「飽きた。」

 一人ぼっちの練習。流石に飽きてきた。

(先輩たちはみーんな合奏に行っちゃったし…何もやることがない…)

 先輩たちはみんなでコンクール曲の合奏をしているらしい。私たちは初心者だし、人数の関係もあって出られないらしい。だから…

「もう飽きた…」

 オーボエは家にあるから練習できないし、かといってクラリネットの練習も飽きてきてしまった。

「——あれ?もうお茶がない。」

 いくら初夏とはいえ、ここ最近は暑すぎる。そのせいでかは分からないが、お茶の減りが早すぎる。

「給水所に行くか…」

 ここ華月学園には、いくつか給水所がある。今いる場所から一番近いのは…

「アイスリンクの近くか…」

 正式名称は華月アイスリンク。冬のスケートの授業で使われる他、スケート部の人たちの練習場所でもあるらしい。

「行くか…」

 ♢ ♢ ♢

 着いた。けど…

「暑すぎる…」

 早く水を入れてしまおう…

「千鶴さん?」
「え?」

 そこに居たのは、いつもと違う服を着た有島だった。

「あ、有島か。綺麗だね、その服。」
「そうかな…?これ、今度の試合で着る服でね、これを着た状態でも上手く滑られるか確認していたんだ。」
「入部直後から試合が出れるなんて、羨ましいな~…うふふ、なんてね。」
「ふふ、スケート部は人が少ないからね。」

 いくら人が少ないとはいえ、入部直後の、しかも中等部一年生から試合に出られるのは冗談抜きでも羨ましすぎる。

「ていうか、その衣装って…作ったの?」
「うん。従姉弟のお姉さんに作ってもらったんだ。ここの高等部三年生。」
「そうなんだ。良かったじゃん、素敵な服を作ってもらえて。」
「うん!俺も頑張らないとね!」
「そうね。応援してる。」

 普段と違う有島は、どこかいつもよりも輝いている気がした。

「うん、ありがとう。千鶴さんも頑張ってね!」
「はーい。」

 少し立ち話をしているだけで、汗をかいてしまった。

(暑い…早く水を入れて、早く部屋に戻らないと…)

 水を入れようと、蛇口を開くと…

「…は?」

 水が異常なほどぬるい。暑さのせいか、水を求める人が多いからか…

「いくらなんでも…」

 食堂近くの自販機も、流石に売り切れているだろう。諦めたくはないが、暑すぎるのでこれ以上外にいるのは良くないかもしれない。

「まあ、すぐに戻れば大丈夫か…」

 ♢ ♢ ♢

「なーんだ。あったじゃん。」

 私の大好きなアップルティー。嬉しいことに、これでもかというくらい冷えている。持ち合わせもあったので、何とか買うことができた。

「よし、戻ろっと。」

 戻ったら“私も”頑張らないとね。