「死ぬほどお会いしたかったですわ、愛沢部長」

 優雅に礼をしてやると、

「なっ、なっ、なっ……」

 愛沢部長が、口をぱくぱくさせている。
 やがて、

「お、お前は誰だ!? 陽子か!? 千絵か!? 春奈か!? 叶恵か!? ■■か!? 風花か!? 美優か!? 明子か!? 瑠香か!? 理恵か!? あぁ、それとも――――……自殺した朝子か!?」








 ――――ぷっつん








 私の中で、何かが切れた。

 コイツ、私と同僚の4人だけでは飽き足らず、いったいぜんたい何人の女性を不幸にしてきたんだ?
 しかもコイツ、今、何て言った?
 自殺?
 は?

「…………■す」

 逃げ出そうとする愛沢を、キッシュ君と増援が押さえつける。
 私は、膝を折った愛沢を至近距離で睨みつけ、

「楽に死ねると思うなよ」

 愛沢に、ヘルメットを被せた。




   ◇   ◆   ◇   ◆




【Side 愛沢】


「――はっ!?」

 気がつけば僕は、真夜中の道路に立っていた。
 道路。道路だ。
 この街並みは……生前の日本?

 ――パァアアアアアアパパパパパッ!!

 突然の音に驚き、音の方を見る。
 真っ白な光。
 と同時、とてつもない衝撃が全身を襲った。
 くるくる、くるくる、視界が回る。
 街灯に照らされた街並みが回転する。

「ぎゃっ」

 どちゃっ、という音とともに、どうやら僕は地面に叩きつけられたらしい。
 意識を保てないほどの激痛。
 全身が熱い、熱い、熱い。
 いや、寒い。
 うすぼんやりとした視界の中、アスファルトの上でなお赤く照らし出されたものが見える。
 ……あぁ、僕の血だ。
 全身が寒くなっていく。
 怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い死にたくない死にたくない死にたくない!!




   ◇   ◆   ◇   ◆




「――はっ!?」

 気がつけば、僕は生きていて、何やら棒のようなものに縛りつけられている。

「「「「「一人はみんなのために!! みんなは一人のために!!」」」」」

「「「「「友愛を理解しない者に死を!!」」」」」

 僕を取り囲む気味の悪い連中が、僕の足元に火を点けた。

 熱い!
 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!
 やがて足の感覚がなくなったことに気がつく。
 息ができない。
 全身が炭化していく。
 狂乱する連中の顔が見えなくなった。
 熱い。
 死にたくない――




   ◇   ◆   ◇   ◆




「――はっ!?」

 また、気がつけば僕は生きていて、何やら台座の上に立たされている。
 僕の首に結ばれているのは……縄?

「愛沢部長」

 声がする方を見てみれば、エクセルシアが立っていた。
 狂気としか言いようがない笑みを浮かべている。

「どう? 私のこと、思い出してくれました?」

「助けてくれ」

「ダーメ。お前はこれから、毎日死ぬの。明けても暮れても死ぬの。毎時毎分毎秒ごとに、死んで死んで死に続けるの。私が飽きるまで死に続けるの。私、飽きっぽいから、まぁ1週間くらい頑張れば終わるんじゃないかな? 1週間といっても、この世界は3,400,000,000倍だからね。あぁ、狂うのは無しね。この空間では、貴方の精神は慎重に慎重を期して管理されているから、絶対に正気を失うことはないよ」

「助けてくれ」

「助けて?」

「助けてくれ!」

「貴方は、私や情報システム課のみんなが助けを求めてきたとき、ただの一度でも助けてくれたことがあった?」

「助けて」

「はいスタートぉ」

 縄が、ゆっくりと巻き上げられていく。

「ぐ、ぐげぇ……」

 ゆっくり、ゆっくりと呼吸ができなくなっていく。

「あ、が、ご……」

 苦しい。
 苦しい苦しい苦しい!
 死にたくない!
 いや、死ぬならせめて一思いに死なせてくれ!
 こんな死に方は嫌だ!!




   ◇   ◆   ◇   ◆




「――はっ!?」

 また気がつけば、僕は机の上で大の字になって縛りつけられている。
 机のそばには、ナイフを携えたエクセルシア。

「魔物肉の解体でちょっとは覚えたんだけど。愛沢部長、丁寧に切り分けてあげるからね」

「い、嫌だ……嫌だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」