高校生活2日目にして、オリエンテーション宿泊研修初日。朝からジャージで登校した私達は、1時間ほどバスで揺られながら宿泊施設へ向かった。

荷物をそれぞれの部屋へ置くと、すぐに体育館のような場所に集められ、入学式と代わり映えしない話が始まる。
開始から30分も経っていないのに、退屈なことこの上ない。

「バスで爆睡だったね」

密かに聞こえてきた声は、隣に座っていた爽やかイケメンくんのものだった。

私と同じく、委員決めで白紙を引いた人。名前は――――何だっただろうか。

「あ……っと、見られてた?」
(カナメ)が隣で寝ちゃったから、他のヤツと話してたときにチラッとね」

末広な二重の、親しみやすそうな瞳が後ろへ流れる。つられた先で目が合ったのは、両サイドを刈り上げた黒髪の男子生徒だった。

「……かなめ、くん?」
桐谷(キリタニ)要です」

ペコリと会釈した彼を見て、私も慌てて頭を下げる。

「あ、椎名芙由です」
「うん、知ってる。(ミナミ)がそう言ってた」

そうだミナミくん! 白紙の爽やかイケメンくんは、南くんだ。

「南くんと要くんは同中なの?」

要くんのナイスアシストを心の中で称賛しながら、自然に南くんの名前を呼ぶ。あたかも初めから知っていたかのように。

「オレと要は、中学ってか小学校から一緒。な!」

再び後ろへと向けられた視線に、要くんが無言のまま頷く。

「へぇ、じゃあ私とカンナと同じ感じだね」

微笑んだ直後、前に座っていたカンナがこちらへ寄り掛かってきた。

「なになに? いま呼んだ?」

私より何倍も社交的なカンナが加わり、コソコソ話が一層盛り上がっていく。
要くんは物静かなタイプだが、南くんは見た目通りフランクで話しやすい。……なんとなくだけど、2人の関係性だけでなく、その空気感も私達に近い気がする。

2時間ほど続いた先生達のつまらない話の傍ら、すっかり打ち解けた私達は、昼食の約束をして一旦解散した。



「午後から選択授業のお試しじゃん、何にするか決めてる?」
「それ悩むよね」

カンナの質問に応えながら、賑やかな食堂を見渡す。
1年生のみの行事とはいえ、生徒だけでも270名以上の大所帯だ。4人で喋るならできるだけ静かな、長テーブルの端がいい。

「オレ、音楽だけは無理だわ」
「ウチもー! やっぱ春先生の美術かな」

2人の意見に要くんが頷く。個人的には、書道が無難なんだけど。

「ねぇねぇ、一緒にいい?」

私達が食事をはじめてすぐ、昼食トレーを持った3人組の女子が横に立った。その軽やかで明るい声に、カンナがノリよく応じる。
まだまだ空席があるなかで声をかけるということは、同じクラスだろうか。

「なに話してたのー?」
「選択どーする?って言ってたとこ!」
「へぇ。南くん達はもう決めてるの?」
「オレ? いや、やっぱこのあとの体験次第かな」

南くんの返答に、そうだよねーっと彼女達が笑顔で互いに見合う。
どうやら、目的は彼ららしい。

――――2人ともカッコいいもんね。