『【プロット】ぼんボンぼーん! 勇者の遺骨、拾います』

①物語の設定・主要キャラクターの説明
【世界観】

 これは勇者の遺骨を故郷に還す物語だ。

 昔、魔王討伐のために勇者が招集された。勇者の剣を地面から引き抜くことができた者は、女性であろうが子供であろうが勇者とされた。魔王を滅ぼすか人類が滅びるか。勇者招集を拒むことはできず、冒険に駆り出された。

 招集された勇者は1万人以上。パーティーメンバーを合わせると魔王討伐に赴いた人数はその5倍にも及ぶ。
 魔王討伐を終え、帰還した勇者パーティは約3割。残りの7割は未帰還者で生死不明だ。魔物と戦い、ダンジョンで志半ばで倒れてしまった者もいただろう。

 英雄として讃えられ、立派な墓や銅像が建てられたり、吟遊詩人に多く語り継がれるのは、魔王を倒した勇者や無事帰還できた者達。
魔王を討伐して63年経つが、未帰還の勇者の遺骨は、未だ危険区域に数多く取り残されている。


【登場人物】
名前:ラウ=シマ

年齢:実年齢26歳、戸籍年齢86歳

性別:男

種族:人間

見た目:無精髭と短髪の男。薄汚れた白いマントを着用している。

口ぐせ、口調
「あぁ。酒が飲みてぇ」
「誰がじじいだ。せめておじさんだろクソガキ」
「なんだこれ。うんまいなぁ。こんなうまいモン食ったのは初めてだ」
「心配すんな。勇者ならここにいる」

 説明
魔王討伐に招集された元勇者の一人。勇者の遺骨返還事業に従事している。遺骨回収の仕事を始めて3年目になる。
深海のダンジョンで海王リュグウと壮絶な戦いを終え、地上に戻ると60年の月日が経っていた過去を持つ。そのため実年齢と戸籍年齢が離れている。

ラウが深海のダンジョンを攻略している間に、魔王は討伐されていた。同期の勇者はこの世にいない者が多い。
 色々な知識が魔王討伐の頃で止まっていることが多い。新しい魔法や技術を見ると感動する。現代世界に適応しつつあるが、不器用が災いして新しい機械などはほぼ使えない。


名前:グロー

年齢:不明。いつ生まれたのか自分でもわかっていない。

性別:不明

種族:影の魔物

見た目:薄っぺらい人影に2本の角を生やしたような姿をしている。普段はラウのマントの影に潜んでいる。

口ぐせ、口調
「お嬢ちゃん、魔物を見たことがないのかい」
「目の前に宝箱があるというのに、お主に脳みそは入っておらんのか」
「タダ働きはゴメンだの。行きたければ勝手に行け。って影が繋がっているんだった!」

説明:
 ラウと契約している影の魔物。深海のダンジョンから解放した対価として、一緒に遺骨収集の仕事をしている。ラウと命を共有しているので、逃げることはできない。影を伸ばしたり移動できたりと便利な能力を持っている。

 遺骨の探索、解析はグローの能力を使っている。収集癖があり、欲しい物は影の中に収納している。魔物ゆえ、人の心がわからないこともある。生きている物は死んだら終わりなのに、遺骨を収集するラウの気持ちはあまり理解していない。ラウに対して仕返しすることがある。


名前:ミウ=トルター

年齢:11歳

性別:女

種族:人間

見た目:髪にリボンをつけた女の子。

説明:
 ホヨタ食堂をひとりで切り盛りしている。ちょっと反抗期。生態情報を得る目的でグローにほっぺを舐められた。魔物は見たことがない。ひいおばあちゃんが求めた勇者の亡骸を探索するために、ラウ達についていく。

 勇者には思い入れがない。生まれて物心がついた頃には、すでに魔王は討伐されていて平和だったから。冷たいと思われるかもしれないけど、今勇者の遺骨を渡されても困る、と最初は思っていた。
 1話
 洞窟型のダンジョンで、ラウは魔獣の集団と戦っていた。グローが宝箱と金貨の山を見つけて影を伸ばす。ラウは足元から伸びた影を踏みつける。グローはすっ転んだ。

「違う。それじゃない」
「目の前にお宝があるというのに、お主に脳みそは入っておらんのか」

 グローは文句を漏らしつつ、洞窟内に影を広げた。一部の地面が青白く光る。ラウは魔獣の集団を撃退した後、青白く光る部分を素手で掘った。
 出てきたのは今にも脆く崩れそうな骨のカケラ。グローに鑑定させる。該当者……勇者と判明した。ラウは目を閉じ手を合わせる。

「やれやれ。一仕事終わったのう」
 グローはラウのマントの影に入っていった。 

 ベハマ村。
ラウとグローが喋りながら道を進む。

「勇者を納骨したというのにすぐ次の依頼に向かうとは。国家の犬め。お主の頭には仕事しかないのか。」
 お宝を持って帰れば当分は遊んで暮らせるというのに……というグローのグチを、ラウは完全に無視。きょろきょろと辺りを見まわしながら歩く。一軒の食堂の前で止まった。

