1話
 洞窟型のダンジョンで、ラウは魔獣の集団と戦っていた。グローが宝箱と金貨の山を見つけて影を伸ばす。ラウは足元から伸びた影を踏みつける。グローはすっ転んだ。

「違う。それじゃない」
「目の前にお宝があるというのに、お主に脳みそは入っておらんのか」

 グローは文句を漏らしつつ、洞窟内に影を広げた。一部の地面が青白く光る。ラウは魔獣の集団を撃退した後、青白く光る部分を素手で掘った。
 出てきたのは今にも脆く崩れそうな骨のカケラ。グローに鑑定させる。該当者……勇者と判明した。ラウは目を閉じ手を合わせる。

「やれやれ。一仕事終わったのう」
 グローはラウのマントの影に入っていった。 

 ベハマ村。
ラウとグローが喋りながら道を進む。

「勇者を納骨したというのにすぐ次の依頼に向かうとは。国家の犬め。お主の頭には仕事しかないのか。」
 お宝を持って帰れば当分は遊んで暮らせるというのに……というグローのグチを、ラウは完全に無視。きょろきょろと辺りを見まわしながら歩く。一軒の食堂の前で止まった。

 ホヨタ食堂。ラウ達が入ると女の子が元気な声で接客してくれた。名札には『ミウ=トルター』と書かれている。
「1名様ですか」
「2名様だ。ワレを忘れてちゃいかん」
「え、えっ?」
「お嬢ちゃん。喋る魔物を見たのは初めてかの。申し遅れた。ワレの名はグロー。影を操る者なり。恐い者ではないぞ」

 グローがミウに影を伸ばし、頬を舐める。
「きゃあああっ。ほっぺ舐められた」
「ありゃ。おかしいのう。犬などの動物は、信頼を得るために顔を舐めると聞いたんだが」
 グローの口を、ラウが無理やり閉じたが遅かった。店内で食事をしていた守衛たちに、ラウは取り押さえられた。

「ラウ=シマ。86歳。元勇者だそうだ」
 守衛の一人がミウに説明する。持っていた身分証と勇者の剣は、間違いなく本物だった。グローがニタニタ笑う。
 ミウの疑念は晴れない。身分証の年齢は86歳なのに、ラウの姿は20代にしか見えないし、ラウ=シマなんて勇者は知らない。学校の教科書に載っていた勇者は別の人だ。

 守衛達は謝罪してラウの縄を外す。ラウは仏頂面のままミウに聞いた。
「ヨシュロウ=ミシマという勇者の遺骨探索依頼で来た。ホタル=トルターさんはいるか?」
「ひいばあちゃん、ホタルばあちゃんは……」

ミウが案内したのは、食堂から少し離れた墓地だった。ホタルは1年前に亡くなっていた。ホタルの墓前でラウは歯を食いしばりながら手を合わせた。
「明日、遺骨探索に出る。ヨシュロウは必ず還す」


 夜、月明かりが入るホヨタ食堂。ミウは机に突っ伏しながらホタルの遺影を見ていた。グローが声をかける。
「あの仕事バカは寝ておって、ワレはヒマだ」
グローが食堂の壁で犬の影絵を披露すると、ミウの表情は多少明るくなった。ミウはグローに心境を吐露する。

「ホタルばあちゃんは亡くなる前、ヨシュロウさん、ヨシュロウさんって呟いてた。ひいじいちゃんの名前はタロウなのに、なんでだろ。ウワキでもしてたのかな。ホタルばあちゃん、何も説明してくれなかった」
 グローは影絵をしまい、ホタルの遺影を少しだけ見る。そしてミウに言った。

「お嬢ちゃん、知りたいのかい。なら――」