アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志)第一巻「運命の婚礼」(前篇)



 
 ダリウスの胸には忸怩たる思いが渦巻いていた。

 彼のひとり娘である近衛騎士団総指令であるエメラルダ、その婿で義理の息子となる国軍総帥であるブルース。
 よりにもよって武の要たるこの二人が国を離れている隙に、楼桑の奇襲があろうとはなんという不運だっただろう。

 いや、ヴァビロンはそこまで計算に入れて時期を選んだのかも知れない。
 大公夫妻の名代として、ブルースとエメラルダが親交のある草原の小国カナックの王太子の婚姻の宴に出席するのは、すでに三月(みつき)以上前から決まっていたのである。

 カナックでの華燭の典も終わり、今頃ふたりは帰途についている頃であろう。
 たとえふたりが健在だったとしても、この凶事からサイレンを護ることは不可能であったはずだ。

 結果から言ってしまえば、このふたりの不在が後のサイレン復興の大きな力となることになる。
 仮に今宵の戦闘で彼らが討ち死にしていれば、サイレンがもう一度国を興すことなどできなかったかも知れない。

 サイレンの長き忍従生活からの復興戦における、ブルースとエメラルダの存在は欠かせないものだったからだ。

『ルークさまを、再びサイレンの大公へ』
『青き雷神ある限り、サイレンは屈しない』

 これがヴァビロンによる苛酷な占領期間を耐え、その後の復興戦を闘うサイレンの民たちの合い言葉となった。


 それでもいまのダリウスは思わずにはいられない、サイレンの青き雷神と黄金の雌龍という、国の最高武力が揃っておれば、《《もしかしたら》》と。

 ダリウスは歯噛みする思いであった、なんといってもふたりは自分の娘と義息(むすこ)でもあるのだ。
 武人として最も忠を尽くさねばならぬ瞬間に、主の命を守れもしない状態であるのが後悔されるのである。

 特にカナックでの婚礼に、そのふたりが出席しなければならぬ特別な理由はなにひとつなかったのだ。
 大公夫妻の臨席が無理なのであれば諸国でも有名な、武人夫婦であるブルース殿とエメラルダ殿を是非にもお招きしたい。
 ただカナック側が、そう言ってきただけなのだった。

〝もしや、それさえもがライディンの描いた絵図であったのか?〟
 恐ろしい考えが、ダリウスの頭の中で反響する。

 しかしいまはそんな繰り言を考えている暇はない、この危機をどう乗り越え幼い公子と国とを支えてゆくのかが最重要懸案である。

 迷路のような地下道は永遠に続くかと思われたが、五(カルダン)半(約五時間半)ほど歩いた頃に、やっと終点に辿り着いた。

 こんな狭い迷路を休むことなく歩き続けた一行は、疲労困憊という有り様になっている。
 幼いルークは、途中からダリウスを含む五人が代々(かわるがわる)おぶって歩いた。

 そこは人が十人以上集まれるほどの広さがあり、天井も高かった。

 一行の前には、頑丈そうな木製の扉がある。
 太い閂が両開きの扉を封印している。
 そうして向かって右の扉には、なにやら細かい細工が施された金属がはめ込まれていた。



 

 ダリウスは懐から三本の鍵を取り出すと、三つの金属に穿たれている鍵穴にそれぞれを差し込んだ。

 鍵穴の下には、各々大きな丸い絡繰りが取り付けられている。
 その丸い金属は三重構造になっており、ダイヤル式に回転するようだ。
 ダイヤルには文字なのか、記号なのか判然としない細かい刻印がなされている。

 彼は躊躇うことなく真ん中のダイヤルをクルクルと回し、三つの目盛りらしきものを合わせると、差し込んだ鍵を左に一回転させた。

〝ガチャッ〟

 重々しい音が響いた。
 どうやら一つ目の鍵が開いたようだ。
 同じ要領で、他の二つの鍵を左、右の順で解錠してゆく。
「よし、閂を引き抜き扉を押し開けよ」
 そう指示を出す。
(ダリウスの説明によるとこの解錠の順番も決められており、間違えれば解錠機能はそこで失われ、二度と元に戻すことはできないらしい)

