その後は屋台のたこ焼きや焼きそばなどを食べてお腹を満たし、祭りの雰囲気を楽しんでいた。
詩織は常に響の隣をキープしている。
ひたすら話をする詩織に対し、響は受け答えしている。
奏はその様子を後ろから見ていることしか出来ない。
(自分の好きな人と仲が良い人に対して嫌がらせしちゃう詩織ちゃんの気持ち……少し分かる。でも、分かりたくなった……。こんな醜い感情……)
奏はうつむき、ギュッと拳を握る。
「大月さん? 本当に大丈夫?」
隣にいた律が心配そうな表情を向けてくる。
「あ、うん」
奏はハッとした。
(さっきお祭りを楽しもうって決めたところなのに)
奏は内心ため息をつき、前にいる響に目を向ける。
(恋って……難しい……)
夏は日が長い。しかし段々と夜の気配が近付いている。
屋台の灯りも光り始め、お祭りの夜の空気感が流れている。
「何か人増えてきてるな」
風雅が言った通り、人の数も多くなっていた。
「確かにそうですね。これから花火大会始まりますし」
律は周囲を見渡し苦笑した。
「じゃあそろそろ花火見る場所決める?」
響がそう提案した。
「身動き取れなさそう……」
彩歌は鬱陶しそうな表情である。
奏達六人は完全に人混みの中なのだ。
その時、急に人混みが動き出した。
「えっ! ちょっと!」
「彩歌!」
「かなちゃん、危ない!」
奏は人混みに流されそうになった彩歌の手を取ろうとするが、転びそうになり響に支えられる。
「彩歌ちゃん、手出して!」
風雅は人混みに流されつつある彩歌の手を握る。
しかし、彩歌と風雅は人の濁流に流されてしまった。
「朝比奈先輩! 天沢さん!」
律は慌てて二人を探そうとするものの、人が多過ぎて見当たらない。
「かなちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
響の優しげな声。転びそうになったところを支えられて、体は密着している。奏は少しだけドキリとしてしまった。
「うん、ありがとう、響くん」
奏の顔は赤くなり、まともに響を見ることが出来ない。敬語も抜けていた。
「あ、ごめん! 咄嗟のこととはいえ……!」
響も体が密着していることに気付き、顔を真っ赤にしていた。
奏はゆっくりと姿勢を立て直す。
「朝比奈先輩と彩歌ちゃん、完全にはぐれましたね。私連絡してみます」
詩織はスマートフォンを取り出した。しかし、再び人混みが流れ出してしまう。
「きゃっ」
詩織は思わず響の服の袖をつかむ。すると、響も詩織と一緒に人の濁流に流されてしまった。
「響くん……!」
奏は響に手を伸ばそうとするが、律に止められた。
「危ないよ。大月さんも流されるから。とりあえず、この人混みから抜け出そう」
律に言われるがまま、奏は人混みを抜けるしかなかった。
こうして、奏達はすっかりはぐれてしまった。
「大月さん、大丈夫?」
人混みから抜け、丁度ベンチが空いていたので奏はそこに座っていた。
律が屋台で飲み物を買ってきてくれたので、奏はペットボトル受け取る。
「ありがとう、お金出すよ」
「いや、このくらいは俺が払うよ。だから気にしないで」
「……ありがとう」
奏は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「それにしても、見事に人混みにやられたね。もうすぐ花火大会始まるけど」
響、彩歌、風雅、詩織の四人と人混みの不可抗力ではぐれてしまった奏と律。
「連絡取ってみますね」
奏はスマートフォンを取り出し、響の連絡を見つけて手が止まる。
(響先輩、詩織ちゃんと一緒にいるのかな……?)
