納得できないと表情で訴える真白には気付かない振りをして、晨は放置していたタブレットとペンを手に取った。

 ペンが液晶を滑る。

 スケッチブックに描いていた時は、鉛筆を走らせる音が好きだった。

 デジタルで描く時は、ペンが液晶に当たった時に鳴るだけで、心地良さは感じない。

「今は何を描いてるの?」

「何を描こうか、考えてる」

「……そっか」

 それから訪れる静寂。

 真白はおしゃべりな印象があったが、意外と無言の時間を苦に思わないようだった。

 一緒に過ごす時間が教えてくれた、意外な一面だ。

 こつんこつんと、ペンで液晶を突く。

 それで何かが浮かぶわけではないが、考え事をしている時の晨の癖だ。

 真白も慣れたのか、そんな晨には話しかけずに、窓の外を眺めて、カフェオレを飲んでいる。

 真白は名前のように、色白で、無垢な見た目をしている。

 横顔を見ていて、そんなことを思ったからだろうか。

「……雪」

「え?」

 自分でも意図しなかった言葉に驚いて、真白と同じようなきょとんとした表情を浮かべた。

「どうして、晨までびっくりしてるの?」

 真白の笑い声に、晨は恥ずかしくなり、首の後ろを掻く。

「いや、なんとなく真白を見ていたら、雪が思い浮かんで……」

 晨に特別な意図もなかったし、深い考えがあったわけでもない。

 言うなれば、単なる世間話に近かった。

 それなのに、真白にとっては違ったようだ。

 大きな目を更に大きくしたかと思ったら、あっという間に涙が溜まり、瞬きに弾かれて零れた。