「僕たちは元から仲が良いけれど、付き合ったら何か変わるのかな?」
「どうなんだろうな?」
「一緒にいると、もっと楽しくなるのかな?」
「あとは他の人と叶人が恋人になっているのを想像しなくてすむから、その辺りの辛さはなくなる、とかかな?」
「陽向くん、そんなこと考えていたんだ? 僕は陽向くん以外の人と恋人になるなんて考えられないよ。あと、恋人になったら、僕たちずっと一緒にいられるよね?」
「そうだな」
「おじいちゃんになっても、ずっと――」
幸せだなぁ、ずっと一緒にいられる想像をするだけで、本当に幸せだな――。おじいちゃんになっても陽向くんと一緒にチクチク羊毛フェルト制作作業をしたいな。今日みたいな、ぬい活デートも、たくさんしたいなぁ。
陽向くんと手を繋ぎながら歩いていると、陽向くんのスマホの音がなった。陽向くんは画面を確認する。
「叶人、これ見て?」
見せてくれた画面の中には、花畑を背景に手を繋ぎながら笑いあっている僕たちが写真に写っていた。
「誰が撮ってくれたの?」
「夏樹だわ」
さっき会った、陽向くんのクラスメイトの人か。いい写真だな。
「あの人、実は悪くない人なのかな……」
「いい人だよ。なんで悪い人だって思った?」
「だって、学校で、僕たちふたりの世界に入ってこようとしてきたから」
「誰かが俺らふたりの世界に入ってくるの、ちょっと慣れようか? でも、叶人がどうしても嫌なら、慣れなくてもいいけど……」
「僕、ちょっとだけ、頑張ってみる!」
羊毛フェルトの僕たちを見るたびに、こんなふうに仲良く手を繋ぎたいなぁって思っていた。夢が叶って、陽向くんと恋人にもなれて、幸せ――。
俺と叶人が恋人になってから、時間はあっという間に過ぎていった。
春が来て、俺たちは三年生になった。
クラス替えをして叶人と同じクラスになれたから、同じ教室で過ごせている日々。もちろん羊毛フェルトも変わらず一緒にやっている。
「陽向くんと同じクラスになれて、嬉しすぎるよ」
「良かったな!」
昼休み、羊毛をチクチクしながら叶人は言った。同じクラスになってから、毎日その言葉を叶人から聞いている。俺も、可愛い叶人を見れる時間が増えて、かなり嬉しい――。
「陽向くん、お互いにバイトが休みの日にお花見しようよ。羊毛フェルトの子たちと一緒にお花見して、桜と羊毛フェルトの子たちを撮るんだ!」
「いいな、叶人いつ休み? シフト見せて?」
「家に置いてきちゃった」
「じゃあバイト終わった後、見に行くかな?」
「明日休みだから、今日は泊まりかな?」
「そうだな、泊まるわ」
最近叶人は手芸屋でバイトを始めた。
叶人のお小遣いでは足りない羊毛フェルト代やぬい活代は俺が出していた。俺は叶人のためだから、全く気になっていなかったけれど、それが不平等だと、叶人はとても気になっていたらしい。
そして羊毛フェルトの俺と叶人の季節に合わせた衣装も、毛糸を編んだり布を縫ったりして最近作り始めたから、叶人の手芸にかける出費も増えた。ちなみに羊毛フェルトの俺らが元々着ていたTシャツとチュニックは、下着扱いに。
好きなものに囲まれて幸せらしいし、今のところは叶人のバイトの件で心配するところは何もない、と思う。
「お花見、いいなぁ。俺らも一緒に行こうかな?」
再び同じクラスになった夏樹が会話に入ってきた。
「一緒に行っても、いいよ」
今の発言はなんと、叶人の発言だ。
夏樹と仲良くなったからってのもあるけれど、夏樹は実は写真を撮るのが上手だ。叶人は夏樹から写真を綺麗に撮れる方法を教えてもらったり、俺と叶人のツーショットを撮ってもらったりもしていた。それもあって叶人は、夏樹にそんな発言ができるようになったんだと思う。
***
夜、叶人の家のドア前に来ると相変わらず、すぐにドアが開いた。
「陽向くん、お疲れ様!」
バイトが終わった後、笑顔の叶人に会えると、いつも疲れはどこかへ飛んでいく。まっすぐ二階の叶人の部屋に行き、羊毛フェルト作業テーブルの前に座った。
「そういえばね、前にワカサギ釣りに行った時の写真もプリントしたよ」
叶人が本棚からピンク色のアルバムを出した。そして俺にくっついて座り、中を開いて見せてくれた。
「この写真、やっぱりすごく綺麗だな」
「だね。この朝焼けを見た時は、すごく感動したよね!」