人混みの濁流に飲み込まれた時、詩織が響の服の袖をつかんだことを思い出す。
考えるだけで、胸がチクリと痛んだ。
「小日向先輩のこと?」
「え……?」
律からそう言われ、奏はスマートフォンの画面から律に目を向ける。
「今日の大月さん、ちょっと辛そうというか、何か複雑そうな表情ばっかだよ」
律が困ったように目を細めている。
「そう……なんだ。何かごめんね」
奏は視線を律から地面に落とした。ほんの少しだけ萎んだ声になってしまう。
「いや、気にしないで。だけど……俺なら大月さんにそんな表情させないよ。もっと笑顔に出来ると思う」
律の声は真剣で、真っ直ぐだった。
「え……?」
思わず視線を上げ、律を見る奏。律は爽やかな表情だった。その目は優しげで真っ直ぐ奏を見ていた。
「それってどういう」
どういう意味かと聞こうとした瞬間、パッと夜空が明るく光り、ドーンと音が鳴り響く。
花火大会が始まったのだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(花火大会、始まっちゃったか。まだかなちゃんと合流出来てないのに……)
響は明るくカラフルな花が咲く夜空とは裏腹に、気持ちは少し沈んでいた。
「花火大会、始まっちゃいましたね」
隣にいた詩織がクスッと笑い、夜空を見上げている。
人混みに流された後、響は詩織と一緒に人の少ない場所へ抜けていた。
「とにかく、かなちゃん達と連絡とって合流しないと」
響はスマートフォンを取り出そうとする。
しかし、詩織にその手を止められてしまう。
「内海?」
突然のことに驚く響。
「もう少しだけ……二人でいたいです……」
うつむきながら響の服の袖をつかむ詩織。
ドーンという音と共に、明るい光が詩織を照らす。
「え……?」
響は戸惑いを隠せなかった。
「でも、早くかなちゃん達と合流しないと……」
響の中に焦りがあった。
彩歌と風雅がはぐれ、響と詩織も人混みに流されて以降、もしかしたら奏は律と一緒にいるかもしれない。
律の本心は分からないが、響にとって律の存在は脅威だった。
「私、小日向先輩が好きなんです。中学の時からずっと。だから……」
「え……!?」
再びパッと夜空が明るく光り、ドーンと音が鳴る。
詩織の言葉に、響は目を大きく見開いた。
必死で真っ直ぐな目を詩織から向けられる響。
(内海が俺を……? 全然知らなかった。でも……)
響の心を占めているのは奏の存在である。思い浮かぶのは、奏の笑顔やフルートを演奏する姿。
「……ごめん、内海。その気持ちには答えられない」
響は少し申し訳なさそうな表情である。
「……ですよね。小日向先輩は、奏ちゃんのことしか見てませんからね」
詩織は悲しそうに笑い、響から目をそらした。
「本当にごめん。というか、内海にまで俺の気持ちバレてたんだ」
響はため息をついて苦笑した。
「そりゃあ、ずっと小日向先輩のこと見てましたから。正直、奏ちゃんが羨ましくて仕方ないです」
やや拗ねたような口調の詩織。
「……だからかなちゃんのメトロノームとかを壊したの?」
「はい……」
「そっか……」
響は優しげだが困ったような表情になった、
「ある意味俺のせいでかなちゃんは……」
「やっぱり奏ちゃんのことばっかり」
盛大なため息をつく詩織。
「でも、勝ち目がないことは分かりました。小日向先輩、困らせてしまってすみません。私、もう帰ります」
詩織は少しだけ吹っ切れたような表情になり、響に背を向けて歩き始めたのだった。
ドーンと花火の音が鳴り響くだけである。
「ごめんな、内海」
詩織の背中にそう声をかけるしか出来ない響だった。
そして自身のスマートフォンを取り出す。
奏から連絡が来ていた。どうやら響がいる場所から少し歩いた西の広場にいるらしい。彩歌と風雅はかなり遠くまで流されて合流が難しそうとのことだ。
