「あ、来た来た!」
「おっ!らっしゃいらっしゃい!」
「なんやねんそのノリは…」
「うふふ、いらっしゃい。」
「今年も来てくれましたね、新入部員さん。」
「いらっしゃい、クラリネットパートへ!」

 晴れてクラリネットを演奏できると決まった私が一番最初に思ったこと、それは…

(個性の渋滞が起きている…!)

 もちろん悪い意味ではない。けど、ありとあらゆる個性が渋滞しすぎていて、何が何だかよく分からない。多分、この癖の強さのおかげで、先輩たちのことはすぐに覚えられるだろう。

「まあ、自己紹介をしましょうか。私は安藤(あんどう)ゆかり、高等部三年生でパートリーダーです。よろしくお願いします。」
「俺は宮本(みやもと)勇雅(ゆうが)!高三!よろしく!」
「自分は仲島(なかじま)(たく)。高等部二年だ。」
三日月(みかづき)妃那(ひいな)です。高等部一年生です。」
「うちは新島(にいじま)美琴(みこと)!中三や。よろしくな!」
「俺は岩神(いわがみ)光琉(ひかる)!中二!」

 ——ここは個性のパラダイスなのか?

「じゃあ、あなたのお名前も教えてもらってもいい?」
「あ、はい。千鶴星那です。よろしくお願いします。」
(よし。何とか噛まずに言えた。)

 だが、ここで安堵するのはまだ早かった。

「えーっと、このパートでの掟について話すわね。」
「——掟?」
「ええ、掟。」
(は?)

 もう嫌な予感しかしない。何か上下関係等の話だろうか…

「自分の個性を大切にしなさい。自分のことを否定せず、自分のことを誇れるような人間になりなさい。これだけね。」
「え?あ、はい。」

 思わず拍子抜けしてしまった。

「そうだそうだ!自分らしく生きることが、一番大切だからな!」
「光琉、あんたちょっと…いや、とてつもなくうるさいわ。」
「えー。美琴先輩には言われたくないですよ…」
「はあ⁈あんたの方が充分うるさいわ!」
「ま、まあまあ二人とも…」

 急に戦いを始めないでいただきたい。妃那先輩が困っているでしょ。

「まあ、いつもこんな感じよ。光琉くんと美琴ちゃんが言い合いをして、妃那ちゃんが仲裁して、拓くんと勇雅と私はそれを眺めながら練習。」
「そ、そうですか…」

 何だかここに馴染める気がしない…

「ゆかり…ちょっといいか?」
「何?」
(勇雅先輩…?)
「拓が…」
「あ、例のダーク何とか状態か…」
(何それ…)
楽器(アンサンブル)たちに閉ざされし暗闇(ダークネス)よ…」
(いや、厨二病にしては特殊過ぎる。)

 もうだめだ。何も分からない…

「まあ、正直に言っちゃうと、個性を大切にし過ぎた結果ってわけね…」
「あ、あの…」
「なあに?」
「ゆかり先輩は何でそんなに『個性』を大切にしているんですか…?」
「あー。先輩たちが卒業するまでは、何となく息苦しい練習ばっかりしていたの。だから、自分自身を見失わないために、私が掟にした。」
「そう、ですか。」

 確かに。息苦しい練習ばかりじゃ上達はする訳がない。一理ある。

「まあ、これから頑張りましょうね!」
「…はいっ!」