 兵がふたり掛かりで扉を押すと、少しずつ外に向かって開かれてゆく。
 押し開かれた扉の先も、同じような暗い地下道であった。

 扉を開ければ外に出られると期待していた兵士達に、微かな落胆の気配が漂った。
 しかも扉の先の地下道はより狭く、自然に近い洞窟そのものといった形状をしている。

 ダリウスは三つの鍵を全て抜き取り、ダイヤルを無造作に回すと、より狭い洞窟状の通路へ出て兵に扉を元通りに閉めるように命じた。

 扉がぴったりと閉め切られると同時に、ガチャガチャと金属が触れあう音がした。
 どういう仕組みか分からぬが、機械式の絡繰りが再び錠を掛けた音なのだろう。
 扉の外側には鍵穴や取っ手どころか、ほんの些細な突起すらない。
 開くのは内側からのみで、こちら側からはなんの操作もできないようである。
 完璧な脱出専用の地下道だ。

 万が一なに者かが隠し通路を終点まで辿り着いたとしても、扉を開けるのは不可能である。

 どうしても開けたいのであれば、この分厚い木製の扉を壊すしかない。
 破城槌でも使用すれば突破できるだろうが、狭い地下通路を延々と運ぶことなどできるはずがない。

 事実上この扉を一気に破壊するのは、非現実的な行為だった。
 こつこつと時間を掛け、少しずつ破壊作業をする以外に方法はない。




「さあ、もうすぐ外へ出られるぞ」
 ダリウスは兵たちを励ますようにいった。

 その言葉通り、二百ガイル(約二百米)ほど自然の洞窟のような通路を進むと、前方から涼やかな空気が流れてきた。
 外気である。
 一行はそれを感じた瞬間、知らずに急ぎ足になっていた。

 出口は極端に狭くなっており、這いつくばる様な姿勢にならなければならない。

 まずは偵察のために、近衛師団百人隊長のケルンが外へ出た。
 暫くなんの反応もない。
 辺りのようすを伺っているのであろう。

「ダリウスさま、周りには誰もおりません。出て来ても大丈夫です」
 みなが不安を抱き始めた頃、ケルンの声が聞こえてきた。

 その言葉に安心したかのようにダリウスは、少年を後ろから抱き抱える格好で、外界へと出てゆく。
 それに続き、兵士達も次々と外へ這い出した。

 外から通路の出口を見ると、それが城内へ続く秘密の抜け道へと繋がっているとは、到底見えなかった。
 辺りの枝をかぶせてしまえば、そこに穴があることさえ気付かれないほどである。
 どうやらここは、どこかの山の中腹辺りだと思われた。