響は奏がいる西の広場に急いで向かった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
程なくして、響はベンチに座って花火を見ている奏と律を見つけた。
「かなちゃん、律」
響がそう呼ぶと、奏と律は少し驚いたように響に目を向けた。
「響先輩……。詩織ちゃんはどうしたのですか? 先輩と一緒では?」
奏は響と一緒にいるはずの詩織がいないことを疑問に思ったようだ。
「ああ、えっと……用事を思い出したからって先に帰った」
響は詩織から告白されたことをそう誤魔化した。
「そう……ですか」
奏は少しホッとしたような感じが混ざった複雑そうな表情だった。
「先輩はどこにいたんです?」
何を考えているのか分からないが爽やかな表情の律。
「俺はここから東に行ったあたり」
「そうでしたか」
響の答えを聞くと、律はスマートフォンを取り出した。
律のスマートフォンには、詩織から連絡が入っていた。
《小日向先輩にフラれた。先輩、奏ちゃんのことしか頭にないよ》
律は困ったように苦笑し、スマートフォンをしまう。そして今度は箱に入ったキャラメルを取り出した。
「大月さん、そろそろ小腹空かない? 良かったらまたどう?」
律は奏にキャラメルを一つ渡す。
「ありがとう、浜須賀くん。何か今日は浜須賀くんにもらってばかりだね」
奏はキャラメルを口に入れ、少しだけ表情を綻ばせた。
「いや、気にしないで」
律は爽やかな笑みを浮かべていた。
(律、かなちゃんに何をしたんだろう?)
響の中に焦りと不安が広がる。
そんな響を見透かすかのように、律は挑発的な目を向けていた。
(律、やっぱりかなちゃんのこと好きなんだな……)
疑念が確信に変わった。
(……負けたくないな)
響の胸に、炎が灯る。夜空に打ち上がる花火に負けないくらいの強さだ。
(でも、かなちゃんは俺のことをどう思ってるんだろうか? 律のことが好きだったりするのかな……?)
少しだけ不安も生じていた。
そんな響の心とは裏腹に、夜空はパッと光り、美しく力強いカラフルな花が咲く。
花火大会はクライマックスになっていた。
響にとっては少しだけほろ苦い夏の思い出となるのであった。
詩織は常に響の隣をキープしている。
ひたすら話をする詩織に対し、響は受け答えしている。
奏はその様子を後ろから見ていることしか出来ない。
(自分の好きな人と仲が良い人に対して嫌がらせしちゃう詩織ちゃんの気持ち……少し分かる。でも、分かりたくなった……。こんな醜い感情……)
奏はうつむき、ギュッと拳を握る。
「大月さん? 本当に大丈夫?」
隣にいた律が心配そうな表情を向けてくる。
「あ、うん」
奏はハッとした。
(さっきお祭りを楽しもうって決めたところなのに)
奏は内心ため息をつき、前にいる響に目を向ける。
(恋って……難しい……)
夏は日が長い。しかし段々と夜の気配が近付いている。
屋台の灯りも光り始め、お祭りの夜の空気感が流れている。
「何か人増えてきてるな」
風雅が言った通り、人の数も多くなっていた。
「確かにそうですね。これから花火大会始まりますし」
律は周囲を見渡し苦笑した。
「じゃあそろそろ花火見る場所決める?」
響がそう提案した。
「身動き取れなさそう……」
彩歌は鬱陶しそうな表情である。
奏達六人は完全に人混みの中なのだ。
その時、急に人混みが動き出した。
「えっ! ちょっと!」
「彩歌!」
「かなちゃん、危ない!」
奏は人混みに流されそうになった彩歌の手を取ろうとするが、転びそうになり響に支えられる。
「彩歌ちゃん、手出して!」
風雅は人混みに流されつつある彩歌の手を握る。
しかし、彩歌と風雅は人の濁流に流されてしまった。
「朝比奈先輩! 天沢さん!」
律は慌てて二人を探そうとするものの、人が多過ぎて見当たらない。
「かなちゃん、大丈夫? 怪我はない?」
