--
十分後。
「だまされた」
私と樹は同時に言葉を漏らす。
「弘くん、今日はどのサボテンにする?」
今年六十五歳になる石井さんの家に到着してから青山の目はきらきらしていて、呆然と立ち尽くす私たちに向かって勢いよく振り向く。
「なぁ、どれがいいと思う!?」
私は返す言葉がなさすぎて
「……そうだなぁ」
と愛想笑いでごまかす。青山はまたサボテンのほうを見た。
「何で青山あんなに楽しそうなの?」
私は口元に手を当てて、樹に小声で話しかける。
「青山ってサボテン好きだったんだな」
樹も私にこそっと話す。
「ここって何なの?」
「秘密のサボテン館とか?」
「どうしよう……何の興味もないんだけど」
「だな。サボテンなんてじっくり見ようと思わないし」
「か、かえろっか?」
来て早々に帰るなんて失礼なのは分かっている、でもしどろもどろに提案すると
「あ、いいね」
樹は案外あっさりと答えを決めた。
「青山、俺たちさ……」
樹が声を張り上げたところで、テンションが上がったまま青山はまたこちらに振り向いた。
「なぁ、石井さんが二人は初めてここに来てくれたってことでサボテンくれるって! 良かったな!」
私はどうしようかと樹を見る。
「しょうがない。菜穂、腹をくくろう」
「腹を、くくる?」
じわりと込み上げてきた笑いを堪える。サボテン一つに代償の大きい答えな気がした。
「せっかくだし見てみよう」
樹はサボテンに近づく。
「あ、ちょっと樹」
私は慌てて樹の後を追った。