 ホヨタ食堂。ラウ達が入ると女の子が元気な声で接客してくれた。名札には『ミウ=トルター』と書かれている。
「1名様ですか」
「2名様だ。ワレを忘れてちゃいかん」
「え、えっ?」
「お嬢ちゃん。喋る魔物を見たのは初めてかの。申し遅れた。ワレの名はグロー。影を操る者なり。恐い者ではないぞ」

 グローがミウに影を伸ばし、頬を舐める。
「きゃあああっ。ほっぺ舐められた」
「ありゃ。おかしいのう。犬などの動物は、信頼を得るために顔を舐めると聞いたんだが」
 グローの口を、ラウが無理やり閉じたが遅かった。店内で食事をしていた守衛たちに、ラウは取り押さえられた。

「ラウ=シマ。86歳。元勇者だそうだ」
 守衛の一人がミウに説明する。持っていた身分証と勇者の剣は、間違いなく本物だった。グローがニタニタ笑う。
 ミウの疑念は晴れない。身分証の年齢は86歳なのに、ラウの姿は20代にしか見えないし、ラウ=シマなんて勇者は知らない。学校の教科書に載っていた勇者は別の人だ。

 守衛達は謝罪してラウの縄を外す。ラウは仏頂面のままミウに聞いた。
「ヨシュロウ=ミシマという勇者の遺骨探索依頼で来た。ホタル=トルターさんはいるか?」
「ひいばあちゃん、ホタルばあちゃんは……」

ミウが案内したのは、食堂から少し離れた墓地だった。ホタルは1年前に亡くなっていた。ホタルの墓前でラウは歯を食いしばりながら手を合わせた。
「明日、遺骨探索に出る。ヨシュロウは必ず還す」


 夜、月明かりが入るホヨタ食堂。ミウは机に突っ伏しながらホタルの遺影を見ていた。グローが声をかける。
「あの仕事バカは寝ておって、ワレはヒマだ」
グローが食堂の壁で犬の影絵を披露すると、ミウの表情は多少明るくなった。ミウはグローに心境を吐露する。

「ホタルばあちゃんは亡くなる前、ヨシュロウさん、ヨシュロウさんって呟いてた。ひいじいちゃんの名前はタロウなのに、なんでだろ。ウワキでもしてたのかな。ホタルばあちゃん、何も説明してくれなかった」
 グローは影絵をしまい、ホタルの遺影を少しだけ見る。そしてミウに言った。

「お嬢ちゃん、知りたいのかい。なら――」
 2話
 翌朝。ラウは予定通りベハマ村を出発した。ラウはグローに目的地を説明する。
「今回の探索場所はAランクの危険区にあるダンジョン『メオの城』だ。ヨシュロウはそこで亡くなった。魔王が消滅しても、メオの城周辺の魔物は活動している。戦闘しながら探索することになるだろう。グロー、聞いているのか?」
 
 グローの影がもぞもぞ動いている。ラウが引っ張り上げる。ミウだった。

「ミウがどうしても付いていきたいと言ったからのう。ワレと契約したったわ」
 ヨシュロウを見つけるまで、グローとミウは離れられない。ラウは契約破棄させようとグローを締め上げたが最後には諦めた。
「いいだろう。連れて行ってやる。だが絶対にグローの影から出るな。それが条件だ」


 2人と1匹の旅が始まった。メオの塔を目指して進む道中、魔物の群れに襲われたが、ラウが勇者の剣を振るって撃退した。強い。ミウは驚くもグローにとっては当たり前の光景だった。
ラウは本当に勇者なのかもしれない。ミウは戦いを身近で見てそう思ったのだった。


 夜、野営中にミウは山菜のミソスープを作った。ラウは目の色を変えて食べる。グローは山菜のミソスープが気に入って、何度もお代わりをした。余った分は影の中にしまう。
「ホタルおばあちゃん直伝の味だよ。ホヨタ食堂創業当時からある人気メニューなんだ」

 ミウは嬉しそうに山菜のミソスープを注ぐ。ラウはぼそっと呟いた。
「ヨシュロウも食べたことあるんだろうか」
 勇者ヨシュロウもホタルもベハマ村出身だ。魔王討伐に赴く前に、山菜のミソスープを食べたのか、ラウは気にしていた。ミウは首を振る。

「ホヨタ食堂ができたのは、魔王討伐が終わったあとだって。ホタルおばあちゃんから聞いたことある」
「そうか。ヨシュロウは最後に何を食べたんだろうな」
 ラウの問いは、焚火の淡い光の中に消えて行った。
 3話
 ラウ達は危険区を数日間かけて進み、メオの城まで辿り着いた。城内には武装した魔物がいた。ラウは撃退しつつ進む。ミウは言い付け通りグローの中にいた。
 