響の優しげな声。転びそうになったところを支えられて、体は密着している。奏は少しだけドキリとしてしまった。
「うん、ありがとう、響くん」
奏の顔は赤くなり、まともに響を見ることが出来ない。敬語も抜けていた。
「あ、ごめん! 咄嗟のこととはいえ……!」
響も体が密着していることに気付き、顔を真っ赤にしていた。
奏はゆっくりと姿勢を立て直す。
「朝比奈先輩と彩歌ちゃん、完全にはぐれましたね。私連絡してみます」
詩織はスマートフォンを取り出した。しかし、再び人混みが流れ出してしまう。
「きゃっ」
詩織は思わず響の服の袖をつかむ。すると、響も詩織と一緒に人の濁流に流されてしまった。
「響くん……!」
奏は響に手を伸ばそうとするが、律に止められた。
「危ないよ。大月さんも流されるから。とりあえず、この人混みから抜け出そう」
律に言われるがまま、奏は人混みを抜けるしかなかった。
こうして、奏達はすっかりはぐれてしまった。
「大月さん、大丈夫?」
人混みから抜け、丁度ベンチが空いていたので奏はそこに座っていた。
律が屋台で飲み物を買ってきてくれたので、奏はペットボトル受け取る。
「ありがとう、お金出すよ」
「いや、このくらいは俺が払うよ。だから気にしないで」
「……ありがとう」
奏は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「それにしても、見事に人混みにやられたね。もうすぐ花火大会始まるけど」
響、彩歌、風雅、詩織の四人と人混みの不可抗力ではぐれてしまった奏と律。
「連絡取ってみますね」
奏はスマートフォンを取り出し、響の連絡を見つけて手が止まる。
(響先輩、詩織ちゃんと一緒にいるのかな……?)
人混みの濁流に飲み込まれた時、詩織が響の服の袖をつかんだことを思い出す。
考えるだけで、胸がチクリと痛んだ。
「小日向先輩のこと?」
「え……?」
律からそう言われ、奏はスマートフォンの画面から律に目を向ける。
「今日の大月さん、ちょっと辛そうというか、何か複雑そうな表情ばっかだよ」
律が困ったように目を細めている。
「そう……なんだ。何かごめんね」
奏は視線を律から地面に落とした。ほんの少しだけ萎んだ声になってしまう。
「いや、気にしないで。だけど……俺なら大月さんにそんな表情させないよ。もっと笑顔に出来ると思う」
律の声は真剣で、真っ直ぐだった。
「え……?」
思わず視線を上げ、律を見る奏。律は爽やかな表情だった。その目は優しげで真っ直ぐ奏を見ていた。
「それってどういう」
どういう意味かと聞こうとした瞬間、パッと夜空が明るく光り、ドーンと音が鳴り響く。
花火大会が始まったのだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(花火大会、始まっちゃったか。まだかなちゃんと合流出来てないのに……)
響は明るくカラフルな花が咲く夜空とは裏腹に、気持ちは少し沈んでいた。
「花火大会、始まっちゃいましたね」
隣にいた詩織がクスッと笑い、夜空を見上げている。
人混みに流された後、響は詩織と一緒に人の少ない場所へ抜けていた。
「とにかく、かなちゃん達と連絡とって合流しないと」
響はスマートフォンを取り出そうとする。
しかし、詩織にその手を止められてしまう。
「内海?」
突然のことに驚く響。
「もう少しだけ……二人でいたいです……」
うつむきながら響の服の袖をつかむ詩織。
ドーンという音と共に、明るい光が詩織を照らす。
「え……?」
響は戸惑いを隠せなかった。
「でも、早くかなちゃん達と合流しないと……」
響の中に焦りがあった。
彩歌と風雅がはぐれ、響と詩織も人混みに流されて以降、もしかしたら奏は律と一緒にいるかもしれない。
律の本心は分からないが、響にとって律の存在は脅威だった。
「私、小日向先輩が好きなんです。中学の時からずっと。だから……」
