放課後、時雨くんを校舎裏に呼び出し、取り戻しのことを伝える。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「うん」
心臓の音が聞こえる。緊張しているのが分かる。
大丈夫だと自分に言い聞かせる。
何時も助けられているから、今度は私が兄さまを助けたい。

「兄さま、ちゃんと出来るよ」
『お前がしたいと思ったことをすれば良い』
兄さまはこういう人だ。一歩引いた所から私達を見守っている。
クールで格好良いと思う反面、私の意見を尊重するので、本当の思いを言えていないんじゃないかなって、心配になる。


この世の誰よりも大好きで、敬愛していて、世界中を探しても見付からない、唯一無二の兄さま。
ねぇ、兄さま。知ってる?お母さんから聞いたんだけどね、私と兄さまは小さい頃から似た者同士なんだって。
見た目も鏡写しみたいだから、実の両親でも判別するのは難しかった。着ている服で判別していたから、小さい頃はよく、髪型を少し変えて、お互いの服に着替えて入れ替えっこして遊んでいたよね。
そうしたらお母さん達も友達も、学校の先生だって私と兄さまを間違うの。
誰も、私達を見抜けなかったね。
ねぇ、覚えてる?
小学生の時、学校でハサミが必要になって買いに行った日のこと。兄さまだけお父さんと一緒に先に買って来て、私は後日お母さんと一緒に買いに行ったら、持ち手が同じ色だったんだよね。
それで、どっちがどっちか分からないからって、先生が名前シールを貼ってくれたんだよね。
でも、そんなのいらない!ってシール剥がしちゃって、そしたら兄さまも同じようにして剥がしていた。
「楽しかったね」
『ああ、そうだな』
表情は見えないのに、何故か微笑んでくれていると、そう思った。
時雨くんの勉強机の上に置かれていたのは、鏡と時雨くんが読んでいた本。
一応、儀式や占いをする時の礼装を着て来たけど、、、時戻しってどうするんだろう?
全身を覆い隠すような白色の服に金色の細かい刺繍が施されている。
「真央さんのその服装を見ていると、まるで天使が降り立ったような感じがしますね」
兄さまの礼装は色違いの黒色。
「は?真央が天使級な可愛さなのは当たり前だろ」
「あ、師匠。こんにちは」
「、、、」
「すみません」
確かに、この礼装って天使をモチーフにしているのかな?よく分からない。

「師匠が生きていた時の写真って、ありますか?」
「うん」
鞄から私と兄さまが写っている写真を取り出す。兄さまは写真が嫌いだから、あまり写っているのは見付からなかった。小学校の入学式とお誕生日の写真しかなかった。
「師匠のこんな笑顔見るの初めてです」
十歳のお誕生日の写真を見ながら時雨くんは言った。「そう思うと真央さんと師匠って、鏡写しみたいにそっくりですね。違うのは、、、髪型と服装くらいでしょうか」
「小さい頃はよく、入れ替えっこして遊んでたんだよ」
「似ているから出来る遊びですね。見分けられる自信がないです、、、」
『両親も見分けられなかったからな』

写真を洗面器に張った水に浮かばせ、時雨くんが何かブツブツ言っている。
「鏡を通して過去に干渉します」
その言葉に静かに頷いた。お守りを握り締め、大丈夫と自分に言い聞かせて、落ち着かせる。
そして、あの日のことを明確に思い出す。
明確に思い出せばその分、安定に過去に干渉出来るらしい。
「、、、央。真央!」
懐かしい声が遠くの方で聞こえる。白い光が包む。
「う、、、う〜ん」
目を擦って起き上がると少し見慣れない部屋が目に映る。
私の部屋なのだが、少し違う。勉強机が二つあったり、二段ベットだったり。
「、、、よう、眠り姫」
「あ、、、」
ずっと会いたかった人が目の前にいる。私と似た双子の兄さま。
「あ、、、兄さま!!」
嬉しくて、泣きそうになりながら兄さまに抱きつく。
「お願い!もう置いて逝かないで!私を一人にしないで!」
大粒の涙が頬を流れる。
「もう置いて逝かねぇから、、、泣くのはやめろ。悪かったな。辛い思い、させちまった」
時戻しは成功したのだ。
「ううん。良いよ。こうして会えて、、、抱きしめてくれたから。兄さま、ずっと前から同じ、温かい、、、」
「、、、ああ、お前も」
上着を羽織る兄さまは、とてもとても格好良かった。
「今日は休日だから、何処か行こうか。礼も兼ねて彼奴も誘うか、、、」
兄さまは年相応な服装で、身長も私より少し高い。

