「頭目ー!どこにいるんですか!」
「お(かしら)ー!!」 「乾鬼姫(かわきひめ)の旦那~!」

 今年も色づく大江山に星熊や茨木たちの声が響く。隠れている身ではあるが一つ物申したい。私は頭じゃない!

 この山で一番強い鬼は確かに私だ。けど、お前らを従えた記憶は全くないぞ!それと…誰だ私を『旦那』と呼んでいるやつは!黙って聞いてたがもう我慢できん…

「私は女だ!」

 声に出してからものの数分で見つかってしまった。私が言い返してくること知ってやっていたなこいつら…

「頭も諦めて認めれば良いのに~」
「誰が頭だ!私は群れるつもりなんて無いからな。」
「またまた~この山以外でも噂してますよ。『大江山の乾鬼姫』って。なんなら俺たちは『大江山四天王』なんて呼ばれてるらしいですよ!」

 満更でもない…というかずいぶんと嬉しそうだな。

 どうやら私は巷で『乾鬼姫』と呼ばれているらしい。なんでも、血も涙も無い女の鬼という意味だと。なんて失礼な名前だ!私だって血ぐらいドクドク流れてるし、情だってあるさ!

「とりあえず認めるかどうかはさておき、さっさと冬備えの準備しましょうよ。」

 冬備えねぇ…つい最近までは、そんなの獣のすることだと思っていたけど、そうも言っていられないらしい。

「なんだっけか、オンミョージだっけ?そいつら全員食えば前みたいに冬備えしなくても人襲いに行けるだろ。」
「勘弁してくださいよ。最近若い人間でかなりの強者が現れたらしいんですから。」

 オンミョージめ…面倒な冬備えためにもどうにかしなくては。なんとかして人間を食べれるようにしてやる。

 いつの間にか『四天王』らの言うことに従っていたことに気がついたのはもうしばらくしてからだった。