「一体ここはどこなのだろう・・・」
 兵士が口々に、自分たちのいる場所がどこなのかをいい合っている。

「爺、ここはどこなの」
 少年の問いにダリウスは、そこにいるすべての者に説明するように答えた。

「ここは黒森山の中腹でございます」
「えっ、いつもお城から眺めている黒森山なの」
 少年はびっくりした顔で、辺りを見回した。

 黒森山とは、城の北西四ガロス(約四㎞)ほど離れた所にある、公城『星光宮』から最も近くにある、高さ九百ガイル(約九百m)程の山である。

 一年を通じて常緑樹に被われて、常に黒々と見えるために、黒森山と呼ばれている。
 高さの割には嶮しいのが特徴であった。

 地下通路が途中からかなりな角度で昇っているように感じられたのは、錯覚ではなく当然のことだったのである。



 
 伝説の彼方に語り継がれる古の大帝国〝アトナハイム〟の煌都の地中深くに張り巡らされた〝地下迷宮・ジュロウズガルド(※)〟には遠く及ばぬまでも、かなりな規模の抜け穴式通路と言えた。
(※ジュロウズガルド、伝説によればそれは地下都市と言ってよいほどの規模を誇り、小国の王都に匹敵する面積があったという。上級魔道の神咒が幾重にも施され、仕掛けや罠だらけの十以上の巨大迷路が互いに繋がり合い、そのすべてを正式な順序に沿って通り抜けなければ、目的地には辿り着けなかったらしい。この迷路の全容を知っているのは〝太神官ラー〟の名を持つ者、唯ひとりだと言われている。そのラーでさえ道を抜けるには二旬(四週間)は掛かったという。一千年以上の歳月を掛け建造されたその地下道は、もはや抜け道の機能をなしてはいなくなった。代々継承されてきた太神官ラーという存在が世界から途絶えて以降、誰もここを抜けることが出来ないのである。興味深い説によれば、その後の地下迷宮は太天位級の魔道士や、魔物・神獣などの人知で始末することの出来ないモノを、処分するために使用されていたらしい。神獣の王たる〝飛翔龍〟でさえ、ここからは脱出できなかったという)

「さあ、山を越えて一刻も早くトールンから離れるのじゃ」
 ダリウスの言葉に急かされるかのように、一行は歩き出した。

 山頂へ続いていると思われる、道ともいえない茂みの間を辿うように登ってゆく。
 深い藪に手を焼きながらも、なんとか一行は山の頂へと辿り着いた。

 それまで生い茂った木々に遮られていた視界が、一気に開けた。
 眼下に公都トールンの街が、一望の元に見渡せる。

 トールン市の中央南部に広がっている公城・星光宮は、その殆んどを炎に包まれていた。
 夜闇の中に赫々と炎を吹き上げ、近隣の国から宝石の如き美しさと讃えられた星光宮が、いまは見る影もなく燃えている。


「お城が燃えている・・・」
 少年は放心したような表情で呟いた。

 ダリウスは少年の手を、なにもいわず強く握りしめた。
 兵士達はみな涙を流しながらも、必死で嗚咽を堪えている。

 闇の中に焔を吹き上げ燃え落ちてゆく城のあり様は、まるで幻想の中の風景のようであった。

「きれい・・・」
 少年の唇から、無意識に言葉が漏れた。
 大きな瞳から一筋、透明な雫が頬を伝う。

(ごう)

 ひときわ火勢が膨れ上がり、星光宮が完全に炎の中に崩れ去った。

〝滅びこそが真に美しい〟

 それは確かにひとつの国の滅亡の瞬間であった。

 少年はこの時の光景を、死の瞬間が訪れるまで忘れることはなかった。

 やがて大陸中に覇を唱え、聖王と呼ばれることとなる男の、これが苦難と栄光に彩られた、最初の試練の夜となった。


 聖暦二千二百十八年閏二月・白の月。
 ルーク・フォン=サイレン、この時六歳。
 早春の夜明けまでには、まだ一(カルダン)半はあると思われた。


 

 
 さて物語は暫く幼いルークから離れ、時を遡って彩蓮大公国と、楼桑王国との係わりを描くこととなります。

 どうやってふたつの国は蜜のように睦みあい、やがては離反し、此度のサイレン滅亡という悲劇へと至ったのか。
 その物語を語り終えて後に、本編である真の『聖大陸興亡志』という壮大な歴史絵巻が始まります。


 時代の主役たちの活躍を、一刻も早く読みたいと言う期待を裏切るようで心苦しいのですが、話しは《《黎明期前》》のサイレンをしばし語らせていただきます。

 サイレン滅亡後に幼きルークの試練と、のちの三国鼎立時代を飾る主役たちとの交流が始まります。
 なんといっても、ルークがサイレンを再興させる切っ掛けとなるのが、オーディンとの関係です。
 彼の存在なくしてサイレン復興も、三国鼎立もあり得ません。