 通路には生物らしき骨の残骸がそこら中に転がっている。グローが影を伸ばし鑑定する。
 骨の持ち主はゴブリンやオークだった。

「ホトケさんはそのままにしておく。ゴブリンにはゴブリンの、オークにはオークの神様がいるさ。急ぐぞ。敵が多い」
 
 最上階までラウは走る。最奥の扉は鍵がかかっていた。グローが影の身体を使って、扉の隙間を抜けた。内側から鍵を開ける。敵の追撃が届く前に、入ることができた。
 最奥の間には黒い棺が置いてあった。グローが鑑定する。魔法で封印された棺の中に勇者の反応があった。
「あの中におるぞ。これで仕事は終わりだのう」
 
 グローが封印を解いて棺を開ける。入っていたのは、左腕の人骨に首を絞められたアンデットマスターだった。
「封印を解いてくれてありがとう」
 アンデットマスターは、自分の首を絞めていた人骨を外して投げ捨てる。勇者の反応は投げ捨てられた人骨から出ていた。
「忌々しい勇者め。自らの命と引き換えにワシを閉じ込めおって。この怒り、どう晴らしてくれようか」
 
 ラウがアンデットマスターに攻撃を仕掛ける。アンデットマスターはアンデッド軍団を召喚した。ゴブリンやオークのスケルトン兵がラウに襲い掛かるが、軽々と撃破する。
 アンデットマスターが次なるスケルトン兵を召喚した。グローの鑑定に反応があった。ラウの攻撃が止まる。
 
 勇者の剣を持つ片腕のスケルトン兵。それは探していたヨシュロウだった。死して骨だけになっても、勇者の名を持つ者の力は絶大だった。ラウは攻撃をためらい防戦一方になった。勇者の剣を折られ地面に倒される。トドメを刺される寸前だった。
 
 ミウはグローの影を漁り、ヨシュロウに向けて水筒や石ころ、宝石を投げた。グローが大切な物だと言って止めようとしたが、ミウは懸命に投げ続けた。
 お弁当箱がヨシュロウの頭部に当たり、液体がこぼれる。山菜のミソスープだった。スープがヨシュロウの頬を伝い、口に流れる。ヨシュロウの動きが止まった。

「懐かしい。美味しくて暖かかった故郷の味。ホタル……あぁホタル……」
 アンデットマスターが怒りをあらわにする。命令に従わなくなったヨシュロウごとラウを攻撃する。ヨシュロウはラウを庇ってバラバラになった。ヨシュロウの骨と剣が、グローの影に転がる。
 ラウは激高し、素手でアンデットマスターに立ち向かう。だが攻撃しても致命傷を負わせられず、アンデットマスターは何度も復活する。グローがミウに言う。

「勇者の剣をラウに渡すのだ。ワレは勇者の剣に触れられない」
「あたし勇者じゃないからムリよ、できない」
「できる。お主は勇者ヨシュロウの子孫だ」

 グローは言い切った。ミウの頬を舐めたときに採取したDNA情報と、ヨシュロウの骨のDNA情報が合致している部分がある。ミウは勇者の血筋を引いていた。
 ミウは勇気を振り絞った。グローの影から飛び出し、ヨシュロウの勇者の剣をラウに投げる。ラウはそれを受け取り、渾身の力でアンデットマスターを滅ぼした。メオの城から魔物の気配がなくなった。
 
 ミウとラウが、ヨシュロウの遺骨を丁寧に拾う。グローを通じてヨシュロウの記憶が断片的に流れてきた。
 
 ヨシュロウは料理人だった。親友のタロウとホタルと懸命に働き、いつかは自分達の店を持ちたいと思っていた。
 ある日突然、ベハマ村で勇者選抜が行われた。ヨシュロウは勇者の剣を引き抜けてしまった。ほかの村人は誰一人として勇者の剣を触ることができなかった。

 ヨシュロウは勇者をやらされた。魔王の脅威が迫ってくる中、断ることはできなかった。
 ヨシュロウは魔王討伐に旅立つ前、親友のタロウに頼んだ。ホタルを守ってほしい。ホタルのお腹にはオレの赤ちゃんがいる。
 ヨシュロウは旅立ち戦った。魔物の脅威がベハマ村に及ばないように、ホタルを危険に合わせないように。
 
 ヨシュロウは傷付き、それでも戦って、アンデットマスターを封印したところで力尽きた。ホタルの笑顔を思い浮かべ、ヨシュロウの記憶は閉じた。
 
 ラウとミウはヨシュロウの遺骨をすべて拾い、手を合わせた。ミウはヨシュロウおじいちゃん、ヨシュロウおじいちゃん、と何度も何度もひいおじいさんの名を口にした。
「帰ろう。故郷に」
 ミウは大事にヨシュロウの遺骨を抱え、メオの城を後にした。

いらっしゃいませー、とミウの元気な声がホヨタ食堂に響く。客席は満員。山菜のミソスープは飛ぶように注文されていた。お客さんは笑顔だった。ホタル、ヨシュロウ、タロウの夢が詰まったホヨタ食堂は、ミウが引き継いでいく。
 
 ラウとグローは、ミウの働いている姿を見た後、次の遺骨探索へと旅立っていった。

 終

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