今ふたりで見ている写真は、隼人先輩と夏樹に誘われて、早朝からワカサギ釣りに行った時の写真。暗い時間からワカサギ釣りの会場である湖に行って、テントを立ててワカサギを釣り始めた。ちょうど明るくなりかける時間に叶人とふたりでトイレへ行き、テントに戻るタイミングに偶然、その光景に出会った。そして急いで写真を撮った。
積もった雪とピンク色の朝焼け。仲良く手を繋いで朝焼けを見ている、羊毛フェルトの俺と叶人の後ろ姿。羊毛フェルトのふたりは、叶人が毛糸で編んだお揃いのアイボリー色したセーターを着ていた。
その時に叶人は、いつもよりも多い枚数の写真を撮っていた。俺もその場で、羊毛フェルトの俺たちを撮っている叶人の姿と朝焼けを何枚も撮った。
実はその叶人が写った写真をスマホの待受画面にしている。白いスキーウェアのフードをかぶり、顔がフードのモコモコに囲まれていて、そんな叶人も可愛い。
叶人はぬい活のアルバムを一番最初のページに戻し、パラパラとめくって進めていく。
最初のページは、初めてぬい活デートをして叶人と恋人になった思い出深い場所の、カラフルな花畑。その次は、カラフルな花畑に決めた後に、他の候補だった二箇所も行きたいねって話になって、結局ラベンダー畑とひまわり畑にも行った。それから海や湖の、水がある風景の場所へも行って。季節が変わり、秋には紅葉が綺麗な公園、冬はスキー場。そしてさっき見た、冬は寒さで湖の上辺りが凍り、その上に雪が積もるワカサギ釣りの会場。デート以外にも、公園の遊具と撮ったり、庭でかまくらを作ってその中に羊毛フェルトのキャラを並べて撮ったりした写真もある。
羊毛フェルトの俺らは、全部の写真の中で変わらずに手を繋ぎ、仲良く寄り添って微笑んでいた。変わったのは服装ぐらいだ。
俺は、勉強机の上にある羊毛フェルトの俺たちに視線を向ける。彼らは今、春らしく柔らかいピンク色の花柄ワンピースを着て、写真と同じように仲良く手を繋ぎ微笑んでいる。
叶人に視線を向けると目が合う。
「こうしてみると、あちこち行ってるね。叶人とぬい活デート、たくさんしたな……」
「ね、いつも付き合ってくれて、ありがとう!」
「こっちこそ。叶人とのデートはいつも楽しいもん」
叶人と微笑み合うと、ふわっと癒される気持ちになった。いつもいつも叶人には癒されている。
楽しい時間は早送りされているみたいで、叶人と過ごす時間は、本当にいつもあっという間に過ぎていく。
眠る時間が来た。
いや、来てしまったと言うべきか。
「叶人!」
「陽向くん!」
名前を呼び両腕を広げると、叶人は俺の腕の中にくる。そうしてぎゅっとハグして、お互いの温かさやぬくもりを感じて、ドキドキもして。一緒に幸せな気持ちになる。それが最近の日課になっていた。しばらくぎゅっとした後、叶人はベット、俺は床に敷かれた布団にもぐりこむ。
「叶人、おやすみ」
「陽向くん、おやすみなさい」
俺は布団の中で、さっき見たアルバムの写真を走馬灯のように思い出した。
次は桜の写真か――。そしてその次はまた花畑かな? その時には叶人と恋人になってから、一年が経つ。
叶人を恋の人として意識したのはハグをしてからだったけれど、実際俺は、いつから叶人に恋していたんだろうか。 小さい頃から叶人が大切で、大好きなのは変わりなくて――。しばらく考えていると、小学生ぐらいの頃、親に怒られてひとり家の前で落ち込んでいた時に叶人がそばに来て、全力の笑顔で俺を励ましてくれている姿が頭の中に浮かんできた。あの時、初めて叶人がキラキラしていたような――。記憶は定かではないけれど、あの時からすでに俺は叶人に恋をしていたのかもしれない。
叶人の寝顔を見つめた。
叶人を愛おしく思う――。
俺も叶人の方に顔を向けて、目を閉じた。
目を閉じても、目の前に叶人がいる気配がするだけでもう、ふわっと癒しに包まれた気分になる。
「叶人、いつもありがとう」
俺は、叶人を起こさないように、すごく小さい声でそう言った。
これからも叶人と一緒に羊毛フェルト制作作業をして、叶人の楽しそうな姿をたくさん見られますように。
これからも叶人とぬい活して、羊毛フェルトのキャラを撮っている幸せそうな叶人の姿をたくさん撮れますように。
これからもずっと、叶人と笑いあって幸せに過ごせますように。
これからもずっと叶人と――……☆。.:*・゜
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