 群雄割拠する戦国時代の聖大陸が、突如現れた『覇帝・オーディン』に瞬く間に席巻され、悲願の大陸統一まであと一歩となるが、寵愛する家臣の謀叛に遇い死去してしまう。

 やがて混乱のアンドロームは梟帝ルキアが君臨する『ラインデュール連合帝国』、聖王ルークの治める『聖サイレン国』、希代の英雄ノヴァを擁する『ライトファーン太陽王国』による三国鼎立時代へと集約されてゆきます。

 この三国がそれぞれ覇を競い合うという、長い物語まではいま少しの時間を費やすことをご容赦ください。





「殿ーっ、殿はどこにおられる。殿ーっ」
 星光宮の大回廊中に轟くような、大音声(だいおんじょう)が響き渡った。

 正しく〝雷鳴〟と呼ぶべきほどの大声である。
 しかしその声には、若々しく爽やかな響きも含まれていた。

 サイレン公国近衛騎士団の第三隊司令、ブルース・ヴァン=デュマ伯爵が、回廊を大股で歩きながら怒鳴っているのであった。

 短く刈り込んだ漆黒の髪は針金のように固く、眉も太く目も大きく鼻までがでかい。
 その黒曜石のごとき真っ直ぐな眼光には、睨まれただけで身が竦むほどの迫力があった。
 頑丈な顎に意志の強そうな引き結ばれた唇、人並み優れた長身は分厚い筋肉に包まれており、すべてが武骨そのもののような風貌の青年である。
 まるで岩が歩いているようだ。

 戦場では蒼一色の甲冑を身に纏っているさまから、誰言うと知らず〝サイレンの蒼き雷神〟と渾名されている。
 まだ若いながらも、その名は徐々に諸国に知られ始めていた。

 そんな武人そのものといった大男が、滅多に軍人が出入りすることもない内宮(所謂後宮の意)を歩き回りながら、大声を張り上げているのである。



「ええーい、一体どこに行かれたのやら。殿―っ、お返事下されい」
 苛々としたようすで、大回廊から内宮へと続く通路へと進んでゆく。

 その大股な一歩一歩は、まるで地鳴りでも起こしそうな雰囲気がある。
 そこでブルースは、前方の柱の陰に隠れている人影を見つけた。

「そこに居るのは誰だ」
 雷の如き大声を張り上げながら、ブルースが近づく。

 内宮付きの女官のお仕着せを身に着けた、十四、五歳位と思われる若い娘が、身を縮め青ざめた顔で立っている。
 目鼻立ちは美しいが、まだ幼く素朴な田舎娘という方が相応しいか細い女官である。
 いや、年齢的にまだ女官見習いなのかも知れない。

「おい女、このような所に隠れてなにをしておる」
 若い女官は俯いたまま、なにも応えようとしない。

「まあよい。それよりおまえ、殿をお見かけせなんだか」
 相変わらず女官は黙ったままである。

「黙っておらずなんとか答えよ。口が聞けぬ訳ではあるまい。殿の、フリッツさまの居る場所を知っておるのかどうかと聞いておるのだ」
 ブルースは焦れたのか、さらに大声を上げる。