「え……!?」
再びパッと夜空が明るく光り、ドーンと音が鳴る。
詩織の言葉に、響は目を大きく見開いた。
必死で真っ直ぐな目を詩織から向けられる響。
(内海が俺を……? 全然知らなかった。でも……)
響の心を占めているのは奏の存在である。思い浮かぶのは、奏の笑顔やフルートを演奏する姿。
「……ごめん、内海。その気持ちには答えられない」
響は少し申し訳なさそうな表情である。
「……ですよね。小日向先輩は、奏ちゃんのことしか見てませんからね」
詩織は悲しそうに笑い、響から目をそらした。
「本当にごめん。というか、内海にまで俺の気持ちバレてたんだ」
響はため息をついて苦笑した。
「そりゃあ、ずっと小日向先輩のこと見てましたから。正直、奏ちゃんが羨ましくて仕方ないです」
やや拗ねたような口調の詩織。
「……だからかなちゃんのメトロノームとかを壊したの?」
「はい……」
「そっか……」
響は優しげだが困ったような表情になった、
「ある意味俺のせいでかなちゃんは……」
「やっぱり奏ちゃんのことばっかり」
盛大なため息をつく詩織。
「でも、勝ち目がないことは分かりました。小日向先輩、困らせてしまってすみません。私、もう帰ります」
詩織は少しだけ吹っ切れたような表情になり、響に背を向けて歩き始めたのだった。
ドーンと花火の音が鳴り響くだけである。
「ごめんな、内海」
詩織の背中にそう声をかけるしか出来ない響だった。
そして自身のスマートフォンを取り出す。
奏から連絡が来ていた。どうやら響がいる場所から少し歩いた西の広場にいるらしい。彩歌と風雅はかなり遠くまで流されて合流が難しそうとのことだ。
響は奏がいる西の広場に急いで向かった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
程なくして、響はベンチに座って花火を見ている奏と律を見つけた。
「かなちゃん、律」
響がそう呼ぶと、奏と律は少し驚いたように響に目を向けた。
「響先輩……。詩織ちゃんはどうしたのですか? 先輩と一緒では?」
奏は響と一緒にいるはずの詩織がいないことを疑問に思ったようだ。
「ああ、えっと……用事を思い出したからって先に帰った」
響は詩織から告白されたことをそう誤魔化した。
「そう……ですか」
奏は少しホッとしたような感じが混ざった複雑そうな表情だった。
「先輩はどこにいたんです?」
何を考えているのか分からないが爽やかな表情の律。
「俺はここから東に行ったあたり」
「そうでしたか」
響の答えを聞くと、律はスマートフォンを取り出した。
律のスマートフォンには、詩織から連絡が入っていた。
《小日向先輩にフラれた。先輩、奏ちゃんのことしか頭にないよ》
律は困ったように苦笑し、スマートフォンをしまう。そして今度は箱に入ったキャラメルを取り出した。
「大月さん、そろそろ小腹空かない? 良かったらまたどう?」
律は奏にキャラメルを一つ渡す。
「ありがとう、浜須賀くん。何か今日は浜須賀くんにもらってばかりだね」
奏はキャラメルを口に入れ、少しだけ表情を綻ばせた。
「いや、気にしないで」
律は爽やかな笑みを浮かべていた。
(律、かなちゃんに何をしたんだろう?)
響の中に焦りと不安が広がる。
そんな響を見透かすかのように、律は挑発的な目を向けていた。
(律、やっぱりかなちゃんのこと好きなんだな……)
疑念が確信に変わった。
(……負けたくないな)
響の胸に、炎が灯る。夜空に打ち上がる花火に負けないくらいの強さだ。
(でも、かなちゃんは俺のことをどう思ってるんだろうか? 律のことが好きだったりするのかな……?)
少しだけ不安も生じていた。
そんな響の心とは裏腹に、夜空はパッと光り、美しく力強いカラフルな花が咲く。
花火大会はクライマックスになっていた。
響にとっては少しだけほろ苦い夏の思い出となるのであった。