町を兄さまと並んで歩く。
たったそれだけなのに、心が踊り出すように軽い。
お母さんとお父さんも優しい。兄さまが死んじゃう前に遡って、あの悲劇をなかったことにしたから、家族四人揃って、兄さまもお母さんとお父さんとも仲が良い。二人は何も覚えていなかったけど、、、。
「どうした?真央。そんなに嬉しそうにして」
「兄さまと一緒に歩けるのが嬉しい!」
「オレも、嬉しいよ。だが、、、」
兄さまは顎に手を置き、本気で困ったような顔をした。
「真央に変な虫がくっつかないか心配だな」
「えへへ、兄さまがいるから大丈夫だよ!」
不意に、「はい、そこー、イチャつかないでもらえますか?恋人がいない僕に見せ付けですか?」という時雨くんの声が聞こえた。
「、、、本当にそっくりですね」
私と兄さまを交互に見比べて呟く。
「まぁ、双子だしな。お前、真央に手を出すなよ」
「分かってますよ。師匠がいる限り真央さんに恋人は難しそうですね」
「真央の恋人はオレだけどな」
さらっと爆弾発言落とした兄さま。顔が赤くなる、少し恥ずかしい。
「え、、、付き合ってたんですか!?」
「時戻し前にな」
「付き合ってはないけどね、、」
「じゃあ、今改めて言うから、返事を聞かせてくれ」
真剣に、でも優しく言った。
「真央、お前を愛している。オレと付き合ってくれ」
その告白の答えなんて、ずっと昔から決まっている。
「うん!」
そういうと、兄さまは幸福そのものの笑みを浮かべる。
本日、晴れて兄さまと恋人関係になれました!

夕食時、カランとお母さんのスプーンが落ちる。
「え、、、二人が付き合った、、、?」
「うん!」
「ああ」
お父さんに目を向けると、空いた口が塞がっていなかった。なんなら微塵(みじん)も動いていない。
「今日は赤飯の方が良かったかしら、、、」カレーを見て呟くお母さん。
「、、、玲央、予定より少し早いが、当主にならないか?」夏谷家の当主を勧めるお父さん。
「お前の霊力は俺より強くなっている。もう老いぼれは若い者に任せようと思う」わざとらしく腰をさする。
「老いぼれって歳じゃねぇだろ」


「兄さまは、当主になるの?」
「まぁ、跡継ぎだしな」
「嫌じゃないの?」
「、、、嫌じゃない。前の家は嫌いで、当主になる気なんかなかった。でも、今は継いでも良いと思っている」
「そっか!」
兄さまが夏谷家の当主。嬉しいな!
兄さまと同じ部屋。二段ベットで寝て起きて、すぐ隣には兄さまの勉強机。引き出しには同じ色のハサミ。
ずっと夢見ていた生活。あの日常も、今の日常も大切な宝物。
「兄さま世界一格好良いよ!明日は今日より格好良いんだろうな〜」
「真央もな。天使より可愛い」
壁に掛けられている時計に目を向ける。針は夜の十一時を指していた。
「さて、寝ようか」
「うん」
電気を消し、ベッドに入る。
「おやすみ、また明日」
「おやすみ!」
ワクワクして眠れないか心配だったが、数分で夢の中に落ちていった。
時は過ぎ去り、止まることを知らない。
あれから数年、高校生だった真央と玲央も今年二十歳になった。

今や(ちまた)で二人を知らない人はいない。
よく当たるという噂の玲央の占い。
お客さんにとことん親身に思いやりを持って接する真央。
これだけで話題にならない筈がない。
和風と洋風の入り交じった、近代日本文化を思わせるような、古めかしく小枠な木造建築の建物。
占いの館『アラタカ』

カランコロン。
心地良いベルが鳴る。
「こんにちは、いらっしゃいませ、お客様」
礼装に身を包んだ真央が出迎える。
「音が出る電子機器は占術の妨げになる為、マナーモードにするか電源を切って下さい。また、館内は禁煙となっておりますので、お煙草はお止め下さい」
扉を開くとそこはまるで異世界だ。静かで薄暗い館内にはアクセサリーに水晶玉、お守り、何故か一際大きなダルマが鎮座していたりと、様々な文化が一緒くたになったような品が所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい、何でも好きなやつを見て行きな。占いなら先に占うか?」
奥から姿を現した玲央は黒いローブを纏い、フードを深々と被る姿には、普段カジュアルな服装とは違ったオーラが漂う。
どちらも礼装に身を包んでいるので、何処か神々しい雰囲気を放っていた。
この世のどれが現実で、どれが幻想か、真央は未だ分からないが、自分達の能力が誰かの助けになれば良いと思った。
道は長く、何処までも続いている。
寄り道してもつまずいても、何時かきっと元通りの運命の箱に収まるのだから。

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