 別に本人は怒っているつもりはない。
 しかし話しかけられている娘には、自分が怒鳴られているように感じられるのであった。

 女官の顔はますます青ざめてゆく。
 ガタガタと身体が小刻みに震える。

「ええーい、苛々する娘だ。早う答えぬか」
 更なるブルースの言葉に、女官の目に涙が浮かび始めた。

〝涙? なぜ泣くのだ――〟
 大男の顔に困惑の色が浮かんだ。

〝俺がなにかしたというのか?――〟
 自分の理解の範疇を越えた相手の反応に、どう対処すればいいのか迷ってしまっていた。

 無骨な若き青年軍人と、少女から娘へと変化していく途中の幼き女官との間に、奇妙な緊張感が張り詰めている。



「か弱き女を相手にさような大声を出して、一体なにをしておいでなのですかブルース殿」
 その緊張感を破り、涼やかな声が前方から聞こえた。

「むっ」
 ブルースが声の方に目を移すと、そこには一人の女騎士が立っていた。

 サイレン公国軍の中でも最精鋭と言われる騎馬軍団・聖龍騎士団の、上級将校の軍服を身に着けている。

 スラリとした身体は、並の男よりも頭半分ほどは高い。
 女としてはかなりの長身である。
 軽くウェーブした金色に輝く髪が、背中で揺れている。

「あっ、エメラルダさま・・・」
 その人影を目にした途端、女官は瞳から大粒の涙を溢れさせ、頽れるようにその場に座り込んだ。

「さあ、もう安心なさいフェリシア。なにも泣くことはありませんよ」
 軍服姿の女エメラルダが、優しく微笑みながら、女官フェリシアに手を添えて立ち上がらせる。

「もうよいからお行きなさい、恐い大男はこのわたしが叱っておいてあげますから」
 そういわれた若い女官は、涙で濡れた純朴そうな瞳で上目遣いにおずおずとブルースを見ながら、内宮の奥へ去っていった。


「おい、いまの女はなんで泣き出したんだ。俺は殿のお姿を見掛けなかったかときいただけだぞ」
 ブルースがエメラルダに、不思議そうに尋ねる。

「ただきいただけですって。あなたのような無骨な大男が、あのような声で話しかけたら、普通の娘ならみな怒鳴られていると思い泣き出してしまうのが当然ではないか。お前はなにもわかっていないようだな」
 エメラルダは呆れたように、ブルースの顔を睨んだ。

「まったく女という奴は、どうにも扱いにくくて困る・・・」
 ブルースは頭をごりごりと掻きながら、ぶつぶつと不満げに呟く。

「おう、そうだ。エルダ、殿がどこに居られるか知らぬか」
 その言葉を聞いた途端、エメラルダの顔付きが一気に変わった。

「エルダなどと、子どもの頃の愛称を使うのはやめていただきたい。いまは聖龍騎士団の第二大隊の一角を預かる身。マクシミリオン将軍と呼んでもらおう」
 エメラルダが食ってかかる。

 サイレン公国の軍事部門の最高責任者、ダリウス・サウス=マクシミリオン元帥兼筆頭上級大将の一人娘、エメラルダ・サウス=マクシミリオン子爵。

 それが彼女の正式な名前である。



「そのようなことどうでもよかろう。生まれたときからの遊び友達ではないか」
「いくら赤子のころからの幼馴染とはいえ、お前は近衛騎士団の司令で、わたしは聖龍騎士団の副指令。しかもこの場は星光宮内だ、それなりの礼儀は持って頂きたい」
 エメラルダは頑として引かない。

「これだから女って奴は厄介な・・・」
「なにか仰られましたか」
 エメラルダの凛とした瞳で睨まれたブルースは、背筋を伸ばした。

「サウス=マクシミリオン将軍、殿のお姿をお見かけなさいませんでしたでしょうか」
 わざとらしく、堅苦しいいい方をする。

「知っておられれば、是非にもご教示頂きたい」
 そういうブルーに対して、エメラルダがニヤリと笑みを浮かべた。

「さあ、知っておるには知っておりますが、最低でもあと一(カルダン)はブルースに居場所を教えるなとのお言い付けなので、お答えすることは出来かねますが」
 エメラルダが澄ました顔でそうこたえると、今度はブルースの表情がみるみるうちに変わってゆく。

 まるで茹で上げたボルボル(蛸に似た頭足類で、淡水に棲息する十二本の足を持つ軟体水棲生物)と見あやまらんばかりに、真っ赤に顔が染まっている。

「それでは殿は俺がお探ししておるのをご存じで、知らぬ振りをしておられるのか」
 ブルースがエメラルダに詰め寄る。

「あんな大声で探し回れば、誰だろうと気付かぬ者のいる筈がなかろう。辺り一帯に聞こえておる。――して殿に用とは急ぎなのか」
「急いでいるからこうして俺自らが探し回っておるのだ。楼桑国からの急使が先程到着した。その使者が問題なのだ」
 ブルースが一気に捲し立てる。