12

 蓮も左半身を前にする姿勢で身構えた。両手は依然として、牛舌掌を形作っている。
(先手必勝!)蓮はやや遠い位置にいるクウガへと、左手を突き込んだ。白い光刀(こうとう)が出現し、超高速でクウガの胸へと進んでいく。
 クウガは軽く跳躍。左にわずかにずれるだけで回避し、勢いを殺さず軽快な脚裁きで接近してくる。
 二人の距離が歩幅三歩分まで縮むと、蓮の両膝に前方への力が加わった。クウガが蓮の身体の後ろに白球を生み出したのだろう。
 膝に伴って前に行く腹部へと、クウガが右フックを撃ってくる。見切った蓮は左腕を突き出した。加えた捻りでクウガの右腕を弾き飛ばす。
(前より動きが見える。反射神経も上がってるんだ)
 静かな感動を覚えつつ、蓮は右手を龍爪掌に組み替えた。すると、右掌とその廻りが球状にぼうっと白く光り始めた。困惑するも、そのままクウガの頭に振るう。
 光の球がクウガの側頭に至った。その瞬間、クウガの頭は右へ加速。身体も引っ張られて盛大に地面を転がっていった。
(牛舌掌の時と同じ光を纏ってるのか)蓮は納得しつつ、攻撃範囲が拡張された右手を注視した。
 クウガはすぐさま立ち上がった。素早く構えて右拳を引くと、これまでで最速のストレートを放った。
 と同時、右手の軌道上に黒球が生じた。クウガの拳はそこで消え、蓮の背中に衝撃が到達する。蓮の後方の白球を利用したのだ。
 強い力に、蓮は耐えきれずにつんのめった。しかし転倒はせず、数歩進んで体勢をどうにか立て直した。
 正面に位置取るクウガが瞠目した。白神龍(ホワイトドラゴン)を纏った時の四肢の強度が、今や全身に伝播していた。
「悪いな、クウガ。俺は今なんか全然負ける気がしないんだ。俺はずっと、自分の為に八卦掌をやってきたけど、良いもんだな、誰かのために戦うってのはさ。とめどなく力が湧いてくる感じだよ」
 蓮が熱い感慨を口にすると、クウガは苦虫を噛み潰したような面持ちになった。
「ここでアキナ=アフィリエが生き延びれば、危険な生命体と能力が世界中に蔓延する! 取り返しのつかない被害が出かねないんだ! そうなった場合、お前はどう対処し、どう償うんだ! 答えろ、緒形蓮!」
 叱責するかのような様でクウガが声を張り上げた。蓮は、自分を睨むクウガから視線を逸らさない。
「お利口な主張をしているようで、お前はその実、俺たち非神人を見下してるんだ! 『超念武(サイコヴェイラー)の力を正しく利用できるのは神人だけ。非神人は未熟だから、超念武(サイコヴェイラー)を持ったら平和が脅かされる』ってな!
 こんな解決策もあるだろ! 世界中の人々に超念武(サイコヴェイラー)を広めてさ、こないだみたいな邪悪な奴らが現れても楽々で倒せるようにする! どうだよ! けなげで真面目で誰よりも優しい女の子も助けられて、一石二鳥の完璧な案だろ!」
 蓮の怒涛の勢いで熱弁を振るった。「蓮くん!」嬉し涙でぐちゃぐちゃのアキナが、感極まった風に叫んだ。