「公女とはいえ、合同討伐訓練中は上級生やリーダーに指示を仰ぐべきでしょう。
今回はたまたま上手くいったからいいようなものの、何かがあってからでは遅いんです。
勝手な言動は慎んでいただきたい」
「まあまあ?」

 家格君の靴の汚れ話はもういいの、金髪君?

 それに金髪君てば、私はうちのリーダーに従って指示を出したのだけれど、もしかして視力と聴力が弱くて状況把握ができていなかったの?
尻餅をついてから自分の周りにだけ防御魔法を展開して特に何もしていなかったから、てっきり状況を観察しているものだと思いこんでいたわ。

 だとすると……あらあら、何という事でしょう!

 ハッとして彼らのお話をバックミュージック代わりにしつつ、作業をしようと工具箱を開けた手を止めてしまったわ。

 身体的な問題に加えて、そもそもこの子達の実力が4年Aクラスの平均的な実力なら、この森に留まるのはまずいのではないかしら?!

 思わず口を開こうとしたけれど、考え直す。

 そうね、やめておきましょう。
そもそも今日は訓練だもの。
何かがあるのが普通だったわ。

 お婆ちゃん、若者の芽を潰すところだったのね。
危ない、危ない。

 なんて思っていたら、今度は金髪ちゃんが胡座をかいた私の正面に仁王立ちして腰に手を当てて胸を張ったわ。

「リム、このグループは私達と違って手慣れているのは当然ではないかしら。
Dクラスは討伐や食料調達をするしか能のない底辺のクラスだもの。
公女も私達が劣っているわけじゃないとわかってらっしゃるはずよ」

 そうね、劣っているなんて思っていないわ。
実力不足なだけよね。

 わかっているわ、とにっこり微笑んで意思表示よ。

「ニルティ様もリムもわかっているでしょう?
結局討伐したのはミナ様よ。
ねえ、ロブール公女。
おわかりでしょうけれど、魔獣の討伐で無事に過ごすなら生活魔法くらいしか使えない、魔法具頼みの貴女では危ないわ。
大して役に立てないお荷物も同然の貴女や実力不足な他の2年生は何をしても活躍した事にはならない。
そうでしょう?」
「まあまあ?」

 何だか金髪ちゃんの雰囲気が必死に絡もうとする毒の無い赤ちゃん蛇みたいね。

 それにしても、どうして精神作用系に特化した闇属性の魔法を使っているのかしら?
これは精神感応魔法ね。

 自分と同調させようとする時に使うような、相手の精神を攻撃していくタイプの魔法よ。
使い方にもよるけれど、魅了魔法とは違って好意を持たせて自主的に従わせ、そこに快楽を生じさせる魔法ではないの。

 でもわからないようにしてあるけれど、本来の魔力量は私の方がこの子を凌駕しているわ。
一般的に精神に作用させる魔法って、お互いの魔力量の差が影響するのよね。

 分かりやすく言うと、そうね。
中位以上の魔獣がよく放ってる威圧みたいなものね。
人でもできる威嚇とは別物よ。
災害級と呼ばれる魔獣や聖獣ちゃん達クラスの威圧なら、時に失神や最悪はショック死を招くから、怖いのよ。

 この魔法は威圧のようにあからさまな恐怖を与えるものではないけれど、そんな感じで精神に作用させようとするのが攻撃的なの。
突き詰めた精神魔法に隷属魔法もあるわね。

 魔力量が多ければ魔法の使用者は有利だし、対象者の方が多ければ不利ね。

 不利な状況を埋めるのが使用者の魔法の熟練度なのだけれど、この子の魔法は雑だから困ってしまうわ。
今まではたまたま相手より魔力量が上回っていたんでしょうね。
とっても得意顔よ。

 仮に魔力量が私より上回ったとしても、この程度の雑な魔法なら対処法を心得ている私には効かないのだけれど、どうしましょう?
上級生のプライドもあるでしょうし、かかったふりでもしようかしら?

 でも何をさせたいのかしらね?
さっきからトンチンカンな発言ばかりで、若者の主張が理解不能だわ。
これが噂のジェネレーションギャップ?

 確かにこの子の言う事も一理あるのよ?
学業よりも生きる糧に重きを置いているクラスなのは否定しきれないもの。

 でもどうして活躍にこだわるのかしらね?
今は全員が怪我を最小限にしてこの森を出る事に重きを置いた方が良いのではない?