「せっかく降ったのに、全然積もらなかったですね」

 雪は降った。でもたった半日だけ。

「初雪でいきなり積もるなんて、滅多にあるもんじゃないわよ」
「そうなんですね。僕はてっきり、いきなりどかーんって来るのかと思ってました――って、頭撫でないでくださいっ」
「くくく。坊やはかわいいのぉ」
「坊やって言わないでくださいよっ」

 どうせ僕は雪国のことなんて、何も知りませんよーだ。

 だけどたった半日でも、融雪装置の実力は確認できた。
 装置の上に雪が落ちると、すぐに溶けて蒸発する。
 他の場所だと溶けはするけど、蒸発はしない。そのうちうっすら白く染まるようになったけど、融雪装置の上はそんなことも一切なく。

 それに、融雪装置のある通りはほんのり温かくて、外出時にも震えずに済んでいる。

「その融雪装置ですが、温度調節が可能であれば暖房装置としても使えそうですね」
「そう! そうなんですフレドリクさん。床暖房とかできそうですよね」
『床暖房? デューよ、それはどういったモノか?』
「えっと、それこそ融雪装置を室内に敷いて、足元から温めるってモノです。融雪より温度は低くてもいいかもしれませんね」
『おぉ! 寒い地方ならば、喜ばれる便利魔導装置であるな』

 温度調整……そうだ。

「ヴァルゼさん。温度を逆に低くすることはできますか?」
『ん? 当然であろう』

 だったら、冷房も作れるんじゃ!
 プレートじゃなく、扇風機のようにしてもいい。
 羽を自動回転させる術式と、空気を冷たくする術式を組み合わせれば、冷風機になる。
 それに冷蔵庫だって夢じゃない。

「――という感じで、暑さ対策の魔導装置なんかもどうでしょう? 小さな庫内を冷やすことができれば、夏場の食料が傷むのもある程度は防げます」
『ほほぉ。れいぞーこなるものか。くく、面白い。実に面白いぞ! 他にアイデアはないか、デュー』
「はい。えーっと……あ、冷風が可能なら温風もいけますよね。ルキアナさん。髪を洗った後、乾かすのが大変だったりしませんか?」
「え? きゅ、急じゃの。そりゃ大変よ。この長さだもん」

 ルキアナさんの髪は、腰まで伸びている。
 僕だと暖炉の傍にいればすぐに乾くけど、彼女のように髪が長いとそうもいかないだろう。

「温風で髪を早く乾かす魔導具とかどうですか? 髪が濡れたままだと風邪だってひきやすいですし」
「そうじゃな! 髪が乾くのが遅くて、寝間着が触れるわ、眠くてもベッドが濡れるから寝れないわ、すっごく大変じゃ。それが解消される魔導具は、素晴らしいと思うの!」

 ベッドが濡れる……そうだ!
 布団乾燥機もいいな。電気毛布みたいなのだっていける!

『いぃ。いいぞ! 魔導具研究者としての血が騒ぐ!』
「ゴーストって、血が流れてたっけ?」
「ル、ルキアナさん。はは……」

 流れてるのかな?

 ヴァルゼさんはやる気満々だ。
 しばらく採掘をストップさせていたけど、融雪装置のおかげで冬場も作業ができるだろう。
 組合はそのつもりでいるようだし。

「まずは今ある魔導石でドライヤー……えぇっと、髪の毛を乾かす魔導具を作ってみませんか? それから床暖房か、電気あんかとか」
『ほぉ。既に商品名まで考えておるのか』
「し、試験運転ならいつでも言って。すぐに髪を洗ってくるのじゃ」
「はい。まずは形や安全性を考えなきゃいけませんので、完成したときにはよろしくお願いします」

 形は決まっているようなものだけど、この世界で、そして魔導具としての安全性は考えなきゃならない。

 なんだかちょっぴり楽しくなってきた。
 前世の知識も使って、どこまで魔導具が作れるか。

 できれば高価なものにしたくない。
 低コストで、一般市民でも手が出せる道具にしたい。

 たくさんの人が必要とする魔導具に。
 そうすれば魔導具の需要はもっともっと広がる。
 未だと冒険者や一部の貴族しか手にとれない品物だしね。

 需要が高まれば大量生産もできる。
 大量生産できれば町の収入も増えて、豊かになる。
 町が豊かになれば、人も自然と増えるだろう。

 父上が幼かったころには、この町は活気に満ちていたそうだ。
 そのころを取り戻せる。
 
 いや、取り戻して見せる。

「ヴァルゼさん。ドライヤーの形について、まずは話し合いましょう」
『うむ。どうせなら使う者の意見も聞こうではないか』
「わ、私?」
「そうですね。どんな形だと持ちやすいかとか、そういう意見を聞かせてください」
「わ、わかったのじゃ」
「では自分は、周囲の巡回にでかけてきます」
「はい、いってらっしゃいフレドリクさん。お気をつけて」

 それぞれがそれぞれの仕事へと向かう。
 さぁ、やるぞぉ。