こういう時の晨は決してふざけているわけではないし、おかしくなったわけでもない。

 それどころか、いつものふわふわした雰囲気からは想像できないような、キリッとした空気をはらむ。

 真白がそんな晨をどう見ているかはわからない。

 でも、こうして正面から向き合ってくれる。

 それは晨にとって、とても懐かしい感覚だった。

 晨の独り言に真面目に耳を傾けてくれたのは、これまでにたった一人しかいなかった。

 そういう存在は、もう現れないと思っていたから、真白が耳を傾けてくれた時は不思議な感じがした。

「真白は変わってる」

 晨の言葉に、真白は吹き出した。

「晨に言われたくないよ」

「心外だな」

「それで? 蜃気楼と幻はイラストに関係してるの?」

 晨は腕を組むと、長い人差し指で唇に触れて、窓の外へ視線を移した。

「空を、描きたい」

「うん」

「でも、青空でも夕暮れでもない。月も星も出ていないし、太陽もない。そんな空はどんな色をして、何が浮かんでるのかな」

 隣の真白も腕を組んだのが視界の端で見えた。考えようとしてくれる。こんなにも抽象的なことなのに。

「その空を見ている人は、存在するの?」

「ああ、なるほど」

 晨はそう呟くと、ふらりと立ち上がり、仕事部屋へ向かった。

 その姿を見て、真白が微笑んだことに気付かず、晨の意識はすでにイラストに向かっている。

 いつの間にか、そんな光景がよく見られるようになっていた。