それから、一カ月が過ぎ、夏休みになった。
相変わらず、平日は、学校だけど、休日は、四人で過ごす日々で、楽しい。
今日は、四人で遊園地に行く。
四人での待ち合わせは、駅に八時だが、俺と咲斗は、七時に二人で待ち合わせて、駅に向かう。
俺は、咲斗と繋いでいる手を一瞬だけ、強く握る。
「楽しみだな」
「ああ」
咲斗も繋いでいる手を握り返した。
「お化け屋敷、行こうな」
「お前、苦手だろ?」
「湊斗が一緒だから、大丈夫だろ」
と咲斗は、笑う。
「ちゃんと、手、繋いでてくれよ」
「湊斗も俺から、離れるなよ」
「当たり前だ」
駅に近づくと、理斗達が待っていたのが見えた。
二人も俺達に気づいた。だけど、手を繋いでいる俺達を見て、来斗が理斗に何かを訴える。すると、理斗から来斗と手を繋いでいた。
きっと、来斗が俺達もやろう、とか言ったんだろうな。
「おはよ」
「おっはよ!」
「来斗、何か、良い事でもあったのか?」
「理斗が手、繋いでくれたんだ」
「良かったな」と笑う。
咲斗、二人の事、見えて無かったな。
理斗は、来斗と逆方向を向いて、俺達から、顔を隠している。照れてるな。
「理斗、頑張ったな」
「うるさい」
腕の隙間から見えた理斗の顔は、やっぱり、赤い。
「早く、行こうぜ!理斗!」
「湊斗も早く、行こう」
改札を抜け、満員の電車に乗る。
「うっ、狭い」と咲斗が唸る。
「我慢しろ」
「助けて、潰れる」
身長の低い来斗は、人の波に逆らえず、波の方向に、引っ張られていた。その度に理斗が繋いでいる手を引いて、来斗を引き寄せる。
「こっち来い」
「サンキュ、理斗」
「離れるなよ」
「ああ」
最終的に、理斗と来斗がドアの近くに立って、二人を守るように、俺と咲斗が通路側に立つ事になる。
揺られて二十分くらいすると、窓から目的地が見えてきた。
「見えた!」
「あと、電車、どれくらい?」
「二分」
電車から降りて、駅を出ると、目の前には、遊園地。
「来たぞー!」
「ジェットコースター!!」
と走りだそうとする咲斗と来斗の手を掴んで、俺と理斗は、静止する。
「待て」
「早い」
とりあえず、チケットを買って、中に入る。
「何処、行く?」
「もちろん、ジェットコースター!!」
「待て、どれに行くつもりだよ」
「あれだけど?」
と来斗が指差したのは、一番、高さがあるジェットコースターだった。
「いいな」
「賛成」
咲斗と理斗は、乗る気だ。
だけど、俺は、絶叫アトラクションは、嫌いだ。
お化け屋敷は、別だけど。
「湊斗、怖い?」と咲斗は、俺の顔を覗き込む。
咲斗は、俺とは、逆に、絶叫アトラクションは、好きだが、お化け屋敷が苦手だった。
「ああ、怖い」
「行くのやめるか?理斗達が行くなら、湊斗と一緒に居るけど」
咲斗の気持ちは、嬉しかったが、俺は、怖いよりも咲斗とアトラクションに乗りたいと思う方が勝っていた。
「いや、行く」と言ったものの、俺の手は、震えていた。その手を見た咲斗が俺の手を取る。
「それなら、隣で、俺が、ずっと、手、繋ぐ」
「良いのか?両手、上げられなくなるぞ」
すると、咲斗は、笑った。
「良いんだよ。湊斗が乗るなら、一緒に楽しみたいじゃん」
「咲斗...頼む」
「任せろ!」
咲斗が握ってくれたからか、手の震えは、止まっていた。そして、ジェットコースターの列に並んだ。
いざ、待っている間も怖かったが、その間も咲斗が手を繋いでくれていたから、安心できた。
俺達が乗る順番になって、ジェットコースターに乗り込む。
「あぁ、咲斗、絶対、手、離さないでくれよ」
「もちろんだ。隣にいるからな」
咲斗が俺の頭を撫でる。
「一番前だ!」
「そうだな」
一方、理斗と咲斗は、ハイテンションでジェットコースターに乗り込む。
ちなみに、二人のすぐ、後ろに俺達は、乗っている。
コースターに全員が乗り込むと、アナウンスが流れて、すぐに、動き出し、最初の上り坂をゆっくり、上り始める。
「それでは、いってらっしゃい!!」
「さ、咲斗!」
「大丈夫だ。俺は、ちゃんと、ここに居る!」
「怖かったら、とにかく、手を握るのと叫べ!」
「分かった。...咲斗、絶対、離さないでくれ」
俺は、必死に咲斗の手を握る。
「ああ。離さない」
咲斗は、俺が何かを言うと、大丈夫、離さないと言って、強く、手を握り返してくれる。
そして、ついに、最初の上り坂を上り切り、そこからは、勢いよく、滑り始める。
「うわぁぁ!!」
ただ、怖くて、目も開けられないし、気がつけば、落ち始めて、すぐに、咲斗に飛びついていた。
だけど、咲斗が繋いでいる手をまた、握り返してくれて、乗ってる間、ずっと、怖いけど、心の何処かに安心感があった。
「楽しかった!」
「だな。次、何処、行く?」
乗り終わると理斗達は、楽しめていたようで、次の行き先を決めようとしていた。
「二人共、一旦、別れて、周ろう。この後もジェットコースター、周るんだろ?」
ずっと、手を繋いでくれている咲斗は、俺の様子を見て、二人に、そう言ってくれた。
二人が楽しむには、一旦、俺達とは、別れた方が良いだろう。
「ああ。俺は、そのつもり。理斗は?」
「俺は、来斗に着いてく」
「よし、決まり。湊斗、無理するなよ」
「...ああ」
俺は、慣れないジェットコースターに酔っていた。