願いね、マーリン! 」
「おいおいクレニ、貴重な貴重な転移石を上げたのは俺様だぞ? なんでマーリンにお願いするんだよ」
「どうせその転移石、レンちゃんから貰った物でしょう? ただで」
「えっ、そうなの!? てかただで貰ったの!? 」
「マーリン!! ネタばらししなくていいだろ!! ……ああ、まぁそうだぜ。研究ばっかで疲れるだろうしたまには息抜きで、これでも使ってリゾートにでも行けよってくれたやつだな。勿体なさすぎて使えてなかったが、まさかこんなところで使う日が来るとはな」
「レン君の趣旨とはズレてるけど、レミナも来てくれたら喜ぶんじゃない? 」
「あたりめーだろ!! 」
「は〜い、じゃあ使いますよ。クレニちゃんは初めて使うだろうから、転移酔いしちゃうかもしれないから気をつけてね〜」
マーリンが転移石を地面に落とす。
視界がぐわんとし、妙な気持ち悪さに目をつぶる。
「もうあけても大丈夫だよ〜」
マーリンのその言葉で、ようやくあたしはおそるおそる目を開くと、そこは木々が生い茂った森の中だった。
「え? ここどこ? 」
さっきまで薄暗い路地裏に居たはずなのに、今は森林の中。
「ちょっとズレちゃったみたいだけど、ヘレクス領の近くよ〜少し歩くことになるけど、もう少しでレンちゃんに会えるわよ」
「いやーワクワクするな! レン元気にやってっかな? 」
「どうでしょう。レンちゃんだから心配は要らないと思いますが……なにせヘレクス領ですからね。良い噂を聞いたことがありません。それに王都から今までに任命された領主は尽く逃げてますからね〜王都から、しかも元とはいえ王子だった人物が来ても、領民はいい気にはなりそうにないですし」
「レンが左遷されたってことは、リーナが当然レンについていってるだろうし、あいつが上手いことまとめあげてそうだけどな」
「一番安心してレンちゃんを任せられる人だものね」
二人が……いや、あのレミナが素直に認める人物ーーリーナ。
まだみぬ強敵にあたしはゲンナリするのであった。ライバル多すぎよ、ほんと。
歩くこと数十分。
なにやら看板をみつけた。
その看板には【ここからヘレクス領付近につき、要注意】と書かれていた。
目的地まであと少しだ!
もう少しでレン君に会える♪
ウッキウキなあたしはスキップしながら先頭を歩いていく。
もう少しで会える……それだけしか頭になかった。
誰も近寄らない、世界最高峰の危険領地付近。
そんな場所で油断してしまった。
死角からデスベアが現れて、その大きな手を振り上げ、爪であたしを切り裂こうとするーーー。
マーリンの魔法は間に合いそうにない。
人って死にそうな瞬間はスローモーションになるのかな……?
ゆっくりーーーゆっくりと爪が振り下ろされていく。
もう少しでレン君に会えたのに……。
あたしが浮かれたせいで、あたしの不注意で、もう永遠に会えなくなってしまう。
死ぬことも怖い。けどそれよりもレン君に会えないことがもっと悲しい。
「レン君とご飯……食べたかったなぁ……」
涙を流しながら、約束が叶わずに終わってしまうことを悔いる。
目を瞑って、終わりを悟る。
もし転生なんてものがあるなら、次は最初からレン君の傍にーーー
あれ……? いつまで経っても、身体が切り裂かれる感覚も、首を跳ねられる感覚も、身体を咀嚼される感覚も、何も起こらない。
もしかして一瞬で絶命しちゃったのかな、あたし……。
ズサァァァァァァ!!!
「俺と飯食べたいの? ……って、あんときの聖女ちゃん!?なんでこんな所に!? 」
「えっ……? レン……君? 」
ゆっくりと目を開けるとそこには、ずっと会いたかった人の姿があった。
「レン君!!!! レン君だぁ……!! 」
堪えきれず大粒の涙を零す。
そんなあたしをレン君は、ぎゅっと抱き締めてくれた。
それが命の危機から脱したからなのか、レン君と会えたからなのか、はたまた両方なのか分からない。けど、今はそんなことどうでもいい。
会いたい人にようやく会うことが出来た。
それだけであたしの心は満タンになるのだった。
「なんで泣いてんのかわかんねーけど、スッキリするまで存分に泣いていいぞ」
あたしの想いには気づいてないみたいで、少し悲しいけどお言葉に甘えて、涙が枯れてあたしが落ち着くまで、ずっと抱きついたまま背中をさすってくれたのだった。